33.これが正妻ですけど何か?
これ以降セシルの悪役令嬢要素出すの難しくなってしまった………
「「で?どっちを選ぶんですか(の)?」」
俺をまっすぐにとらえる4つの瞳。
そしてそこから発せられる言葉には、どちらを正妻に選ぶのかということの決定権が俺にあることを教えてくれる。
さて。ここで貴族が平民へ婚約を申し込んだ場合の話をしよう。
基本的に貴族の申し出を平民程度が断れるわけもなく、俺も現在断れる立場にない。どちらの婚約も受け入れる選択肢しか存在しないのだ。
一応例外として、お互い婚約者がいた場合は婚約が成立しないのだが、2人ともどうやらフリーみたいだからな。俺に婚約者がいたとしてもその決まりで断ることは不可能。
また、俺に婚約者がいるとしても、俺の婚約者が平民であれば基本的に貴族王族である2人が上の立場になり、正妻ということになる。そこは貴族特権だ。
が、さすがにそれだけだと貴族が顔のいい平民と好きに婚約していけるということで、貴族側に条件も存在した。
それが、婚約を取り消すことができないということだ。
例えばその平民に多額の借金があったり、呪われた体であったりしても、その婚約を取り消すことは不可能なのである。
そこが最大の縛りだな。
また、今回の場合2人はフリーなのだが、2人とも受け入れることになるので2人はこれ以降俺以外に婚約者を作ることができなくなる(俺が死ぬなどして婚約が解消されない限り)。
それは俺側に婚約者が複数いることになるからであり、婚約者がいるもの同士は婚約できないという決まりに引っ掛かるからな。すでに婚約している状態だとしても、俺に婚約者がいてダリヤやセシルに婚約者ができれば、俺たちの婚約は解消されてしまう。
…………まあ、平民との婚約は破棄できないから、俺でない方との婚約破棄は優先されるがな。順番の問題もあるので、それは2人の相手が平民であったとしても同じだ。
で、そんな理由もあって、
「「さぁ。どっちを選ぶのですの(か)?」」
2人がまたもう1度迫ってくる。
俺の正妻になれば、マウントの取り合いみたいな争いではあるがより優位に立つことができるのだ。お互い家のことと立場のことを考えれば、譲ることなどできないのだろう。
ちなみに、俺はここで婚約を受け入れた時点で平民からは外れることになる。
公の場での婚約の申し込みを受けた段階で、俺は2人の婚約者であり貴族ではなくとも平民でもないという微妙な立場になるのだ。
結婚まで行けば王配となるので貴族すっ飛ばして王族の仲間入りだが、そんなに早く結婚することもないのでしばらくはその微妙な立場のままだろう。
というか、個人的にはまだまだやらなければならないことがあるので、その微妙な立場でいさせてもらえた方がありがたい。
「…………小官は、」
俺は2人の返答を述べるため口を開く。
2人はどちらが正妻になるのかと真剣な表情で言葉を待っている。
そのまま続きの言葉を述べようとしたところで、
「少しお邪魔させてもらってもよろしいかな?」
俺の肩に置かれる手。それにより俺の言葉は吐き出される前に中断される。
聞き覚えのある、その中身を知らなければ凛としていてかっこいいと思う声に振り返ってみれば、
「伯爵………」
「やぁ。ゴトー君。モテモテだね」
伯爵。コトーネ・ローズ。
逸脱者の1人にして、今回ダリヤを国王と指示するにあたって国からいろいろと条件を引き出した大派閥の長。
引き出した条件を利用したさらなる躍進は間違いないため、先ほどまでずっと派閥の人間や派閥に加わりたい、お近づきになりたいという貴族たちに囲まれていたな。
そんな大物が来たものだから俺へ婚約を申し込んできた2人は警戒した表情を見せ、
「何ですか?まさかここでは伯爵もゴトー少将への婚約をするつもりですか?」
「まさか、利益で釣るつもりですの?」
コトーネが後出しで婚約を申し込んでくると思ったようだ。2人はまだ返事を聞いていないのだから、今申し込めば正妻になることは可能なのである。
実際、俺がここで婚約を申し込まれれば伯爵を正妻とする可能性は高いな。なんといったって、2人と違っては伯爵は逸脱者であり付き合いも長いし信用度も段違い。
口ではいろいろ言うこともあるが、俺はこの伯爵も信用しているんだ。
が、
「いやいや。そんな婚約を後出しして利益でかすめ取ろうなんて思っておりませんよ」
「なら、なぜ出てきたんですか?何か面倒な提案でもされるおつもりで?」
「ハハハッ。残念ながらそれも違いますね。面白そうではありますが………今度誰かの婚約の時にやってみましょうか」
いかにも貴族らしい悪い笑みでそういった伯爵は、俺に視線を向けてくる。俺はそれにうなずき、自分の手袋へと手をかけた。
俺たちは2人とも各々の手袋を取り、
「すみません。私たちすでに婚約しているのです。正妻は私になりますので、これからよろしくお願いしますね。側室のお二方」
「「「「………………………………はぁ!?」」」」




