9.包囲ですけど何か?
「40秒後、60,45,130の地点で敵の包囲に穴が開く予定です」
「二等兵の狙撃を受けた地点か。となると、他の地点でも時間経過で同じようになる可能性が高いか?」
「はい。20,-70,-50の地点が1分30秒後。ー10,150,30の地点が3分後に大きく崩壊するとみられています。いずれも二等兵の狙撃により防御力の高い戦闘艦が破壊されています」
俺やセシルたちを巻き込んで訓練をしたフィネークは、その訓練のおかげなのかは分からないが高い結果をたたき出していた。
俺たちは前線に到着するとすぐに艦隊全体で1つになって突撃。そこそこ大きい戦線だったので、特に周囲と連携もとらなかった今回、俺たちは当然のように敵から包囲されることとなった。そこから通常の艦隊であれば互いに撃ち合って消耗戦を行なうことになるのだが、こちらには3人娘がいる。
事前に出撃していたセシルとダリヤの機体が囲んでいる敵の中で暴れまわり後方の主要な火力を崩壊させ、フィネークの圧倒的な火力が敵の防御力に自信があったのであろう船を消し飛ばす。
敵を攻めきるための火力が足りず、残った火力を守る盾すら簡単に消し飛ばされてしまう。
やられた側からすれば悪夢のような状況だ。
「こちらの消耗はどうだ?」
「ほとんどないと言ってもいいほどかと。いくつかの船が入れ替わりの際接触して損傷を出したようですが、死人も出ていないようですし」
「ふむ。死人が出ていないなら問題はないか。その程度であれば、戦闘艦の損傷も軽微であるはずだしな」
もちろんそう考えて調べることに手を抜くということはしない。
もしかするとわざとぶつけた可能性もあるし、そこに関してはしっかりと見極めさせてもらう。が、今回の戦闘で大きく影響してくることではない。見極めるのは後からでいいのだ。
「しかし、そろそろ不利だと気づいて一点集中を仕掛けてくるなり徹底するなり選択してきてもいいと思うのだがな」
「そうですね。何か向こうに策があるのでしょうか」
「どうだろうな。二等兵の狙撃で敵の指揮系統はかなり崩れているとみられるし、そんな判断ができないという風に思えないわけではないが………油断するわけにもいかんか。警戒しておけ」
「「「「イェッ、サー!」」」」
俺はただ警戒しろというだけだが、警戒するというのもなかなかに難しい作業だ。
何か不振な動きがあればそれを調べる必要があるのだが、何が不自然なのかというのは判断が難しい。何かしようと思っているのであれば、色々なところであえて不自然な動きをすることであえてどれが本命か悟れないようにするなんていうこともできるわけだし。
が、
「ん………敵が周囲に機雷をまき始めました」
「一部で連鎖的な爆発が起きています」
「………………ほぅ?」
それでも見つけてくるのが俺の優秀な部下である。本当に優秀過ぎて驚いてばかりだが、今回もまた驚かされたな。まさかもう見つけてくるとは。
機雷を敵がばらまいているということだが、
「狙いは戦闘機体か?」
「おそらくそうだと思います。一点集中でこちらを狙えば数隻は落とせますが、それでは向こうにとって大損。それならいっそ自分たちは全滅覚悟でセシル様やダリヤ様の戦闘機体を狙うというのが向こうの考えかと」
「なるほどな。戦闘艦を狙われるよりよほど面倒だな」
ダリヤの機体はたいして防御力もないため、少しでも機雷の爆発に巻き込まれようものなら一瞬にしてその機体は使えなくなる。
セシルはセシルで敵からシールドを奪えるが、奪ったところで機雷の爆発はそれを一瞬で貫いてくる。シールドの有無なんて誤差でしかない。
「隊長たちに伝えたか?」
「今伝えます!」
セシルたちは現在敵の中を飛び回りシールドを奪っていっている。
敵の中だから当然機雷が近くにいくつもあると思われるわけで、できるだけ早く離脱したほうが良いのは間違いないだろう。
ただ、
「隊長たちが離脱する際は、その周辺へ攻撃してる船に一斉攻撃をさせろ。そして、こちら側へ退避してもらう!」
「「「「イェッ、サー!」」」」
敵の中から抜けるのであれば、攻撃の応酬が盛んに行なわれている包囲の内側ではなく外側に行った方が良い。
と思うところだが、敵もそんなことは予想済みだろう。恐らく敵のそちら側にはあまり機雷がなく、逃げた2人の機体をかなり狙いやすくなっているはずだ。
さすがに大量の戦闘艦から狙い撃ちにされれば、2人も回避は難しいだろう。
だからこそ、包囲の内側。
敵が攻撃しようにも周囲に機雷ばかりでうまく攻撃できない側へ逃げてきてもらうのだ。
「艦隊にはフレンドリファイアを避けるように口を酸っぱく言っておけ。お二人には、味方からの攻撃にも気を配るよう伝えろ」
「「「「イェッ、サー!」」」」
部下たちがそういった直後、一部へ攻撃している船が、同時に一斉放射を行なった。
ここから、セシルとダリヤの専用機は回避行動をとりに行くことになるのである。




