31.予定外の婚約ですけど何か?
現在は王子の葬式が終わり、ダリヤが正式に次期国王として決まった式典の最中。
どうやらあの王子がいなくなったことで元王子派閥の面々の力がかなり弱まったらしく、そこを他派閥がむさぼった結果ダリヤの派閥がトップになったのだ。
で、そのトップというのがかなり圧倒的でありこれを崩すのにはかなり国内で暴れる必要があると考えられた。
国王はその暴れる度合いがひどい場合、最悪国が内部分裂するということでダリヤを次期国王として確定させたのだ。
ちなみにその上奏をしたのは伯爵であり、それを支持するということを条件にいろいろと国王からもぎ取れたと喜んでいた。
さすが、とだけ言っておくことにしよう。
「少将。式典、楽しんでいらっしゃいまして?」
「ええ。楽しませていただいております。セシル様」
式典で少し上層部やらと話をしていったんフリーになったところ、セシルから話しかけられた。
ダリヤも次期国王ということでかなり人気があり令息たちから求婚されたりしてるのだが、セシルはセシルで王子との婚約が消滅しフリーになったということでいろんな奴らから求婚されている。
そんな人気があるセシルが群がるやつらを押しのけて俺に話かけてきたものだから、周囲からの視線が少し痛いな。
「あ、あの。少将。よければ一緒に回りませんか?」
周囲の視線を煩わしく感じていると、セシルの横に立つ者からそんな提案が。
提案の主はフィネーク。
この式典だが、フィネークを含めた数人艦隊の人間も参加しているのだ。主に艦隊の上の方の立場のやつらが選ばれたんだが、フィネークは専用機を使うってことで特別枠だな。
ただ特別枠で参加させても1人にさせるとマズいということでセシルが引率をしているようだが。
「ふむ。訓練生と小官がともに回るのはかまわんが、隊長は?」
誘われたものの、セシルと俺とフィネークの3人で回るのはさすがに問題があるだろう。
フィネークはまだ平民であり引率が必要ということでセシルが隣にいてもフィネークが陰で笑われるだけで済む。が、俺まで隣にいるのは明らかに不自然だ。
最悪、セシルが貴族たちから平民を重視し、貴族を軽視しているなんて思われてしまう可能性もある。
「えぇと。セシル様も一緒にと思ったんですけど」
「今の状況でそれはまずいですわ。3人で回ることは難しくってよ」
「えぇ?そうなんですか!?」
当然そんな貴族たちの考えなどフィネークは予想がつかないようで、セシルに3人で回れないことを告げられ驚いている。
セシルにすり寄る貴族たちと関係を作れるので回れるなら3人でも良かったのだが、無理なのだから俺は最初からともには回るつもりがない。
そしてフィネークだけだと特にメリットもないしいらないんだよな。というか、一緒にいられると伯爵に会いに行きにくいし。
「であるならば、訓練生はセシル様と共に回った方が良いだろう。こういった場所では立場的に小官では訓練生を守りかねる」
「あっ、そんな…………守るなんて照れます」
「フィネーク。頭がピンクになってますわよ」
俺の言葉を曲解したようで、顔を赤く染めるフィネーク。
あきれる勘違いだが、まあ実害がないのでかわいく思えるな。特にあの勘違い王子や攻略対象どもを見た後だとこういう勘違いはどうしてもな………比較対象が悪すぎるんだが、やはりかわいらしく見えるな。
「セシル様。引き続き訓練生をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ。もちろん構いませんわ」
セシルがフィネークのことは快く引き受けてくれた。
途中で俺に渡す予定だったのかもしれないが、最初からやっていたことなのでそこまで苦ではないだろう。
とりあえずフィネークのことを片づけた俺たちは軽く雑談を。
「で、これから少将はどなたへあいさつに向かわれるつもりですの?」
「仕事の関係でかかわったことのある方々に軽く挨拶をしてこようかと」
「あぁ。なるほど。軍人でも貴族とのかかわりはまれにありますものね」
「ええ。特にセシル様などがいらっしゃらない時などは依頼を受けましたし」
「そういえば、殿下のあの機体の件も貴族からの依頼でしたわね」
俺の今後の行動を聞き出され、逆にセシルたちの今後の予定を聞く。
お互いジャブみたいな会話だが、セシルの今後の予定というのはほかの貴族たちにとっても重要。どこの貴族に挨拶へ行くのかなど、今後のためにも無視できない内容が出てくるのだ。
周囲の貴族たちは分かりやすすぎるほどに集中して俺たちの会話へ耳を傾けていた。
…………おかげで、とても静かだな。
そして、静かになったからだからだろうか。
「少将」
「ん?いかがいたしましたか?セシル様」
俺へと向けられる真剣な目線。
それに俺は見覚えがあり、少なくない嫌な予感がした。
「少将。いえ、ゴトー・アナベル殿。私はあなたに、婚約を申し込ませていただきますわ」
「………………」
来てしまった。いつか来るとは思っていたんだ。
これが起きてしまえば、
「待ってください」
「ん?ダリヤ。どうかされましたの?」
セシルの婚約の申し込みを止め。
やってくるダリヤ。その表情もまた真剣であり、
「ゴトー・アナベル殿。私もあなたに婚約を申し込ませていただきます」
「………………」
予定外の事態だ。
2人から恋を応援されていたフィネークは、知らされていなかった事態に驚き唖然とした表情で俺と2人を交互に見ている。




