42.仕掛けてましたけど何か?
敵8人のうち2人の足首を切り落としてこちらの優勢な状況を作り上げた。いや、作り上げようとした。
だが、そんなもの関係ないとばかりに数十秒で完全回復され、また振り出しに戻される。
回復系の敵は長引くんだよなぁ。ゲームでも回復使える中ボスはやってられないし。
「まあさっきみたいに大技で隙を誘いつつ、削れるところで削って運が良ければ即死みたいなのを狙うしかないよな」
俺の勝ち筋はそこになる。
敵が回復をしてくるなら、回復される前にどうにかして殺すほかないのだ。やられる前に殺れってことだな。
「とりあえずもう1回大技!」
少し魔力を多めに使った魔法で敵の防御を誘い、他の薄くなった部分に魔法を叩きこむ。
今度は数人の腕やら背中やらに傷を負わせられたな。
敵の持っている医療ポッドは2つだけのようだし、数人に傷を付けられればしばらくは敵はそれを使いまわすしかないし、俺の方も対処が楽になる。…………かもしれない。
「けど、結局最終的に全員に回復されたら意味ないんだよなぁ」
そんなことはつぶやきつつ、何度も似たようなことを繰り返す。
細かい傷が増えていき、医療ポッドの回復も追いついていないようにも見えるが、
「敵の防御の性能があってきてるんだよなぁ。これ以上時間かけると完璧に対応されかねん」
敵も俺の攻撃にだんだんと慣れてきたようで、大技を使っても防御に隙がなくなってきた。
細かい傷を増やすことも少しずつ難しくなってきたな。
もうこうなると、
「交代のタイミングで、医療ポッド狙い!!」
回復要因である機械を攻撃するようにシフトしてみる。
回復を受ける人間が後退するタイミングで内側からぶっ壊そう(外側は割と頑丈な場合が多いので)と考えたのだが、
「ちっ!厳重だな!!」
医療ポッドに入るやつが全力で抵抗してきたのでどうしようもなかった。非常に守りが固い。
ある程度まで入り込めたのだが、傷1つ付けることはかなわなかったな。
「このまま何もできなあったら確実に負けるな………」
かなり珍しいことだが、俺も今回の状況ではさすがに地上戦であるにもかかわらず敗北を覚悟した。
このまま向こうに何の有効打も出せずにいたら負ける、と。
………まあ所詮、有効打がなければ、の話なんだけどな?
「さて。そろそろ仕掛けが生きてくる時期か?」
俺は仕掛けておいたものがうまく作動するかどうかと期待半分不安半分で敵の医療ポッドの様子をうかがう。
敵の1人が交代だとばかりに医療ポッドの扉へ手をかけたその瞬間、
「「「「っ!?」」」」
敵全員が驚愕するのが、こちらからもうかがえる(光の屈折を利用して敵のことは見えている)。
それもそうだろう。
何せ、敵の医療ポッドの中には先ほどまで医療ポッドに入れていて回復させようとしていた人間ではなく、
「「「「ス、スライム!?」」」」
回復ポッドの中をぎっちりと埋め尽くすほどに巨大化したスライムがいたのだから。
そのままスライムはさらにその体を大きくしていき、敵に向かって襲い掛かり始める。
流石に俺の猛攻に耐えながらだとスライムとはいえあそこまで大きな存在に対抗することも難しいようで、
「逃げるか。まあ、悪くない判断ではあるのかもな」
医療ポッドを放棄し、逃げ始める。だがさすがにそんなことをすれば注意力が散漫になり、数人は俺の風魔法を受けて大けがを負った。失血死も時間の問題みたいなやつもいるな。
スライムが回復ポッドに入っていた2人は飲み込んだだろうから、残りは6人。
ということで残ったやつらを追い立てつつ、説明といこうか。
スライムがなぜ急に現れたのかという話だが、君たちは覚えているだろうか?俺が前々回、逸脱者の1人であり動画投稿者であるフィニアと会った時のことを。
あいつに付き合わされて、俺はとある撮影の協力を行なったのだ。
そう。
スライムの踊り食いの協力に。
その時に俺は2体のスライの踊り食いに成功し、それらの核を手に入れた。
スライムの核と言うのは栄養がなければスライムの身の部分を生み出せないので宝石としても価値があるものなのだが、
「栄養があれば、またスライムらしい体を取り戻すんだよなぁ」
回復ポッドは万能であり、ただ肉体の回復速度を上げてくれるだけではない。その間に急激な回復で体から栄養が枯渇しないよう補給してくれるのだ。
そんな機能があるからこそ、スライムは永久的に肥大化し続ける。
それも、
「クソッ!こっちの削る速度よりスライムの回復能力が高い!!」
「回復ポッドごと破壊しないとスライム倒せないぞ!?」
「そのようなことをすればこちらが回復できなくなる。できるはずがない」
向こうにとって回復ポッドは重要なものであるから奪い返したいが、接近は不可能と言ってもいい。ではスライムを倒すために回復ポッドを壊すのかと言えばそんな本末転倒なことをすることもない。
ただただどうにかして回復ポッドを取り返したいと思いながらスライムを削りつつ俺の攻撃から身を守るしかないのだ。




