22.人の命は軽いですけど何か?
《sideゴトー・アナベル》
セシル達は上手く事を運んだらしい。送られてきた映像を見て、艦内の部下達は喜びの声を上げている。具体的な成果としては、
「敵艦は7隻の反応が消えました」
とのことだ。かなり上手く機雷が効果を発揮してくれたようだな。
7隻を沈めたとなると、1つの艦隊が半壊に近い状態になっていると言うことだ。これで大型艦でも沈んでくれていれば上々なのだが、送られてきた映像では流石にどの艦が沈んだかまでは分からなかったからな。次の映像に期待しよう。
「敵艦隊は、どうやら破壊された船に乗っていた人員の回収は行なわないようです。先程よりはゆっくりですが、宇宙服のジェットでは追いつけない速度で進んでいます」
艦隊の人間は、宇宙に放り出された味方は見捨てるという判断を下したようだ。残念だな。回収していてくれれば時間稼ぎになったというのに。
だが、それが無かったからと言って時間稼ぎができないわけでは無い。セシル達もまだ目標地点への移動が完了していないようだから、焦らないようにするためにも、
「主砲用意……撃て!」
主砲を1発撃たせておく。機雷でそこそこの数の船は壊れたが、俺が思うに沈んでいないが大きく損傷している船もあると思われる。そんなのがいる中で主砲が飛んでくれば、
「敵艦隊!密集度合いを高めました!」
損傷した船を守るため、無傷の船が集まって守ることになる。
だが、この場合には当然デメリットがあるのだ。集団で密集するためぶつかることを恐れ、速度が遅くなると言うデメリットが!!
綺麗な陣形を組んだまま行くとなると、俺たちの時間稼ぎは大成功したことになる。距離が半分程度になる頃には俺たちの援軍がやってくるだろう。
ここからとれる選択肢は2つ。
援軍を恐れずひたすらこの陣形で進むか、
「……敵艦陣形を崩しました!4隻ほどを置いて通常速度での移動に切り替えたようです!!」
足手まといを置いて、強いものたちだけで進むか。今回はこちらが選ばれたようだ。
それ以外にももう1つ選択肢として壊れかけの船を盾として進むって言う方法もあるのだが、下手をすると高速で移動する最中で壊れるなんて言う可能性もあるからそれはやらなかったようだな。
置いていかれた船は俺たちの援軍が来たときに少しでも足止めをできたら良いなどと考えている可能性がある。
「4隻離脱……1艦隊は離脱させられたって事でしょうか」
フィネークが少し震えながらそんなことを言う。敵もかなり近づいてきているし、緊張しているのだろう。……正直危なくなれば撤退するつもりなのでそんなに怖がらなくても良いのではないかと思うんだがな。基地は勿体ないが、ある程度の資料は回収できたし褒められることはあっても咎められることは無いだろう。
「確かに合計11隻の離脱だが、1艦隊分を離脱させられたかどうかは定かでは無い。全てが小型艦であった場合は激しい戦力低下とまでは言えないな」
「そ、そうですか」
俺の言葉にフィネークは肩を落とす。ここまででどれだけの被害を出せたかというのは非常に大事なポイントだからな。
俺たちが直接相手をする戦力にも関わってくるし。
そんなことを考えながらモニターを見ていると、敵の反応が幾つか急に前に飛び出していった。
「速度から考えて小型艦だと思われますが……それぞれ機雷の探知に向かった可能性があります」
「なるほど。下手に大型艦を巻き込むよりも数の多い小型艦を犠牲にするという考えか」
あえて小型艦に行かせて機雷の解除を狙うということだと思われる。小型艦1隻の犠牲で大型艦が沈むリスクを減らせるならマシとか考えたのかもしれない。
まだまだ向こうには小型艦がいるわけだし。
……人の命が軽いな。
「隊長達はプランを変更するとのことです」
「了解」
敵の動きを受けて、セシルもこれからの動きを変えるつもりのようだ。計画ではまた遠くから艦隊にちょっかいをかけて向こうのストレスを溜めさせる予定だったのだが、陣形に残る数が少なくなった分ストレスを与えるのも難しくなったと考えたのだろう。
大人数で歩いているときに蚊が飛んできたら一部に大きい影響を与えるかもしれないが、数人で歩いているときなら大して邪魔にもならない。1人が蚊に反応してバランスを崩しても、他の人まで巻き込んだりはしないだろう。
それと同じような感じで、このまま作戦通りにちょっかいをかけても大きい影響は無いわけだ。
「……あっ。隊長から映像送られてきました」
「モニターに映せ」
「イェッサ~」
気楽な感じの返事が返ってきて、モニターに映像が映る。
そこには、
「うわっ。大型艦と中型艦がこんなに」
「うぅん。1隻は減ったかな?」
「少し前の映像と比較して……そうだね。中型艦1隻がいなくなったくらいかな」
部下達は微妙な顔をしている。どうやら中型艦1隻しか離脱させられなかったらしい。……セシルの動きに期待だな。