1.出世頭ですけど何か?
前回主人公が自分のことを『私』と言っていましたが、基本的に軍人として振る舞うときにの一人称は『小官』です。
さて、セシルの副官となる俺のことを少し伝えておこう。
俺の名はゴトー・アナベル。前世ではしがない社畜をしていた。ゲームは趣味というわけではないが、知り合いから頼まれて何度かやったことがある。
その中の1つが俺の転生した世界を舞台にした乙女ゲームだ。
悪役令嬢が婚約破棄されるシーンから始まり、悪役令嬢に八つ当たりされた主人公が貴族や王族に好かれながら幸せになっていくというシナリオである。
だが、なぜか知らないがこのゲームの舞台が壮大でな。かなりSFな世界なのだ。ゲームには全く関係してこないのだが、人類はいくつも星を所有しており、銀河を国家として支配したりなんかしている。そして当然戦争などもあるのだが、そこで主に用いられるのは宇宙戦艦。……○マトではない。
ただ、宇宙戦艦の見た目は○マトに近いな。といっても、最近の若い子は○マトは分かるのだろうか?とりあえず、この世界だと若い子以外も分からないだろうな。
「ゴトー中尉!君を大尉に任命する!」
「はっ!光栄であります!」
で、そんな世界に転生した俺は、絶讃軍人人生を謳歌中だ。現在は大尉まで出世していて、出世頭になっている。お陰で周りは年上ばかりだ。祖父母と孫くらいの年齢差の人間も同じくらいにいたりするぞ。
まあ、お陰で可愛がってくれる人も多いわけだが。
そんな俺だが、軍人として過ごしているだけでは無い。
俺は転生したときから何をやるかは決めていたのだが、君たちは転生したとすれば何をするだろうか?原作知識を活かして自分が攻略対象を手に入れる?前の世界の知識を活かして軍事チートや商業チートを手に入れる?
どれをしても良いだろう。ただし言わせてもらえばここはSF世界。多少知識を持っている程度ではチートなんて使えないだろう。それに俺は同性が好きというわけでもないし、攻略対象もいらない。
となるとそれ以外なのだが、俺は転生してから考えていた必要なことがある。他の転生者がいた場合に対応できるようにしておくということだ。
転生者とは危険な存在である。原作知識をどうやって活かすか分からないし、もし他国に転生者がいてこのゲームの知識を持っているなんて事があれば……この国が滅びかねない。そうなれば俺の命や生活も危ういだろう。
だからこそ、俺はシナリオブレイクを目指す。そのために俺が求めたのは、シナリオから逸脱した存在だ。それも、大きく逸脱し、周りを巻き込んで逸脱するほどの。
「ゴトー大尉。伯爵様から連絡が」
「分かった。すぐに行く」
俺は逸脱者をこの手で生み出すため、活動した。選んだのは10人。それぞれ俺が望んだとおりにこの国や宇宙へ影響を与えてくれている。そして、シナリオ上あり得るはずの無かった変化も。
『やぁ。ゴトー君』
「お久しぶりですね伯爵。小官に何かご用ですか?」
『いやいや。用って程でもないんだけど、ゴトー君に噂を流しておこうと思ってね』
俺が現在通信している相手も逸脱者の1人。本来ぱっとしない男爵として生きていく予定だった人間だ。そこに俺が情報を当て、いつの間にか伯爵まで成り上がっているようだが。
で、そんな伯爵からの情報だが、
『次の王子の誕生日パーティーで、王子が婚約破棄をするって言う噂だよ』
「ほぅ?それは興味深い。……情報提供感謝しますよ。伯爵」
『ふふっ。気にしないでくれたまえ。君には世話になったからね。これくらいだったら教えるよ』
婚約破棄の情報。それは、俺の記憶の片隅にあった乙女ゲーの記憶を引き起こした。
そして、パーティー当日、一応大尉と言うことでパーティーに参加した俺は色々あった末に、
「それでは、セシル嬢。いえ、セシル隊長!これから宜しくお願い致します」
セシルの部下になる事が決まった。誰もが、いや、俺以外が予想していなかっただろう展開。それでも、王子を満足させることはできた。
「え、えと。よ、宜しくお願いをしますわ?」
セシルはもの凄く警戒した表情でそう言っている。そんな警戒される中、俺は暫く自己紹介を行なった。
そしてその後、
「それで、セシル隊長としては実績を作ることだけが目的だと考えてよろしいでしょうか?」
「そ、そうですわね」
「でしたら、グルー戦線へ出撃してはいかがでしょうか?」
俺は提案する。実績を作るための提案を行なう。つまり、どの戦線へ向かうのかを提案したわけだな。
俺が提案したグルー戦線というのは。俺がいる国(名前はテリー帝国)に接しているグルー共和国という国との戦線だ。グルー共和国とはかなり広い範囲で争いを行なっていて、その戦線は激戦地、いや激戦宙域である。その争いの理由は領土問題だ。よくある理由だが、この世界の領土問題はどの星をどの国が持つかという話だ。全くもって壮大な話だな。
……しかも、この国の話では無いが、銀河1つを巡って争っている国もあるからな。かなり壮大な戦争が各地で起こっているぞ。
「しかし、あ、危ないのでは?」
セシルは俺の提案に引きつった表情で返答する。
だが、言わせてもらえば、
「危険を恐れていては実績など得られませんよ。危険を冒すことが実績と言っても過言ではありませんので。……勿論安全に実績を積むことも可能ですが、10年は掛かるとお考えください」
「っ!…………わ、分かりました。で、では、グルー戦線へ行きますわ!」
セシルは宣言した。貴族達の前で。これでもう逃げ道は無くなった。この後戦線を変更しようものなら、各貴族からセシルは見下されるだろう。そんな人物が、王子と婚約などできるわけが無い。
激しい戦線に出ること、それを理解した王子は、人の悪そうな笑みを浮かべた。そして、俺に、視線を向けてくる。
激戦地なら誰か死亡しても誤魔化しやすい。なんて考えているのだろう。