22.分散させますけど何か?
こちらに向かってくる敵の数を少しでも減らすため。敵の一部を味方に押し付けてしまいたいと考えている。
ではそのために何が必要なのかといろいろ考えるわけだが、
「やはりまずは、重要人物がいるのではないかと考えさせることは重要だな」
「ですね。でも、どうすればいいんですか?」
「それに関してはそこまで難しくはないだろう。今の様にあまり危険がないようにしながら敵の裏を回って行っているというだけでも、疑われることにはなると思う。安全策をとっているのだと受け止めることができるからな」
「なるほど。たしかにそれもそうですか。堅実に安全にとやっていれば、そこには危険を冒すべきではない守るべきものがると思われますよね」
思い込ませることに関してはそれくらいでも効果はあるはずだ。
ただしかし、いくらそう思ったとしても目標を俺たちからそっちの味方に変えてくれるかというとそんなことはないだろう。
俺たちの方が数も多いし、戦闘機体の近くにいるからな。
ならば、
「あとは重要人物云々は関係ないが、単純に味方のことを厄介だと思ってもらえるだけでもいい」
「厄介だと思ってもらう?排除対象として認識させるということですか?」
「そうだ。例えばこの艦隊を包囲するにあたり、そこの邪魔をあの味方からされたら厄介だと思うというのも大事なポイントではあるな」
「なるほど。できるだけ作戦遂行の上で脅威になると思わせたいということですか……それなら、私達の動き方も重要そうですね」
部下が味方の位置情報を見ながら言う。その言葉は間違いないものだな。
敵に俺たちの味方を厄介だと思わせるには、まず敵の包囲を崩せるような場所に味方が来てもらう必要がある。ただ、このまま俺たちが愚直に進んで行っても敵の包囲に崩しやすい場所など生まれない。敵だってわざわざ好き好んで崩れやすい陣形など組むわけがないのだから。
では敵の陣形を崩しやすくするために何が必要なのかと言えば、俺たちが動くことだ。
包囲される俺たちが、できるだけ包囲に穴ができやすいように動く必要がある。
「では、そんな動きとは具体的にどのようなものなのか…」
「ん~難しいですね。単純に逃げるような動きをすれば敵の包囲は難しくなるでしょうけど」
「逃げるって言っても、隊長とかダリヤ様に合わせなきゃいけないでしょ?あんまり意味がない気がするけど」
「戦闘機体に合わせてたらすぐに追い付かれちゃうよねぇ」
守るべき対象の1人であるセシルはまだ専用機に乗って敵のシールドを剥ぎ取りまわっている。それを置いて逃げるのは論外だが、それに合わせていたらすぐに敵に追い付かれて包囲されてしまうだろう。
「じゃあ隊長たちを回収するんですか?」
「それは難しいだろう。向かえば事前に来るというのを相手に知られてしまうからな。明確にここに来るというのを知られてしまえば戦闘機体に被害が出る」
「むぅ~そうですか」
自爆覚悟で仕留めようとしてくる連中だから、事前にどのあたりに来るのかというのが分かればその周囲へ集中砲火を行なうだろう。仲間を犠牲にしてでもな。
当然ながら、迎えに行く俺たちの船の方も被害は免れない。
「じゃあどうすればいいんでしょうか?」
「回収も無理。おいていくのも無理。同行も無理。全部無理じゃないですか」
「ふむ。単純な方法では何を選んでもダメだろうな。小官たちに勝ち目はないだろう。だからこそ、どれだけわなを仕掛けられるかというのが問題になってくると思われる」
罠だ。
罠だとは言っても、罠にはいろんな種類があるしどれなのかと思うだろう。
俺としても正直に言ってしまうとどれを選ぶのかというのは悩んでいる。が、
「少将。フィネちゃんから連絡。敵の大群がレーダー探知範囲内に入ってきたそうです」
「来たか。もっとしっかり計画は決めたかったが、あまり長く考えてもいられんな」
敵が来てしまった。これ以上計画を詰めるということは難しい。
ならどうなるのかというと、
「行き当たりばったりだな。思いついた先はすぐに進言しろ」
「「「「イェッ、サー!」」」」
良く言えば臨機応変。悪く言えば行き当たりばったり。
俺たちは即興で敵の対応に当たることとなる。
こういう多数対多数の経験はあまりないから俺1人ではあまり大した策も浮かばないが、
「私たちの周囲に機雷を放出する!」
「数隻だけで逃げる!」
「味方に急いできてもらう!!」
部下達からいろいろと提案が来る。
それの1つ1つにこたえていくことはできないが、
「先ほど共に中央まで行った足の速い小型艦を呼べ。二等兵もだ。少数で別行動をとるぞ!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
数隻だけで逃げる。その部下からの提案はとてもいい物に聞こえた。
とはいっても本当に逃げるのではなく、
「逃げる素振りを見せて一部の敵を引きつけつつ、二等兵に包囲してくる船を狙撃させる!」
という計画で行く。
上手くいってくれると良いのだがな。




