21.噛みつきあってますけど何か?
「フィネークを連れてこい!」
「あら。いったいフィネークに何の用でして?たかが訓練生がこのレベルの会議に参加してしまうとなると、軍として示しがつきませんのよ?」
「ただの訓練生ではないだろ!フィネークは専用機に乗れるはずだ!」
「ええ。それはそうですわね。専用機に乗れますし、軍にとって重要な人材であることは間違いないですわ。しかし、それと階級には何の関係もなくてよ。というか、フィネークは訓練生であってこの会議に参加できるような軍略などの教育は受けてませんの」
「それがどうした!そんな教育を受けていないのはお前もダリヤも同じだろう!」
「そうですわね。しかし、私やダリヤには立場というものがありますの。フィネークは平民ですし、特にそういうものもありませんの」
キャンキャンと吠えあう若人たち。基地のお偉いさん方は居心地悪そうに下を向いて話が終わるのをひたすら待っているな。目線を合わせると巻き込まれたくないという思いもあるのだろう。
よく分かるぞ。俺も一緒に知らんフリをしていたいくらいだ。
ただ、さすがにこの基地という場所でずっと生産性のない無駄なことをするのもどうかと思うので、
「隊長。お戯れはほどほどに」
俺がいったんセシルを止めるという構図を作る。
こうなると、
「そうですよ、セシル。兄様の言葉に1つ1つ真面目に答える必要はありません。ただフィネークは来ないとだけ言っておけばいいのですから。兄様は兄様で、そんな子供みたいに駄々をこねないでください。フィネークは睡眠をとる予定なので来ませんよ。淑女の眠りは妨げるものではありません」
「ダリヤ様の言う通りですな。殿下、ここには国を守るために働かなければならないものが多く集まっておりますので、関係のない殿下の恋路で時間を浪費させてしまうのはもったいない事でしょう」
ダリヤも王子側のお目付け役みたいなやつも止めるように動く。
王子側は先に止めるとメンツの問題があるのでこちらが動かないとマズかったのだろう。ほっとしたような顔をしている。
「………はぁ。そうですわね。わざわざフィネークが来ないという説明のためにここまで時間を使うのも無駄でしたわ」
「………眠っているというのなら邪魔するのも良くないか。仕方がない。今回は諦めよう」
2人もいさめられてようやく言葉を止める。
今いる立場的にセシルの味方をしてやりたい気はするが、セシルはセシルで熱くなりすぎなんだよな。王子に対して複雑な感情があるのは理解するが、それで周囲の時間まで無駄にしてほしくないというのが本音だ。
王子は言わずもがな、今回はセシルも悪い。
「それでは、殿下がこの戦場でどう動いて私たちがそれに合わせてどう動くのかというお話をしましょうか」
「ふん。お前の意見に同意するのは甚だ遺憾だが、今回ばかりは仕方がないな。話をするとしよう」
雰囲気の悪さ全開のまま会議の本題にやっと入れるようになる。
その後は何度かセシルと王子がかみつきあいながらも計画が立てられていき、
「やはり近くの護衛としてはフィネークをだな」
「殿下。それは申し訳ありませんが不可能です」
「な、なぜだ!」
「フィネークの専用機は殿下と同じ遠距離型であり、あまり護衛には適していないタイプです。護衛が必要な場面ではすぐに破壊される可能性が高いですし、殿下の身を守れない可能性も高いですので」
「そ、そうか………」
王子の意見はたまに俺も否定している。特にフィネーク関連の部分はな。
基本的にその否定する理由がフィネークの命の話になってくるので王子も怒るに怒れず、歯がゆそうな顔をしている。
………戦場にまで色恋を持ち込まないでほしいんだがな。まあ、俺が言うのもどうかとは思うが。
「といいますか、殿下の護衛として選ばれた船は殿下の機体との相性も考えたうえで選ばれているはずです。ので、そちらに護衛させるのが1番ではないでしょうか?」
「し、しかしそれではフィネークが」
「ふむ。フィネークにこだわっていらっしゃることは分かりますが、殿下はフィネークに活躍を見せるとおっしゃっていたではありませんか。ここで下手にフィネークを選ぶよりは、1番活躍できる選択肢を選ぶ方が成果として見せられるものも多くなるとは思うのですが」
「だ、だが、見てもらうのがやはり」
「殿下。殿下の専用機による攻撃は、たとえ離れていたとしても見ることができるはずです。いえ、活躍をしたと誇るためにはそれが最低限必要なのではないでしょうか?………それに何より、殿下の気持ちは目で見せないと伝わらないようなものなのですか?」
「っ!」
なんか面倒なことになりそうだったが、口八丁で丸め込んでる。
………俺、わざわざ戦場近くの基地にまで来て何やらされてるんだろうな。俺たちは戦いに来たのであって、王子の説得しに来たわけじゃないんだぞ?
「少将!確かに君の言うとおりだ!俺は間違っていた!………たとえどれだけ離れていようと愛は消えない!フィネークに届くほどの活躍をして見せよう!!」
………………………………あっそ。




