19.ため息が増えましたけど何か?
王子が戦場に出る。
そんな発表が国から正式に行われた。
「あの専用機を最低限使いこなせるようになったということですわね」
「おそらくそうでしょうね。恐ろしい話です」
「殿下が最低限動かせるといいなっていう思いと、私よりうまいのは嫌だっていう思いが拮抗しています………」
3人娘も三者三様な反応を見せているな。
セシルは思い悩むように、ダリヤは心底いやそうに、フィネークは怖がるように。それぞれあまりうれしそうではないような表情だ。
それは単純に強い専用機に乗って王子が活躍するのが嫌だからということだけではなく、
「同行者に私たちをご指名とは」
「いったい何が目的なのでしょうね。間違えたとか言って私たちを殺そうとして来ないと良いのですが」
「せっかく貴族様から離れられると思ったのに、今度はまた殿下なんて………」
実は俺たちの艦隊が、一緒に同行してほしいということを王子から頼まれたのだ。さすがに軍の艦隊の1つとして任務のない状態で依頼を断るわけにもいかず。
誰もノリ気ではない中で王子に同行することになったのだ。
ちなみに俺たちが同行することになった理由は、
『私が専用機交換するときにいろいろ言った影響で、君たちに実力を見せつけたいって思っているみたい。ごめんね。テヘペロッ!』
とかいうメッセージが伯爵から送られてきたので、間違いなくあいつのせいである。
「どういう思惑なのか分かりませんわね」
「いったいどんな悪だくみをしていることなのやら」
「こ、怖いです………」
伯爵からのメッセージを見る限り、3人娘の様子は怖がり過ぎといった感じなのだろう。
ただ、伯爵の話とはいえ鵜呑みにするのもどうかとは思うし、これくらい慎重な方が良いのかもな。油断して面倒なことを引き起こすのもまずいし、伯爵のメッセージは誰にも見せたり内容を知らせたりする必要もないだろう。
で、伯爵は王子に何を吹き込んだのか知らないが。
同行しだしてから毎日のように、というか、1時間に1回くらいのペースで、
『やぁ。フィネーク嬢元気かな?今回確実に成果を出して見せるから、期待していてくれ』
『フィネーク嬢、いや、フィネーク。おはよう。元気かな?僕は元気だよ。本番に向けてしっかりと訓練しているから、期待しておいて』
『フィネーク。今日は………』
とかいうメッセージが送られてきたり、果てにはこの船と通信をつないで直接フィネークに話しかけてきたり。
仕事中になんてものを送ってきているんだと言いたい気分だが王子相手だから俺たちは何も言えず、おとなしくしているしかない。
「はぁ~。殿下、早く寝てくれないでしょうか………」
フィネークは王子が寝るのをものすごく期待している。王子が寝たらその時間は自分が起き、起きてきたら逆に自分が寝るということを繰り返しているのだ。そうしてできるだけ王子と起きている時間がかぶらないようにして、直接通信がつなげられて話すことになるのを避けているわけだな。
「お疲れ様ですわフィネーク」
「激しく同情しますが、何もしてあげられないですね………」
できるだけ被らないようにしていても、向こうは向こうでフィネークとできるだけかぶせようとしている。そのため結局1日に1度くらいは通話をさせられることになり、フィネークは疲れ切っているのだ。
そんなフィネークをセシルとダリヤはいたわっているが、そこまで何かができるというわけでもない。せいぜい飲み物を渡したり優しくなでたりしてやる程度だな………まあ、公爵令嬢と王女から飲み物を渡されて撫でられるっていうのもそれだけでかなりすごい事ではあるのだが。それとフィネークの気持ちが晴れるというのは別の話だろう。
「はぁ~。少将ぅ~」
「………………」
で、そんなフィネークは現在疲れ切った様子で俺にしな垂れかかり、顔面をすりすりとこすりつけてきている。
一応王子から惚れられているということで悩んでいるフィネークにこんなことをされるのは非常に微妙な気分にさせられる。バレたら最悪俺が恨まれて殺されかねん。船の内部カメラに映る可能性があるので風魔法で見えないようにはしているが、船に内通者がいたらその時点でアウトだな。
あと、いくら俺が仕事とプライベートを完全に分けて個人の感情はほとんどこの仕事中には入れないようにしているとはいえ、さすがに1日中そういうお年頃の女子からこんなことをされると複雑な気持ちになるんだよな。
自制しなければならないという気持ちと自由時間がかぶるときくらい良いんじゃね?、みたいな気持ちがせめぎあってしまう。
………フィネークの精神面を考えるとやめさせるのはできないし、本当に困ったものだ。いつか暴走するのではないかと自分の将来が怖くなる。
「「「「………はぁ~」」」」
フィネークも俺も、そしてそれ以外の面々も、ため息が増える今日この頃なのであった。
………早く休暇になって欲しい。
新作
VRゲームで攻略などせずに勉強だけしてたら伝説になった
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