19.だからこその保険ですけど何か?
「いかにこちらが怪しくとも、戦果が何もない状態の敵はこちらを狙うという選択をすることになる」
「な、なるほど?そ、それって私たちに危険はないんですか?」
「この艦隊が狙われるのだから当然危険はある。逃げなければすぐに包囲されて集中砲火を受けるだろう」
「え、えええぇぇぇ!!!????ダメじゃないですか!?どうするんですか!?」
「早く言ってくださいよ!?何も逃げる準備してないんですけど!?」
「艦隊全体に伝えるまでに追いつかれませんか!?大丈夫なんですか!?」
部下が慌てている。
それもそうだろう。敵がこちらを沈めに向かってくるのだから。
今まで俺たちはずっと敵を後ろからちくちく攻撃するいやらしくておいしい位置取りをしたため、真正面での戦闘は一切していない。
逃げるにしろ戦うにしろ、色々と艦隊に伝えなければならないのだ。今頃言われても困ると考えているのだろう。
が、
「だから保険を仕掛けたのだ。そう焦る必要はない」
「保険?保険って、機雷を放出するときにそんなことを言ってましたけど」
「機雷はもう爆発しちゃいましたよ!?しかも仕掛けたの1つだけじゃないですか!」
「機雷1つで運が良くても巻き込めるのは3隻くらいですよ?巻き込めたとしても2隻は一部機関が使えなくなるだけで動けなくなるわけでも戦えなくなるわけでもないですし」
俺は保険として機雷を仕掛けていたのだが、それに対する評価はいまいちだ、
本当に来るのかはわかっていなかったしたった1つしか仕掛けてなかったから、被害が小さいというのは分かる。機雷が爆発して敵が来ているというのをこちらも感知したことは敵も分かっているだろうが、だからどうしたといった程度だろう。
ただ、
「重要なのは敵を沈められたかどうかではない」
「「「「え?」」」」
「敵が機雷を警戒してくれることだ」
「「「「……………は?」」」」
俺の言葉に多くの部下が首をかしげる。
だがそれもそうだろう。それこそ、だからどうしたというようなことに感じるだろうからな。
ただ、考えても見てほしい
「敵はこちらが囮だと今まで考えていた可能性が高い」
「は、はい。そういう話でしたね」
「ならば囮がどうやって相手を陥れようとしていると思う?」
「どういう風にって…………あっ。もしかして敵は、こちらが囮になって敵を引き込んで、機雷に巻き込ませようとしていると考えるってことですか!?」
「そういうことだ」
囮なのだから単純に敵を誘導して味方を戦いやすくするか、もしくは罠へと引き込むか。どちらかをしてくると考えるだろう。
今回の場合は、機雷に敵が巻き込まれたことにより罠へ引き込む方なのではないかと勘違いしてもらうわけだ。近づいてきた敵を機雷で爆殺するための罠だとな。
実際には機雷は1つしか仕掛けていないが、1つあったというだけで敵にとっては大きな警戒するべき要素となる。何せ余計に、囮である可能性が高くなってしまったのだから。
ここまで囮である可能性が高いと感じるにもかかわらず、罠だと分かっていても突っ込むか。
それとも少しの希望にかけて正面からぶつかり合うことを続けるか。
敵が迷うのも当然だろう。
「少将はこのまま引くと思ってるんですか?」
「いや。このまま敵は少し迷った後この艦隊に向けてやってくると考えている」
「えぇ!?それじゃあ駄目じゃないですか!」
部下が驚き声をあげる。敵が多少迷ったとしても結局仕掛けてくるのであれば、俺たちは生き残れないと言いたいのだろう。
気持ちは分からないわけではない。
しかし、だ。
「その少しの迷う時間が大切なのだ。その時間で、どれだけ味方が敵を減らしてくれるかが」
「な、なるほど?」
俺たちには味方がいる。そして今の状況を考えれば、時間は俺たちの味方だ。
時間を稼げば味方が敵の数を減らし、さらに有利な状況を作ってくれる。さらにはセシルやダリヤやフィネークが暴れるため、このあたりの味方も敵に拮抗できるようにはなってくるはず。
味方が拮抗できるようになれば敵も俺たちに向かわせてくる船の数をそこまで揃えられないだろうし、逆にそろえたとしても俺たちの味方からあっけなく破壊されるだけで終わるだろう。背中を向ければ大きな被害を受けるものだからな。
「一応俺たちが罠であるということをさらに感じさせるために、もう1つ機雷を放出させろ」
「「「「イェッ、サー!」」」」
「1つで良いの?どうせ敵が来るんだから、もっといっぱい使えば?」
部下たちは従うものの、多くの敵が来るのであればそれをできる限り減らすために機雷を大量に仕掛けたらどうかと提案してくる。
だが、
「敵はこちらが機雷を仕掛けているのは知っている。となれば、先ほどこの艦隊がそうであったように機雷に警戒して進んでくるだろう」
「あぁ。なるほど。たくさん仕掛けても全部破壊されたら意味ないか」




