26.恐ろしい威力でしたけど何か?
王子が動く。
やっと本番になったのだ。
「どうなりますかしらねぇ」
「機体自体は強いのですから、あとは兄様がそれをどこまでうまく使えるかといったところなのですが」
セシルやダリヤも興味はあるようで、味方から送られてくる王子の機体の映像を眺めていた。
俺は影武者を疑ったのだが、
「この動きから考えるに、殿下本人なのでしょうね」
「ですわねぇ」「ですね」
俺も2人も、操縦者が王子なんだろうというのが分かる。
なにせ、動きが非常にぎこちないのだ。初心者丸だしなゆっくりとした動きであり、
「うぅ~ん。素人丸出しではありますけど」
「あるんですけど、フィネークより上手いかもしれませんね」
「ですわねぇ~」
俺は何も言わないが、2人ははっきりといったな。
正直に言って、操縦のレベルはフィネークよりも高い。フィネークがぎりぎり安全ではあるけどまだ危なっかしいものとすれば、王子の方は初心者ではあるけど1つ1つの動作が丁寧で安心してみていられるもの。
「………訓練生には、ぜひとも訓練を頑張ってもらいたいところですね」
「そうですわねぇ~」「付きまとわれるのから解放されることがあれば、みっちりまた訓練をしましょう」
とりあえずフィネークのさらなる訓練が決まった。協力する2人とも、非常にやる気のある顔をしているな。恐らくフィネークは自分が強いなんていう幻想をバキバキに砕かれることだろう
南無。
「あっ。そろそろ殿下が攻撃するようですわ」
「どうなるんですかねぇ」
王子の操縦技術の評価をしていたら、攻撃が行われる時間となった。
王子の専用機がアームに唯一ついている攻撃用のミサイル兵器を敵の基地に向けたな。
今のうちにフィネークは船の中へ戻らせておくか。何かあった場合には船内の方が安全だと思うし。
「………も、戻りました」
「あら。おかえりなさいフィネーク」「お疲れ様です」
「あっ、ありがとうございます。皆さんご迷惑をおかけして本当に申し訳なく………」
フィネークが船の中に戻ってきて、俺たちへ頭を下げる。
そんな瞬間だった。
「っ!?ひ、光が!?」
「うぅ~。まぶしいですわね」「まあでも、フィネークの出した光の魔法に比べれば」
「ダリヤ様今別のことでへこんでるのに追い打ちをかけてこないでください!!」
3人娘、というかダリヤとフィネークはふざけているが、とてつもない光量で俺たちは照らされた。
というか、周辺一帯が完全に光に包まれたな。それほどまでに強烈なものだった。………目をやられているやつがいないかだけが心配だ。いつぞやのフィネークが光の玉を出した時のように。
光が収まると敵の基地の様子も見えてきて、
「ん?見えて………」
「「「「ない?」」」」
俺たちはそろって首をかしげる。
何せ、先ほどまでそこにあったはずの基地が、完全に消え去っているのだ。
「なんだ?本艦だけどこかに飛ばされでもしたのか?」
効果は高そうだったが知らない兵器だったため、そういう不具合が起きる可能性もないわけではないと思う。なんて俺は王子の使ったミサイルを思い出しながら考えた。
が、
「い、いえ。確認した限り味方もすべて周辺にいますし、位置が変わったようにも思えません」
部下から俺の考えは否定される。
つまり、
「殿下の攻撃で、敵が消えた、ということか?」
「………おそらく」
遠慮がちにうなずく部下。まじかよ、である。
強いのは分かっていたが、それでもここまでだとは思っていなかった。せいぜいフィネークのレーザーの3倍くらいだと思っていたんだがな。
「消滅したのか転移したのかというのも気になる点ではあるが」
「爆発前のエネルギーから考えますと、消滅だと思われます」
「そうか………」
基地も、そしてその周りにいる数多の戦闘艦も。すべて王子のミサイルだけで消し飛ばしたというのだ。
ふざけているとしか思えない。
「ミサイルというのが、また何ともな………」
「そうですね。最悪暴発すると殿下も巻き込まれかねません」
今回もそうだったが、攻撃を行う際にはかなり距離を開けておく必要があるだろう。
ただ逆に言えば、距離を開けて暴発さえなければここまでの結果を確実に出せる兵器であるということだ。
「あれ、絶対に殿下に渡したら駄目だったやつですわ」
「ですねぇ。恐ろしいことになってます」
「こ、怖い、ですね」
3人娘たちはどこかおびえて、そしてどこか諦めたような顔をしてそれを見ていた。
王子はフィネークに活躍を見せたいなどと言っていたが、これは間違いなくフィネークにも届いている。ただ、それがかっこいいと言われるような活躍かどうかは別としてな。
「敵にここまでの物を作ることができる技術力があったというのが問題ですね」
「そ、そういえばあれって敵国から奪ったものでしたわね」
「そうでしたね………あんなものが来たらどうしようもありません」
「う、撃たれる前に撃つしかないですね!」
これから先、あのレベルの攻撃をこちらが受ける可能性がある。それに備えなければならないのだ。
………かなり無理ゲーだな、
「あっ。殿下がどこかに行こうとしてますわ」
「あぁ。本当ですね。護衛艦が慌てて追いかけてます。かわいそうに」




