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12.遠いものを求めているようですけど何か?

《sideコトーネ・ローズ》

「いやぁ~。儲かった儲かった。ふふふふふふふっ!」


思わず笑みが漏れてしまう。

他の貴族から見られたら確実に揚げ足取りなり何なり付け込まれる可能性があるけど、それでも笑ってしまう。ここが個室でよかったよ。


「さすがはコトーネ様でございます!」

「あのような有利な条件を引き出すとは、さすがでございます」


部下からのヨイショ。

うちの部下たちは本当に忠誠心が高くてヨイショも全部本心みたいな感じ。だけどやっぱりヨイショなのには変わりないし普段は嫌なんだけど、今回ばかりは不快感を感じない。

何せこれは、見方によっては共同作業と言えるのだから。


「さすがはゴトー君だよ。私の欲しいものは物でもタイミングでもなんでもくれる」


ゴトー君の部下があの間抜けな王子を惚れさせてくれたからこそ、そして、あの公爵令嬢を鍛えてくれたからこそここまで有利な条件を王子から引き出せた。

負けて悔しさを募らせているところに強さを示せば惚れ直してもらえるかもしれないなんて言えば、コロッと誘いに乗ってくれた。王子から引き出せたのは王子派閥から完全に攻撃をなくすことと、一部の宙域の譲渡。おかげで今まで以上に派閥は安定するし、私が自由に動きやすくなる。


どれもこれも、全てゴトー君が種をまいてくれたおかげ。

本当に彼には感謝が絶えないのだけれど、


「「「「………」」」」


部下たちはゴトー君の名前が出てきた瞬間に押し黙ってそっぽを向く。ゴトー君は部下たちを徹底教育した人間だからね。かなり恐れられているんだよ。

なんだか懐かしくなって、私は出会った頃のことを思い出す。






ゴトー君と初めて会ったのは、彼がまだ非常に幼く、私も()()として当主に就任したばかりの時だった。

当主に就任したということで、近くの貴族やかかわりのある貴族、そして有力者なんかのあいさつ回りをしている中のこと、


「お久しぶりですアナベルさん」


「おやおや。コトーネお嬢様じゃないですか。お久しぶりです。あと、お父様のことはお悔やみとともに、ご当主への就任へのお祝いを申し上げます」


「ああ。ありがとうございます。父への葬儀にお呼びできず申し訳ありませんでした。少し死亡原因などで………」


アナベル家は。私の領地で代々続く巨大な畑を持つ農家の家系。私も以前から面識はある相手であり、険悪になることもなく挨拶は済ませることができた。

そんな中、


「ああ。そうそう。私の家にもやっと子供が産まれまして。ぜひともお嬢様にお目通りをお願いしたいのですが」


「おお!そうなのですね!もちろん構いません。将来この畑の主となる子なら私としても仲良くなっておきたいですし」


「ハハハッ。そうですか。では少しお待ちを………」


アナベルさんから指示が出され、普段は畑で働いているのであろう人がその子供を呼びに行く。

そう、この子供こそがゴトー君であり、


「初めまして男爵様。私、ゴトー・アナベルと申します。以後お見知りおきを」


子供らしからぬ挨拶と言葉遣い。それだけならまだ教育の賜物のように感じられたが、それ以上に彼の雰囲気は完成されていて、私を見つめる目はどこまでも深い闇のように私の心を飲み込んだ。


「あっ、ああ。よろしく」


私は茫然としそうになるが、それでもどうにかここまでの貴族として社交界で鍛えた鉄の仮面を被り返事をした。

その後彼と少し話してみれば彼の話はとても興味深く、私には希望があるように思えた。


「良いですか男爵様。現在の資金はここからこのように流れているわけですが、実際に豊かにはなっていません。これだけの資金が流れているのに景気が良くならないというのはおかしいでしょう」


「はい。そうですね」


「分かってますか?つまりこれは、中抜きが行われている可能性もあるということですよ?」


「………はい」


彼はいくつか子供が持っているのはおかしいと思うような資料を渡してきて、それぞれ彼のおかしいと思う点を示してくる。

その意見はどれも的を射ていて、私の管理能力不足を痛感させるものばかりだった。

ただそれにより、私は各所で不正を発見することになる。悪い部分を切除することで損が少なくなり、多少領地の経済も上向きになり。

若き天才なんてこのころから言われ始めた。本当は、ゴトー君のおかげだと言うのに。


私が私の物でない功績で賞賛され、喜びと申し訳なさが心の中を支配する中。私は、感謝を伝え謝罪するため、もう1度彼のもとを訪れた。

大人びている彼からどのようなきつい言葉が飛び出すのかと身構えていたけど、


「あっ。男爵様。いらしてたんですね。今日はちょっと新しい政策をですね………」


彼は私の想像以上に格が違った。

彼は問題として認識してはいたけど、その問題をたいして大きなものとしてとらえていないようであった。それと同時に、それによって生まれる功績や賞賛も。

それよりも何か、その先に彼が見ているのであろう何か大きなものを、ひたすらに追い求めているように感じた。

彼が何を求めているのかは知らない。けれど、彼の目標とは違ったとしても私は思う。













「ゴトー君。私はね、君こそが皇帝にふさわしいと思うんだよ」

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