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8.王子ちょろいですけど何か?

学園内に入った俺は、最初にフィネークから発見された。

彼女は焦った様子であり、余裕は見られない。何があったのかと話を聞いてみれば、そこから語られるのは衝撃の事実で、


「隊長と殿下が決闘とは、いかなる了見だ?」


「そ、それが………………」


フィネークが少し視線を逸らす。まるでその様子は、何やら話したくないことがあるかのように見えるものだった。

フィネークがしばらくそうして発言を躊躇していると、


「兄様が、フィネークを愛人にしたいと言い出したんです」


「おや。これはダリヤ様。ご無礼を」


俺はすぐにいったん膝をつき、話しかけてきたダリヤを見る。

その表情はフィネークほどの焦りがなく、どちらかといえば困っているのが半分面白がっているのが半分といった感じだ。

というか、


「訓練生を愛人にということは、殿下が訓練生に惚れたということでしょうか?」


「そうなりますね」


「それはまた………………」


俺は何とも言えない気持ちになってフィネークを見た。

彼女は恥ずかしそうに顔を両手で隠し「うぅぅぅ……」と力なくうなっている。うれしさもあると思うのだが、表面上そこまでそういったものは見られない。どちらかといえば先ほど焦りが強く見えたように、困っているという方が感情として強いのだろう。


「わ、私はその、あこがれの人がいるのでそう言われても困るというか………………」


そんなことを言いながら俺のことをチラチラと見てくるフィネーク。そういう意味だろう。

とりあえず無視しておく。


「なるほど。では隊長は訓練生を守るために決闘を?」


「ちょっ!少将!?さすがに無視はひどいです!!」


「実はそういうわけでもなくてですね。もちろんそういった気持ちもあるとは思いますが………………」

「ダリヤ様まで!?ひどいです2人とも!!」


フィネークが驚愕して、俺たちを責めるような視線に。

さすがにかわいそうなので、少しは反応してやろう。


「ああ。すまないな。訓練生が殿下に求愛されているのを煩わしく思っていて、誰かに恋い焦がれているのは分かった。まあしかしそれは置いておいて、だ」


「置いておくんですか!?せっかく反応してくれてうれしいとか思ったのに、やっぱりおいておかれちゃうんですか!?」


「そうですね。おいておきましょう」


「………………ひぃ~ん」


不憫なフィネークなのであった。

いつもならもう少しかまってやってもいいのだが、さすがに今は緊急事態とまではいかなくてもすぐに対応はした方がよさそうな雰囲気。

ということで、本題に戻る。


「改めてお尋ねしますが、どういった状況になっているのでしょう?」


「そうですね。順を追って説明しましょう。まず最初に兄様とセシルが言い争いをして、兄様がボロボロに負けたんです」


「はぁ。なるほど?」


なんとなくイメージできた。

セシルを隊長にしたときは王子にいろいろと言われてセシルがどちらかといえば口だと負けていた印象だが、あの頃は状況的にも気持ちの面でもセシルが負けていたのだ。

今ではセシルが圧倒的に有利な精神状況であるため、王子が逆に負けるのも理解できる。

そして、そこでただでさえ精神的にあれている状態で敗北した王子はさらなる悪化が見込まれ、


「そこでたまたま近くにいたフィネークが優しくしたようでして」


「………………それで惚れた、と?」


「はい」


ちょろい。王子ちょろい。

あんなにセシルを嫌がっていたのに、他の子にはちょっと優しくされただけで惚れてしまうのだ。ちょろいにもほどがあるだろう。


「ただその時は特に大したことはせず、礼を述べただけだったようなんです」


「ほぉ?では何が問題に?」


「そのあとセシルと私とフィネークの3人でいるところを兄様に見つかりまして。そこで」

「そのぉ~。セシル様のところではなく僕のところに来ないかと誘われまして」


「なるほど」


ダリヤの視線を受けたフィネークが言われた内容を語る。

確かに嫌いな相手の隣に好きな相手がいたら、そんな奴の隣じゃなくて自分のところに来て欲しいとかいう気持ちも分からなくはないよな。

ただ、


「何か喧嘩をしていたとかいうこともなく、でしょうか」


「と言いますと?」


俺の質問の意図が分からなかったのか、ダリヤが首をかしげる。

まあ要するに、


「仲良く話しているように見えるところへ近づき、自分の下へなどと殿下はおっしゃられたのでしょうか?」


「あぁ~。そういうことですか」


もし何かいじられていたり、ちょっとけんかしていたり。

そう言おうところで、少し不穏な空気になっていた場合。その場合は、救ってあげようといった気持ちもあの思い込みの激しそうな王子なら持つかもしれない(偏見?)。

が、


「あの時はかなり盛り上がっていまして」


「どちらかというと失礼なのですが………………しらけるタイミングでした」


フィネークがバッサリと切り捨てる。

タイミングも何もかも悪い王子であったということだ。


「まあそういうわけで、フィネークを解放して愛人にしたいとか矛盾したことを言う兄様と、そんなことはさせないというセシルが決闘をするわけなんです」

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