5章 プロローグ
「ということで!行きますわよ『近衛艦隊』!」
「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」
やる気に満ち溢れた声と共にゆっくりと戦闘艦が発進する。
動き出す船の数は10隻、20隻、30隻、いや、50隻を超え、3桁にも届くのではないかと思えるほどの数になっている。
そんな大規模な艦隊をまとめるのが、
「お疲れ様です。隊長」
「すごいですねセシル様!今までと全然数が違いますよ!」
「そうでしょう。私がこれのトップなのですわ!オホホホホッ!」
高笑いをする公爵令嬢、セシル。
本来とある乙女ゲームで悪役令嬢となるはずだった存在であり、現在は次期国王である王女の近衛艦隊の隊長だ。
「でも、守って頂くのは私なんですよ」
そんな中、セシルへ逆に勝ち誇ったような顔をするのが1人。
その顔には少なからず疲労が見受けられるが、服装や雰囲気といったものから圧倒的な威厳を感じさせる。
彼女こそこの艦隊が守るべき対象である、
「ああ。そうでしたわね。ダリヤ」
「次期国王様ですもんね!」
まるで1日体験をしていますとでもいうような楽しそうな表情で辺りの船を見る王女、ダリヤ。
こちらは乙女ゲームにおいて主人公の親友キャラを務めていた存在であり、現在は次期国王として活動している………のだが、
「次期国王が戦場に出るというのも変な話ですわよねぇ」
「良いじゃないですか。お父様からも認められたのですし、存分に暴れさせてもらいましょう」
「そうですよ!戦場に次期国王が立つってことでみんなも盛り上がってるんですから!今のダリヤ様も支持率はすごい高いんですよ!」
そんなダリヤとセシルに一歩引いたような態度で、しかし親し気に話すのがしがない平民のフィネーク。
彼女こそ本来乙女ゲームでは主人公となるはずであった存在で、現在はいっぱしの軍人となっている。
元は訓練生、つまり学生だったのだが、この間ダリヤが次期国王となってこの近衛艦隊というのを立ち上げる時に正式な軍人と名なった。
ただし階級は二等兵であり軍内部では1番の下っ端と言ってもいいほど。
「まあ、支持率はものすごいですわよね」
「ええ。しかも兄様もものすごい人気になっていますし」
「英雄になってますよね。実際大きい被害を出したのは確かですし、全てが全て間違いではないんですけど…………」
彼女たちが話すように、ダリヤの国民からの支持率というのは非常に高い。
そして、今は亡き彼女の兄も非常に人気が高い。兄の方に関しては他国からも高い評価を受けているほどだ。
そんな彼が何をしたのかと言えば、自分の命を犠牲にして祖国のために敵の基地をいくつも粉砕したのだ。自分の命を犠牲にとか考えが気持ち悪いというあれもあるだろうが、どちらかと言えば彼の人気が高いのはその犠牲にして出した被害の方が大きい。
たった1度の出撃で10以上の手の基地を破壊したうえに万にも届く兵士を殺害し、1000を超える戦闘艦も破壊した。
たった1人でそれを成し遂げたというので圧倒的な力を持っていた英雄となっているのである。
これでもし存命であれば逆に悪魔やら邪神の遣いやら言われて恐れられていただろうが、今この世に居ないからこそ評価されている。
そして、そんな彼は、
「しかも、なぜか私たちにすべての資産を渡すということになっていましたからね」
「ええ。あまりにも世論の力が強くて元々殿下の派閥だった方々もなくなく渡してきましたものね」
「あそこで渡してなかったら市民から袋叩き似合ってましたよねぇ」
実を言うと俺、と言うよりセシルやダリヤとは仲が悪かったのだが、なぜかその王子はダリヤにすべての資産を渡すという遺言を残したことになっていた。何1つとしてそんな証拠はなかったのだが、あまりにも世論の力が強すぎてそうなったのである。
では貴族が最初から抵抗しなかったのかというとそんなことはなったのだが、
「侯爵家、1つつぶれてしまいましたものね」
「ですね。まさか領民から反乱を起こされて首を取られるなんて予想もしていませんでした」
1つの家が強く反抗した。
しかし、その家はつぶされてしまったのだ。市民の手によって。
「ここで私が戦場に出なかったら相当なバッシングを受けるでしょうねぇ」
「ですわねぇ」
「た、たぶんそうだと思います」
「最初から出るつもりでしたけど、これはしばらくまた戦場での日々が続きますねぇ」
世論の流れ。
それを考えればダリヤは戦場に出ないわけにはいかず。そして政務を怠るわけにもいかず。そのバランスを取りながら世論にアピールしていくことが必要となっていた。
ではここで、考えてみてほしい。
自分の命を引き換えにいくつもの基地を破壊してきた王子。そして何の証拠もないというのにそれの後継者として選ばれたことになった王女。
そんな王女の支持率が異様に高い。
「まずは簡単に勝てそうなところで勝って世論を安定させますか?」
「そうですわね。それが良いと思いますわ」
「さ、さすがにこれだけの数がいれば、相手さえ選べば確実に勝てると思います!」
「ですよね。ということで作戦会議をしましょう」
「分かりましたわ………ゴ、ゴトー。会議しますわよ」
この流れが、自然に起きたというのだろうか?
いや、そんなはずはない。
なぜなら、それは俺が仕掛けたのだから。




