34.第2もいますけど何か?
「すみません。私たちすでに婚約しているのです。正妻は私になりますので、これからよろしくお願いしますね。側室のお二方」
伯爵から満面の笑顔で告げられた真実。それに周囲、というかこの場へ来ていた全員が驚愕することになる。
2人に迫られている時はうちの孫はモテてすごいのぅみたいな顔をしていた軍のじいさん連中も、さすがにこの伯爵との関係には口を開いて驚いているな。
爺さん達の驚く顔なんて久々に見たぞ。今度からかってやろう。
なんて俺が考えていると、
「え?ゴトー少将とローズ伯爵が…………え?」
「ど、どどど、どういうことですの!?どうして伯爵が婚約を!?」
俺へと婚約を申し込んできた2人が復活してきた。
まあ、言ってなかったから当然だよな。あまり親しいなんていう話もしてこなかったし、驚くのも分かる。
「どうしても何も、ゴトー君は恩人だからねぇ」
そういって俺へと抱き着いてくる伯爵。顔は見えないが、勝ち誇ったようなどや顔をしているのだろうと予想できた。
伯爵との婚約はかなり昔からで、男爵時代のものだったりするのだ。あの頃はまだまだ男爵も注目される前だったから特にパーティなどもせず、婚約指輪をお互いするだけだった。
「え、えぇ!?お、恩人って、少将とはこの間会ったばかりのはずですわよね!?」
「あの兄様の機体を取り戻した時のものだけで婚約したってことですか!?」
俺たちの関係性を知らない2人は、勘違いを加速させている。
なんだかおもしろいな。
伯爵も面白かったのか笑いながら、
「クククッ。違いますよ。ゴトー君の実家は、私の領地の中でもかなり有力な農家でね。昔から付き合いがあったんですよ」
「「「「え、えええええぇぇぇぇ!!!!???????」」」」
また周囲から驚愕の声が。
驚くのは分かるのだが、少し驚愕の度合いが大きいな。そこまで驚くのか、という感じなのだが、
「え?ゴトー少将って、軍関係の家の方じゃなかったんですか!?」
「ずっとそういうお家の出身だと思ってましたわ!?」
「農家から軍の幹部って、どうなってるんだ!?」
周囲から聞こえてくるのはそんな声。
…………なるほど。俺が若くから軍にいたから、相当ゴリゴリな軍事家系出身だと思われていたんだな。それなら驚きも納得だ。
そんな反応にまた伯爵は笑いつつ、
「いやぁ~。本当はゴトー君には公に婚約を発表するときに軍をやめてもらって私の補佐についてもらおうと思っていたのですが、それも難しそうですね」
などとこぼす。
ただ、その顔からは言葉の内容と裏腹に笑みが浮かんでいた。
「まあそういうことで、ダリヤ様には第2夫人………いえ、第3夫人になって頂きます」
正妻の権限、というわけでもないのだが、ダリヤが第3夫人にあることを伯爵は告げた。
当然そう言われると疑問を感じるのが、
「え?正妻を争うわけでもないのに私が第2夫人で良いんですの?」
少し早い段階で婚約を申し込んできたセシルが第2夫人になるという話になる。
今回の場合は伯爵が正妻の座にいるのであとは爵位の高い方からでいいというのが一般的な常識なのだが、まるでそれから外れるようなことを言うのだ。
「あっ。セシル嬢は第4夫人だよ」
ただ、そんな疑問を否定するように伯爵は首を振る。
伯爵が言いたかったのはセシルがダリアより上に来るという話ではなく、ただ、
「もう1人、爵位持ちみたいなものがいますから」
位が高い俺の婚約者は伯爵だけではない、ということだ。
その言葉でまた周囲がざわめきだす。
「い、いったい誰だ!?」
「今まで伯爵との婚約は発表されていなかったし、どこかの男爵家の人間が気まぐれで婚約でも申し込んだのか?」
「どこの家だ?我が家とつながりがあるなら………」
その俺の婚約者が誰なのか、そして自分たちの利益になる存在なのかと期待し探しているようである。
が、
「まあ、今度会える時にはご紹介しましょう。他国の人間なので私自身あまり会う機会の無い相手なんです」
「「「「他国!?」」」」
伯爵の言葉で周囲はさらに驚愕する。
だが、先ほどとは違いすぐに落ち着いたな。
伯爵がもともと他国とも手を組むタイプの派閥を作っているわけだし、その伯爵の婚約者である俺が他国との関係を作るために他国の貴族と婚約してもおかしくはないと思われたのだろう。
…………実を言うとその考えはかなり的外れなのだが、俺も伯爵も口にするつもりはない。
否定しないで、ただ誤解するのを黙ってみておくだけだ。
「しかし、ゴトー君。あれの手綱はしっかり握っているのかい?」
「いえ。あれは私にも対処不能です」
「それは困るんだけど?あの娘、私たちの最終兵器である代わりに弱点でもあるんだからね?」
「分かっております………ただ、分かっていることとできるということは全く別のものであるというだけです」
俺の言葉に伯爵は天を仰ぐ。
実を言うとその婚約者は逸脱者だったりするのだが、俺達でも制御不能なほどのポンコツなんだよな。フィネークのドジっ子に加えて、楽観的であまり考えが足りていないというのも加わった感じだ。
どうにか色々と手を回して今は安定させているが、いつ崩れるか分かったものではない。
「「……………………はぁ」」
嫌なことを思い出したと俺たちが疲れたようにため息をつけば、周囲からは不思議そうな目を向けられるのであった。




