24.悪役令嬢もチートですけど何か?
「……敵艦シールド喪失!?エンジン部を破壊しました!?」
「「「「はぁ?」」」」
部下達から驚愕の声が。報告する部下も非常に困惑した様子である。
だが、これに対する俺の気持ちは、今頃か、というものだった。このようなことになるのはかなり前から俺は予想していたのだ。正直大した驚きは無い。
「大型艦を1隻足止めできるなら充分だろう。深追いせずに比較的安全なところから足止めできる船を足止めするように伝えてくれ」
「イェ、イェッサー!!」
俺の言葉で、困惑していた部下もどうにか持ち直してセシル達に通信を。
さて、どうしてこんなことになっているのか説明しよう。
セシルが近づいた大型艦なのだが、なぜかシールドが無くなってしまったのだ。そのため幾ら大型艦といえど防御性能が一瞬にして低下し、戦闘機体の攻撃だけで大きく被害を受けた。具体的に言うと武装の幾つかが破壊され、さらにエンジン部分が大破。エネルギーのタンクも穴がボコボコと空いているとのことだ。
「この一瞬で大型艦の足を破壊、か」
「す、スゴイですね。……凄いんですけど、何が何だか私にはさっぱり」
俺の部下にも混乱が見受けられる。いきなり大型艦のシールドが消失したからな。何が起きたのか分からないといったところなんだろうが、俺は前から予想していたから理由が分かる。
「隊長が闇属性だからだろう」
「闇属性?」
「隊長って闇属性だったんですか!?」
「そ、それなら確かに……あり得るかも?」
魔力の属性。
最近はフィネークの光属性でレーダーやらレーザーやらが強化されていたが、今度は属性が変わって闇属性である。
闇属性が使われるのは主にシールドだ。レーザーの光などを吸収し威力を低下させるとして闇属性が使われるわけだな。
で、たいていの場合敵の船はシールドは全て闇属性が宿っている。闇属性持ちが船に乗って無くとも、シールドは闇属性だからな。勿論光属性が乗っていなくてもレーザーは光属性として扱われる。
で、そんな闇属性が使われているシールドだが、
「隊長が魔力を吸収したから敵艦のシールドが消えた、ってことですか?」
「おそらくな」
そう。
吸収されたのだと思う。シールドを破壊したのでは無く、吸収したのだ。
「でも、シールドの魔力を吸収するって、相当の魔力量ですよね?」
「え?魔力量が多いのってフィネちゃんだけじゃ無かったの!?」
「隊長、腕が良いだけじゃなくて魔力量まで……」
部下達はその吸収ができるほどのセシルの魔力量に驚愕していた。シールドを張れるほどのエネルギーが吸収できるんだから相当だよな。
だが、これは俺も予想できていたことだ。闇属性の魔力を持っている者がシールドを一瞬吸収して無力化するなんて言うのも聞く話だからな。
だからこそ俺はゲームでのセシルの属性や魔力量もある程度知っていたため、これが起こるのはかなり遅かったと思う。今まで散々小型艦や中型艦を攻撃してきたのに、一切そういったことが起らんかったのだから。
今までこういったことが起こらなかった理由としては、セシルがあまり敵艦に近づきすぎなかったことがあると思う。ある程度の距離があれば吸収は起きるが、それでも微々たるものだ。今のように完全に吸収してシールドを剥がすには、それこそ接触が必要なほど近づく必要がある。
「隊長もなまじ腕が良いだけに、接近されて追い込まれることも無かったからな」
「あぁ~。だから魔力吸収が起こることも無かった、と」
「良いことのような悪いことのようなって感じですね。もう少し早く分かっていれば敵艦隊をかなり手前で押しとどめられたかもしれなかったんですけど」
部下達は納得すると共に、少し不満を口にする。確かに早い段階で大型艦に大ダメージを与えられていれば、向こうの足止めをできたかもしれないからな。
だが、
「過ぎたことは仕方が無い。判明しただけでも良いことだろう。……それよりも、この中途半端な位置で敵がどう動くのかをしっかりと見ていようじゃないか」
「「「イェッ、サー!!」」」」
俺の言葉に部下達は頷く。顔では不満そうにしているが、それでも行動には移る。逆らわないのなら俺としては全くもって構わない。
逆らわないのなら俺も今は仕事に集中できるのだから。
「現在エンジン部が破壊されたことにより行動不能となった大型艦は、他の大型艦と何か頻繁に通信を取り合っているようです。戦闘機体しか周りにはいないため詳しい内容を解析することは不可能ですが、連絡の頻度と長さから考えて純粋においていかれることを拒否しているのだと思われます」
足が使えなくなるなら置いていく。敵の指揮官は優秀なようだし、すぐにこちらへ来るためにもそうなるだろうと俺は考えていた。
だが、現在のこの通信の様子から考えると、
「内輪もめ、か」
大型艦の艦長と全体の指揮官で意見が分かれている可能性が高い。つまり、有能な上司と保身に走る無能な部下で争いが起きているというわけだ。
……大型艦の艦長の死にたくない気持ちはよく分かるがな。