5.変わり果ててますけど何か?
専用機が改造されまくって、まったくの別物に変貌を遂げていた。
通常の物よりすらっとしたアームだったはずのものがなぜか逆にぶっとくなり、まるでそこからミサイルでも撃ち出しそうなほどのサイズになっている。
そして、
「武装が、全部はがされてやがる」
専用機のために取り付けられた各種武装が、全て取り払われていた。
残っているのは、まるでミサイルでも打ち出しそうだと俺が表現したアームに本当に入っているミサイルらしき何か。
「なんだ、これ………………」
俺はあまりにもひどい変わりように絶句するしかない。
が、こうなってしまったからには仕方がないのも確かだ。依頼では専用機を持ち帰ることとだけ言われているから、たとえこの変わり果てたものでも達成はできるはず。
………………たぶん。
「データと専用機の回収くらいしかできることもないし。さっさとずらかるか」
この基地でできることもあまりない。せいぜい魔法が届く範囲をめちゃくちゃにするくらいだ。基地がしばらく使えなくなるだけでも軍に報告するには成果としては十分だしな。専用機を伯爵に渡しても軍から文句は言われないだろう。
「あぁ~。敵が集まってきた」
基地に侵入してからの時間はかなり短かったはずなのだが、それでも敵は集まってくる。基地内部が制圧されたことはすでに知られているようで、専用機を奪われる前に基地ごと俺を殺そうというのが敵の考えのようだ。
敵の数も多いし、このままでは確実に俺は死ぬ。
「事前に仕掛けておいてよかったか」
敵のレーザーが基地へと打ち込まれ始める中。基地内から戦闘艦が出ていく。
何隻も。
「本来は逃げる時に狙われないようにするためのものだったのだがな」
本来はそのつもりだった。俺という木を隠すための森になってもらうつもりだったのだ。
だが、ここにきて別の目的が生み出された。狙ってくる敵に殺されないための、盾としての目的が。
「おぉ~。こうしておいて正解だったな。被害が尋常じゃない」
次々に放出される戦闘艦がスクラップへと変わっていく。敵も基地へ攻撃するためということで消耗品の火力の高い武装を多用してきている。
それを基地ではなくただの戦闘艦が食らうわけだから、消し飛ばされてしまうのも当然だろう。
使われたのは消耗品。
ということは、数に限りがあるわけだ。ある程度破壊されたらもう恐れる必要はあまりなく、次々に放出される戦闘艦にまぎれながら俺も基地から脱出した。
『少将。基地の制圧を察知した敵が一定数戻ってくるようです。このままのペースでは退避が間に合わない可能性があります』
「分かった。では、小官が本格的に動き出すのを前倒しして3分後にする」
『了解しました。合わせます』
本当は10分くらい漂い続けて敵から距離を取るつもりだったのだが、さすがにそれでは時間が足りないとのことで。俺は予定を前倒しして動き出すことになった。
それから待機して3分きっちりと経過したことを確認し、
「敵もいない最適なタイミング!!」
俺の乗る戦闘艦が加速する。
運のいいことにこの辺りは敵が少なく、艦隊との合流は苦労することなく遂行できた。
「ではこれより帰還する。追手を近づけさせるな」
『『『『イェッ、サー!』』』』
こうなれば後はけつをまくって逃げるだけである。
いつも以上に機雷やミサイルなど金のかかる消耗品や装備を多用して、全力で追手の敵艦をつぶしていく。伯爵から費用を補填すると言われているからこそできる荒い使い方だった。
『少将、追手は問題ないですが、先回りしている敵がいるようです』
基地方面から追ってくる敵は問題なく対処できた。
だが、専用機は狙われていることが分かっている非常に重要な物。基地以外にも敵が近くにいることは当たり前だった。
「このまま最短距離で突破する。機雷に注意しつつ進め」
『『『『イェッ、サー』』』』
敵が来たことでルート変更、などという考えにもならない。
俺たちはひたすらまっすぐ伯爵の領地まで飛んで行った。もちろん、途中で近くを通りかかる予定の味方なんかには協力要請は出しつつな。
そういうやつらに正面に立って迎え撃つ形ではなく、
『側面からの攻撃ですか。邪魔をされていない分相手をするわけにもいきませんから、敵にとってはストレスになる攻撃でしょうね」
あくまで目標は俺たち。
となれば、横から砲撃を行なってくる俺たちの味方は放置しておくしかないのだ。たとえそれがどれだけ被害をもたらしてくるか分かっていて、非常に大きなストレスになるとしても。
「戦えば俺たちを追える数が少なくなり、追うという選択肢しか残らなくなる」
きっとここで戦うことを選べば、本国に戻っても命令違反などで非常に厳しい処罰を受けることになるだろう。
そういうところまでそれぞれの船の艦長連中は分かっているはずだ。
艦長としての教育を受けているだけ、余計にわかってしまう。
「そこまで弱れば、あとはただ死を待つのみでしかないというのに」




