31.突破しますけど何か?
俺たちはかなりの敵を前にして強行突破をすると決めた。
相当難しい事ではあるのだが、それでもやらなければならない。まず必要なことは、
「突破することは共有しておけ。技術面に期待はできないが、こちらの考えを予想させて事前に動かすというのは余計に難しい」
「それもそうですね。フィネちゃんを含めて全体に共有しておきます」
俺たちの周囲には、足の速い小型艦が数隻いる。その船のことを考えると、あまり無茶なこともできないんだよな。近衛艦隊に選ばれたのだからそこそこの腕はあるのだが、あまりこういった即興の動きと言うのは得意でないらしい。基本的に命令通りに動くのが得意な連中みたいなんだよな。
まあ、そういうこともあって俺たちの考えは全体に共有されることになる。どうにか全員で突破したいところではあるが、最悪の場合数隻は置いて行かなければなくなるかもしれないな。
「作戦はどうしますか?多分まともにぶつかっても勝てませんけど」
「それはそうだな。であるから、小官が動くことにする」
「少将が、ですか?」
「うむ。危険ではあるが、小官が単身で敵艦に侵入し制圧し制御を奪う。それでどうにかするしかあるまい」
「全く大丈夫には思えないですけど…………それしかないかもしれませんね」
俺が敵艦へ侵入するということで作戦は決まった。
とはいえ、敵もそんな簡単に侵入は許してくれないだろう。きっと戦闘機体で近づくだけであっけなく集中砲火を受けて終わりになってしまうはずだ。
だからこそ、
「殿下。お頼みしたいことが」
「分かりました。何でも言ってください」
俺はダリヤに助けを求めることにした。すでに専用機がいる方での戦いは終わっているようだし、手は空いているのだ。
疲れているだろうからあまり働かせたくはないが、ここで無理をしてもらおう。
「敵艦のシールドをはがしたいのですが、お頼みできますか?」
「任せてください。やって見せます」
気合十分といった様子でダリヤは頷く。
今この船の中に専用機はないが、一般の戦闘機体はあるのだ。一応一般の戦闘機体を動かす訓練は普段からしてくれているようだし、問題はないはず。
ただ、ダリヤに動いてもらえるからと言って当然安心はできない。
「殿下が出たとしても、普通に動いたら狙い撃ちにされませんか?」
「されるだろうな」
「それ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではない、だが、それが1番確率は高いからな」
ダリヤが大量の戦闘機体を戦場に投入したとして、敵に発見されてしまえばそれで終わりだ。後がない。
いくらダリヤの操縦が上手いと言っても敵の攻撃がかすっただけで敗北確定だし、どうしようもないのだ。
「とりあえず殿下に戦闘機体を出してもらうのは、敵の狙いがこちらに向いている間が良いだろう」
「そうなりますよねぇ。専用機ではないですし、しかも手の空いている殿下が動かしているのは敵も予想ができるでしょうから、私たちに比べると攻撃の優先順位が低いのは分かります」
敵も恐らくダリヤが遠隔操作で戦闘機体を操っているのは分かるはずだ。
いくら強いと言っても影響力は専用機の時と比べて圧倒的に落ちるし、敵もそこまで攻撃の優先度は高く感じないだろう。
その思いを、できれば利用したい。
「では、小官は移動する。敵をどの程度引き付けるかはお前たちの判断に任せる」
「分かりました。合図はいつもの通りで良いですか?」
部下がいつも通りの突撃の用意をしていいのかと聞いてくる。何度も使ってきた射出を今回はどう使うのかということを知りたいのだろう。
だが、
「いや、今回それは使わない。合図はしなくて構わない」
「「「「え!?」」」」
驚愕する部下たち。自分たちの突撃はそれしかありえないとでも考えているのかもしれない。
俺たちは可能性にあふれているというのに、視野が狭くて残念だな……もちろん冗談だ。
「では殿下。頼みます」
「はい。任せてください」
最後にダリヤに一言告げて、俺は向かう。戦闘機体のコックピットへ。
『しかし、私が操っているから無人だと思わせておいて実は少将が乗っている、ですか。考えたことがありませんでした。よくそのようなことを思いつきますね』
「おほめに預かり光栄です」
コックピット内へダリヤの声が届く。
彼女が言うように、俺の作戦は俺の乗る戦闘機体をダリヤに動かしてもらうというものだ。本来遠隔操作される戦闘機体と言うのは乗れたものではないのだが、風魔法を操れる俺ならばギリギリ耐えられる。
敵のシールドを削ってもらって、そして俺が侵入できるように調整してもらう。
後は、敵の船を乗っ取った後だしどうとでもできる。
「問題は乗っ取る時間があるのかということですが」
『そこは皆さんの腕前に任せるしかないですね。私もできる限りのことはするつもりですが』
俺が乗る機体が撃墜されるという話はしない。そこはもうそうなってしまったら仕方のない話なのだから。対策などしようがない。
だからこそできることは最大限にやる。
『さて。そろそろ時間みたいですし。覚悟を決めてくださいね』
「覚悟は決まっています。いつでもどうぞ」




