26.3つありますけど何か?
結局新人たちが合流してからはこちらに危機が訪れることはなかった。
艦隊全体だけでなく味方達とも連携して残りわずかとなったスパイの船へ、
「一点集中の一斉射撃」
「いくら護衛がいようと耐えられるわけがありませんね」
避けることもできず宇宙の藻屑となった。これで感知できるスパイは消滅。近くの空間からは完全に消え去っている。
その後は安全圏から敵の数を着実に減らしていき、追加の敵の大軍がやってきても、
「逃げますわよ!」
「はい。すでに許可は取っておりますのですぐに離脱可能です」
「なら今すぐ、今すぐ逃げますわ!!」
逃げられる。艦隊全体で近くの安全な場所へと一目散に飛んで行った。
あの場で戦う必要もないため味方の船もすでに適当な砲撃を行ないつつ後退しているようだった。安全圏まで来ていったん休憩を挟めば、
「た、隊長、憧れる……」
「マジであの人ヒーローだよな」
「俺、あの人に一生ついてく」
「俺もついてくわ」「私も」
新人たちから絶大な人気をセシルは獲得した。
新人たちからすれば、命を救われたわけだからな。感謝やら尊敬やらの思いが生まれてくるのも当然だろう。
「良かったですねセシル」
「ヒーローらしいですよ!すごいですね!!」
「もぉ~。からかわないでくださいまし。そんなヒーローなんて柄じゃないですわよ。冗談もほどほどに……って、フィネーク!そんなに目をキラキラさせないでくださいまし!さては本気ですわね!?」
当の本人のセシルは照れていて、ダリヤはからかうようにしている。で、フィネークはダリヤの後に続いてほめていてからかっているのかと思いきや、純粋に心からあこがれのようなものを抱いているようだ。
多くの平民にとってみれば、セシルのような英雄的存在は憧れだからな。距離の近い友人といえど、あこがれの対象になるようだ。
そんな素直なあこがれの気持ちを向けられてしまうのはさすがにセシルも耐えられないらしく。
すぐに周囲を見渡して俺を発見し、
「あっ、そ、そうですわ少将!この後相手方に攻める予定などはありますの!?」
焦ったような感じで俺に尋ねてくる。
周囲の人間は分かりやすいごまかしだとわかっているが、俺としては慌てて考えたことのわりに悪くないことを言っていると思う。
「一部損傷の激しい船を除き、我が艦隊のほとんどの戦闘艦はたいして被害を受けておりません」
「ですわね」
「ですので、大量の敵が出張ってきている今のうちに敵の拠点へ攻撃を仕掛けるというのも選択肢の1つではあると思われます」
「ふむ。なるほど」
セシルは納得したような表情を。顎に手を当て、本当に攻めに転じるかどうかを考えているようだ。
が、とはいっても反論があり、
「敵が戻ってきたら逃げられませんよ?危険では?」
「ふむ。ふむそちらも確かにそうですわね」
ダリヤの意見にセシルも納得。さらに悩んでいる様子だ。どちらかといえば危険性が高いためセシルの気持ちは却下に偏っていそうではあるな。
ただ、反論要素はこちらも持っている。
「我が国が数日後に反転攻勢に出るということがすでに発表されています。そのため、敵は国境付近にとどまるはず」
「おぉ!それならば、主戦場以外であればある程度安全性を保ったまま戦えるわけですわね!!」
「その通りです。そして、すでに敵拠点はいくつかリストアップしてまとめておきました」
「おぉ!仕事が早いですわね!」
俺がデータを送ると、3人娘がそろってデータを見始める。セシルが開いて、それをフィネークとダリヤがのぞき込んでいるような形だ。
そんな状態でああでもないこうでもないと話し、
「よし!決めましたわ!我が艦隊は、この拠点に攻撃することにしますの!!」
「了解いたしました。すぐに通達します」
「頼みましたわ!私も出る準備をしておきますわよ!!」
ふんすっ!と力を入れてセシルが戦闘機体の格納庫へ向かって歩いていく。その後を、
「あっ。待ってください。私も行きます」
「わ、私も途中までついていきます!!」
ダリヤとフィネークが追って走っていった。
その後新人たちが乗る船がないので分けてそれぞれ少しずつあいているほかの場所に入れ、
「このルートは、3つほど拠点を通ることになりますね」
「はい。あまりにも最初の拠点が固いようでしたら次やその次に移ってもいいかと考えております」
「なるほど……それ以外にも、1つを大破させるのではなく3つを小破や中破させるという手も取れますね」
「ええ。それもまた策の1つとなるでしょう」
3つもあるのだから、わざわざ1つを集中して攻撃する必要もない。3つをそれぞれある程度攻撃して、3つに損害を与えるということもできるわけだ。
ダリヤもいろいろと作戦を考えているようであった。
「パターンはいろいろとありますので、あとは敵の拠点の勢力さえつかめれば」
「そうですね。策を考えるだけ考えておいて、どのパターンでも対応できるようにしましょう」




