13.長官は敵ですけど何か?
「そこで止まれ!現在より本人確認を行なう!!」
基地に着いた直後、船から出てきた俺たちを基地の人間達は止めた。そして急遽始まったのが、本人確認。しかも、所謂鑑定と言われる者を使っての本格的な本人確認だ。
末端の部下達から始まり、一部後ろ暗い部下が特殊な道具を使って鑑定結果を偽装していたりはしたが、それが発覚することも無く鑑定は進んでいった。俺も当然問題無く、
「……せ、性豪のスキルが」
「ぜ、絶倫まで。や、やっぱり大尉って……」
何も問題はなかった。この世界は魔法だけで無くスキルや称号まであって、その中に俺のあんなスキルやこんなスキルを見たセシルや護衛やフィネークが顔を真っ赤にさせていたが、何の問題もなかった。
うん。本当だ。
で、次が向こうにとってはおそらく本命。
「セシル嬢。お手を」
「わ、分かっておりますわ」
セシルは緊張した面持ちで鑑定用の道具に手をかざす。すると、空中に鑑定結果が浮かび上がり、
「……はい。ありがとうございます。ご本人ですね」
セシルが本人であることが確認された。こうして無事に検査を終えた俺たちは、今度こそ基地で活動を始める。
「長官をお呼びしますのでもう暫くお待ちください」
「分かりましたわ」
俺たちはここのトップが来る間、暫く会議用の部屋で待たされることになる。その間俺が考えるのは今回の検査のこと。
今回の検査には、セシルとの婚約をしたくないバカな王子が関わっている。というか、こういうことをするように俺が助言した。
内容は簡単だ。セシルはどうせ影武者を使っているだろうから、軍事行動の途中で本人確認を行なってみたらどうかと言っただけだからな。もちろん、影武者とすり替わるタイミングは不明だし、初回で失敗した場合は公爵家も仕掛けてくる可能性があると言うことも伝えてある。
それに追加で、失敗したから警戒するようにという連絡もしてある。ここまでして、俺が罠にはめようとしているとは王子も気付かないだろう。側近連中は気付くだろうが、王子が自分で気付くということはできないだろうな。
……まあ、気付いたところでこのままだとセシルと婚約することになるという事実は変わらないわけだが。
「……待たせて済まない」
今頃作戦失敗の報告を受けて不満を感じているだろうバカ王子のことを考えていると、長官がやってきた。そこから始まる話し合い。
特に問題無く話し合いは途中まで進んだのだが、
「ここの守りが堅いのだ」
「ふむ。無人機というのがまた厄介ですわね」
「そうなのだ。破壊したところでまた量産されるだけであるからな。ということで、セシル嬢に願いたいのは、ここまで行ったら戦闘機体で大量破壊を行なった後、そちらの艦隊で強引に突破をして欲しいということだ」
敵側は無人機を大量に配備しているらしく、弱くはあるもののうじゃうじゃと湧いてきて厄介だとのこと。だからこそ一度で大量に破壊し、無理矢理突破して戦況を変えて欲しいとのことだ。
「セシル嬢はこの間の勲章授与をされたことを考えても充分戦闘機体の扱いは上手いと考えている。無人機程度には後れを取らないだろう……どうだ?」
この長官の言葉を聞いた俺、そして、セシルの護衛は悟った。
あっ。この長官、王子の手駒だ、と。
明らかにこの指示の内容は、戦闘機体に乗ったセシルを殺したいという意思があるように思える。更にそれが失敗し無事に生き残ったとしても、戦闘機体に乗った偽物を帰ってきたところで鑑定して暴くつもりなのだと思われる。
でなければ、わざわざ戦闘機体で出撃して欲しいなんて頼まないからな。普通なら、主砲で全て溶かして欲しいと言えば済む話なのだ。
「ふむ。大量の無人機ですのね……」
とはいえ、そんな向こうの考えが分かっているのは俺や護衛だけ。セシルにはそれを察することはできない。
おそらくあの頭では今、それをすればどんな功績が手に入るのかなんて事が考えられているのだろう。
……確か、無人機と戦闘機体で戦う場合は500機ほど沈めたら勲章が貰えたはずだ。
それをセシルも覚えていたのか。
「ふむ。分かりましたわ。数にもよりますができる限りのことは致します」
「うむ。よろしく頼む」
セシルは受け入れた。長官にとってはきっと王子の指示に従うという実績が作れたわけで、セシルにとっては勲章を得られるチャンスを掴んだ。
お互いニッコリな話し合いだったな。護衛達は頭を抱えそうになるのを必死に抑えているが。やはりただ有能なだけの奴らって振り回されるんだよな。俺みたいに八方美人をして容赦なく裏切るって生き方を知らないんだろうさ。
「それでは大尉。艦隊の指揮は宜しくお願いしますわ」
「はっ!了解致しました!!」
俺は敬礼しておく。ここで拒否するなんて言う選択肢は無いが、即答するのは大切だ。長官に、俺も王子側であると思わせるためにも。
……くくくっ。王子と共にこいつも追い落としてやる。中央のじじい共と違って、俺に甘くは無いからな。