6.性能は艦隊レベルですけどなにか?
弱った敵はもう相手にする必要もない。
追い詰めすぎると思わぬ痛手を受けるなんて言う話もあるのだが、遠距離から敵艦に攻撃をかすらせるだけで倒せるのだからあまりそれも考える必要はない。
ただひたすらにそうして適当に攻撃がかすることだけを待っていれば、
「敵艦全滅しました」
「そうか。到着までに終わるとは予想外だった」
適当に攻撃しているだけだったのでこんなに簡単に終わるとまでは思っていなかった。
本当は残ったのを伯爵の手持ちの私兵とぶつけさせる予定だったんだが……まあそうなったのなら仕方がない。
特にまずいことはないし、予定どおり報告しよう。
「……ということで、依頼は達成しました」
「………………」
伯爵に奪ってきた専用機だったものを見せる。しかし、言葉は帰ってこない。
伯爵はしばらく呆然とした様子で専用機の慣れの果てを眺めた後、天を仰いだ。そうしたい気持ちはよく分かる。
それからしばらく時間がたった後は、
「ゴトー君。よくやってくれたね!」
「そういっていただけると光栄であります」
「うんうん。まさか傷1つなく、そのままの状態で専用機を持って帰ってこれるなんてね!私は全く予想してなったよ!!」
「………………伯爵。現実逃避はおやめください」
お礼を言われたのでこの結果でも良かったのかと思ったが、どうやらただ現実を認めていないだけだったようだ。伯爵の目はかなりまずい状態のいわゆるぐるぐるしている目になっている。
「仕方ないだろう?そうでもしないとやってられない気分なのだよ」
「そのお気持ちは理解できますが、現実から目を背けたところでどうにもならないかと」
「分かってる。わかってるけど、それでも今だけはそうしていたい気分なのさ」
「今だけって…………伯爵の現実逃避はよくあることではないですか」
「そんなことはないよ!?さすがに偏見だよそれは!!」
伯爵は俺の言葉に目を見開き、激しく首を振る。首がもげそうなほどだ。
どうやら伯爵個人としては、現実逃避していることを否定したいらしい。それもまた現実から目を背けていると言えるのだが、
「ゴトー君。私がそんなにずっと現実逃避してたら仕事は進まないんだからね!私とてそこまでの余裕はないんだよ!?」
「それを現実逃避している今言われましても……」
「うぐぅ」
伯爵の言い訳に、俺はジト目を返しておく。伯爵はそう言われると何も言い返せないようで、おとなしく押し黙った。
そうして少しふざけた会話をした後、
「で?結局どうされるんですか?当然報酬は頂きますが、伯爵はこれを渡して終わりというわけにはいかないのでしょう?」
「それはそうだよ。どうにか先方を納得させないといけないけど。でも、とりあえず検査の結果待ちかな。さすがに改造された専用機の情報が出るまではどういう対応するのかなんて決められないよ」
伯爵が言うように、まだ専用機が改造されてどうなったのかという詳しいところは分かっていない。
とりあえず外見はひどいものになったというのが感想だが、性能といった面はさっぱり分かっていないし、
「まあろくなことにはなっていないと思うけどぉ………………なんて言ってたら来たよ。ほら。ゴトー君も見てみたまえ」
詳しい検査などが終わったようで、伯爵の方に結果がお送られてきた。俺に隠すとかいう気はさらさらないようで、わざわざ俺の隣りに移動してきてまで俺にデータを見せてきた。
このままひどい内容を肴にしてやけ酒でもするのかと思ったが、
「あぁ~。ひどいね。機体の性能とか一般機以下じゃないか。最低限のエネルギー以外すべて魔力装填式ミサイルに変えたみたいだし。たいして意味もないのにねぇ。威力もせいぜい艦隊3つを一撃で葬り去るレベルなんでしょ?」
「そうですね。わざわざ全体的な性能が上がった分を取り払ってまで回して艦隊3つ分ですか」
俺たちはあきれたようにつぶやく。
「「………………ん」」
そして気づいた。かなりふざけた内容のことを口走ったことに。
だって、
「え?3艦隊を、一撃?」
「聞いたことがないですよ戦闘機体でそんな威力なんて。我が艦隊にいる専用機の最高火力でさえ戦闘艦2隻を沈めるのがせいぜいだというのに」
フィネークの乗る例の金ピカな専用機でさえ、一撃で艦隊を葬り去るなどということはできない。
だというのに、この敵が作った専用機はそれができるとのたまうのだ
「これは、確実に敵側の技術力が高いという話にするのは無理がありますね」
「そうだね。恐らくこのレベルのものを作ったんだからいると思うよ」
俺たちの頭によぎる存在は1つ。
それは、
「「ドワーフ」」
である。
さらわれて奴隷となっているドワーフがいるのは確認が取れている。
これ以上の増加はあまり考えにくいものの、今までさらわれただけでもそこそこの数はいるのだ。敵国にそのさらわれたドワーフがいたとしても、何らおかしいことはない。
「ま、まあ、その技術をもってして改造された専用機を奪えたのは、よかったのかもしれませんね」




