27.ミーハーですけど何か?
王子はミサイルによって基地とその周辺にいたほとんどの敵艦を消し飛ばした、
その威力を見て楽しくなったのか興奮しているのかは知らないが、作戦にない動きまで見せているな。
「殿下は次の基地に向かうとおっしゃられているようですね」
「あぁ~。殿下らしいですわ。自慢したいのが丸わかりですわね」
「ですねぇ。しばらくは止まらないでしょう」
「え?じゃあ、私たちはどうすればいいんですか!?作戦だともう帰る予定だったんですよね?」
王子は遊び足りない子供のように近くの基地へ向かって行ってしまった。さすがに戦闘機体だと遅いから、護衛の船には乗せられているがな。
それでも、
「あっ。本艦には距離を詰め過ぎずについてきてほしいとのことです。あと殿下のメッセージで、『遠くで頑張ってる僕を見守ってほしい』っていうのが来てますね」
「「「「殿下(兄様)………」」」」
微妙な表情で頭を押さえる部下や3人娘。
遠くから見守ってとか言うのが、離れた距離でついてきて来させるっていう発想につながるのが本当にひどいな。そこで待っててとか言うところだろうに。
「従わなければならないのは確かですが、どの程度の距離感でついていくのかが難しいところではありますね」
部下が真剣に悩んでいる。
まあ、どれだけ内容があほくさくても相手は王子だからな。命令されれば真剣に対応しなければならない。
「ふむ。では、レーダーの探知範囲ギリギリをついて行けばいいだろう。30秒に1度くらいレーダー範囲内に入ればついて行っていることは分かるはずだし、遠くから見守られているとも感じられるはずだ」
「分かりました。そうします」
ずっと見えている位置にいるというのでもいいのだが、それよりもたまに入ってくる方が精神的にはうれしさがあるだろうからな。
ずっと見えているものより消えて現れてを繰り返すものの方が大事だと気づきやすいんだ。
「え?少将、フィネークを殿下に意識させるようにしたら駄目じゃないですか?」
あっ、そうだった。
なんていうことを思いつつもついて行けば、フィネークに良いところを見せたいのであろう王子が次々に基地を回っては破壊していく。
「ここまでついてこさせておいて、まったく私たちには戦う機会がないんですのね」
「全く私たちの方には敵が来ませんからねぇ。本当にただただ見せびらかしたいだけなのでしょう」
セシルとダリヤが疲れた顔で王子の機体が動いている映像を眺める。
それと同じようにフィネークもしているのかと思いきや、
「キャアア!!!!9つ目!あと1つで10個目ですよ!」
「え、ええ。そうですわね」
「いいですね!ずっと見てたいです!!」:
目をキラキラさせキャァキャァ騒ぎながらその活躍の様子を見ていた。
………何だろうか。俺も微妙な気分になっている。とても変わり身が速いな。
「強くてカッコイイですよね、あの殿下の専用機!………って、あれ?皆さんどうしたんですか?」
「「「「フィネーク………」」」」
微妙な気持ちになったのは俺だけではなく、部下やセシルやダリヤから複雑そうな視線を向けられている。
あれだけストレスで嫌がってた相手だというのに、活躍しだしたらこの反応なのだ。ちょっとどころではなく、複雑な心境にもなるだろう。
「殿下の思惑通りということですかしら」
「そうなのかもしれませんね。フィネークがまさかこんなに移ろいやすい心を持っていたとは………」
「えっ!?ほ、本当にどうしたんですか!?」
あきれたような声を受けて困惑した表情を見せるフィネーク。
それからしばらく周囲からの視線を受けて居心地が悪そうにした後、
「あっ、も、もしかして私、殿下に恋したとか思われたんですか!?」
「まあ別に顔は良いわけですし、悪いとは言いませんわよ?」「おすすめはしませんけど、友人の思いは尊重したいですからね………」
「路線は違うけど悪い男が好みなのは変わらないんだねフィネちゃん」
「まあ、権力と力を見たら目がくらむことってあるよね?」
やっと理由に気が付いたようだが、否定されてもな………。
なんて思った瞬間だった。
「わ、私は少将一筋ですからね!殿下は恋愛対象ではなく日曜の朝にやってるヒーローみたいな感じです!!」
「「「「フィ、フィネーク?」」」」
俺以外の全員から、今度は困惑した視線を向けられるフィネーク。
それに首をしばらく傾げていたが、全員視線で俺とフィネークを交互に見出したことで自分の失敗に気づいたようで、
「あっ!?あ、ああああああああああ、あの!?べ、別に今のはそういう意味じゃなく、いや、違わなくはないけど、その、違くて………」
顔を真っ赤にしながらあわあわと手と首を振りつつ言葉を探している。
言葉を否定するのはそれはそれで何か違う風にとらえられるかもしれないと思って、思考がパンクしそうになっているな。
………ドジっ子だからあるとは思っていたが、まさかここで口を滑らせて告白してくるとは思わなかったな。とりあえず、
「ふむ。小官は突発性の難聴により先ほどフィネークが言っていたことはよく聞こえなかった。それでいいか?」
「そ、それは!?………あの、その、今回は」
今回はそうして欲しい。
その言葉が出てきそうなときだった。
「フィネちゃん!気を付けて!」
「少将のことだから聞かなかったことにして今後もうやむやにしていくつもりだよ!」
「決めるならここでバシッと決めないと!」
部下たちが一層にいらんことを吹き込み始める。
「お前たち………仕事中だぞ」




