4章 エピローグ
《コトーネ・ローズ視点》
やった。彼はやってくれた。
まさか私の婚約者であるゴトー君に、王女様と公爵家の令嬢が婚約を申し込んでくれるなんて考えてもいなかった。でも、これで私の立場はさらに国内においては盤石なものとなった。
なにせ、次期国王の婚約相手の正妻なのだから。
2人が婚約を申し込んでくれたおかげで婚約が公となったし、もう誰もゴトー君に婚約を強制させることはできない。
だから利益がかすめ取られることもないし、我が家の利益が新しい婚約者の2人と比べても圧倒的に大きい。
「ゴトー君。本当に私の予想を超えてくれるねぇ~」
「そうですか」
式典後、当事者同士で話し合いをということで私とゴトー君に加えて新しい婚約者の2人は個室にいる。
2人の方はこちらを観察しているみたいで黙ってるから、こちらは勝手にゴトー君といちゃつかせてもらうとしようかな。
今までは周囲に私たちの婚約をあえて隠してたから、あまりこういったことができる機会もなかったんだよね。
「ゴトー君。話し方も崩していいよ。なんといったって、私たちは婚約者なんだから」
「そうですか?……………なら、崩させてもらう」
彼が集めた10人の中で、唯一私にだけはゴトー君が素の話し方をしてくれたことがなかった。
そこには爵位の壁というものが存在していたからだけど、やっと今それから解放されたのだから存分に崩したゴトー君を堪能させてもらうことにする。
どうせお堅いゴトー君のことだから、仕事中とか公の場とかでは一切崩してはくれないだろうしね。
そんな新鮮なゴトー君を私は楽しませてもらうわけだけど、同じように位が高いはずなのに、
「ん~。お二人はゴトー君のそれには驚いてないみたいだね」
「そうだな。休暇とかで何度かこういう姿も見られてるし、驚くほどではないだろ
「そっかぁ。なるほど?」
セシル嬢もダリヤ様も驚いた様子はない。
もしかしたら2人は私が思っていたよりゴトー君のことを理解しているのかもしれないかな。
ただ単純にゴトー君が軍の内部で影響力が持てて王子と公爵の間でもうまく渡り歩く実力を持ってたから婚約を申し込んだだけで、ゴトー君の人間性なんかには一切興味がないものかと思ってたけど。
私が思っているほど2人は家に縛られた人間ではないのかな?私のイメージだと公爵家とか王家とかお家のためお国のためっていうことしか考えない連中ばかりだと思ってたけど、そのイメージは間違ってたのかもしれない。
「あ、あの」
「ん?セシル嬢、何かな?」
私が2人のことを少し考察していると、セシル嬢がおずおずと話かけてくる。
一応私の腕の中にいるゴトー君がとられるのは嫌だから、少し抱きしめる力を強くして、ね。
「ローズ伯爵は、ゴトー少将とどのようなご関係なんですの?」
「ん~関係性で言えばさっき式典で言ったとおりだけど。強いて付け加えて言うとすれば、私が男爵時代に領地を立て直すのに協力してくれた、っていうかほとんどの作戦を立ててくれたのがゴトー君だよ」
「「………えっ?」」
意味が分からないという顔をセシル嬢もダリヤ様もする。
ゴトー君が領地経営の知識を持っているなんて思ってもいなかっただろうから、驚くのも当たり前だよね。
驚く2人に私は笑みを深めて、
「あぁ。あと、私のことはコトーネで構わないし、しゃべり方もかしこまらなくていいよ。なんといったって私たちは、同じゴトー君の婚約者なんだから」
「そ、そうですの?では私もセシルと呼び捨てで構いませんわ」
セシル嬢。いや、セシルはそう返答してくる。
まだ警戒と緊張感があるからこんな感じになるのは仕方のない事なんだけど、
「私もダリヤと呼び捨てで構いませんし、話し方も素のもので構いませんよ……ゴトー君も」
ただダリヤ様、いや、ダリヤの方が少し落ち着きがあったし、気遣いができた。これは正妻から見てポイントが高いね(正妻マウント)
これを聞いて慌てて、
「わ、私もそれで構いませんわよ。ゴトーも」
セシルも続いてきた。
同じことを繰り返すとさすがに埋もれそうだと気づいたのか、あえて呼び捨てで言ったね。
こっちはこっちで頑張ったからポイント上げちゃう!
で、そんな2人からのありがたぁい(笑)言葉を受けたゴトー君だけど、
「そうか。ありがとう。プライベートではそうさせてもらう。ダリヤ、セシル」
「「っ//なんか違和感が!」」
呼び捨てにされた2人は予想外に衝撃があったようで、若干悶えてる。
さすがはゴトー君。破壊力が違うね。
けど、
「って、そういえばゴトーが計画を立てたってどういうことですの!?」
「あっ!そう。それですよ!コトーネの領地の立て直しにゴトー君が計画を立てたっていう意味が分からないんですけど!?」
2人の好奇心が勝ってしまったね。
これでこのまま話が流せてたら面白かったんだけどなぁ。
「どういうことも何も、ゴトー君と初めて会った時………まだ4歳になってないくらいの小さい時なんだけど、初対面の私に不正の話を持ち込んできてさ。こことここの資金の動きがおかしいからどうこうなんて話だったんだけど、そこを探ってみたら本当に不正が見つかっちゃってね。しかもその後会いに行くたびにいろいろ聞かされてそれを試したら毎回うまくいって……まあ、初期の方の私の政策って言われてるのはだいたいゴトー君が考えたやつなんだよね」
「「………………………………は?」」
やっぱり理解が追い付いてないみたいで、2人は面白い表情で固まる。
ゴトー君も顔をそらしてるけど肩が震えてるね。
「その後も部下をスパルタ教育でまとめ上げたり腕のいい技術者とか傭兵とか紹介してくれて。まあ、おかげで領地も派閥も発展しまくりだよ」
「え?教育に人材の紹介?ゴ、ゴトーって」
「軍事専門じゃ、ないんですか?」
「全然。私としては元々経営と領地経営と女の子集めてくるの専門だと思ってたくらいだよ」
「いや、最後は別に専門じゃないだろ」
ゴトー君からジトっとした目が向けられる。
けど、本当にゴトー君が集めてくる子たちは優秀だけどかわいい子たちばっかりだからなぁ。私だって社交界でうらやましがられるくらいには顔が良いのは自覚してるけど、そんな私も嫉妬するくらいにはかわいい子たちが多いからねぇ。
ただ、おかげで恋愛関係のごたごたが起きていないのも事実。
ここでイケメンが入ってきて誰かしらに惚れようものなら、あのまとまりは崩壊しかねない。
「本当に、ゴトー君って何でもできちゃうよね」
「そんなことはない。できることだけだ」
できることだけ。
その中に人々の頂点に君臨するということが入っていると私は考え期待して、ゴトー君に体重を預ける。
今回のは大きな1歩だけど、まだまだこの程度じゃ足りない。
ゴトー君はまだ上に行ける。
私はこの国なんか比じゃないくらい大きな帝国を、ゴトー君に捧げてみせる
これで伯爵編は終了です!
次はだれにしようかな……




