21.回り込みますけど何か?
急がなければならないのだが。盗まれたデータに関して思いをはせたり、いろいろやる時間は存在している。俺たちがいた位置から考えると、敵国もやはり近くはないからな。
そうして時間ができるとどうなるかといえば、
「少将!見てくださいまし!私とダリヤはこの敵艦隊から安定して逃げられるようになりましてよ!!」
「お見事です」
セシルたちは相も変わらず訓練を行っていた。
俺たちが今まで過去に戦ってきた敵のデータを入れたのがお気に召したみたいで、いろんな敵と戦ったり逃げたりしている。
今戦っていたのは現在講和して友好とまではいわないまでも敵対はしてない国の艦隊だ。この国とはまたちょっと武装の好みなんかが違って、シールドを使っての体当たりを得意としている。俺がこの間シミュレーターでダリヤに使ったのを得意としているような奴らだ。
ただ、そういう攻撃がメインなこともあって、距離さえ取れれば逃げることは容易だったりするな。倒すことは難しいが。
ちなみに3人は、最初に戦ったときに初見殺しのような形でシールドで押しつぶされて負けてたぞ。セシルだけはシールドを吸収できたから、装甲で押しつぶされるという非常に珍しいものを見れた。
「近接の得意な相手はある程度対応できるようになりましたし、次は中距離の得意な相手でしょうか?」
「そうですわね。フィネークも、10秒は生き残れるようにしますわよ!」
「は、はい!」
フィネークを含め、戦闘機体に乗る者たちの専用機に向けた調整は着実に進んでいった。
もちろん俺も何度も付き合わされて、五分の戦いをさせられたな。
で、そうして過ごしていると、
「ん。ついにですわね」
「ですね。ここが一応国境になるわけですか」
俺たちの船は国境、というか戦線付近にまで到着した。宇宙だと戦線というより戦面なのだが、分かりづらいし戦線で良いよな。
で、俺たちの来たあたりにはお互いの国の船は特に漂っておらず、
「何もないですわね」
「ですね。お互い付近に居住可能な惑星も資源のある惑星もありませんから、当たり前ではあるのですが」
「ほぇ~。そうなんですか?」
3人娘も気楽な感じで話をしている。さすがにここまでくるとシミュレーションから降りてもらって、いつでも対応できるようにしてもらってるぞ。
さすがに、な。
「では、これより作戦の確認を行ないます」
「あっ。はい。了解ですわ」
「お願いします」
女子トーク(?)してるところ悪いが、いったん作戦の話を挟ませてもらう。
今回俺たちの役割はかなり明確に決められており、
「敵軍の背後から回り込み攻撃を仕掛けることになります」
「ふむ。そのためにわざわざこんな何もないところにまで来たわけですわね」
「ここから回り込んで挟み撃ちをするというわけですね」
「その通りです。もちろん挟み撃ちだけでなく、スパイたちの乗る船のみが抜けてくる場合にできる限り撃沈することも任務の1つではあります」
「ふむふむ。蓋としての役割もあるわけですわね」
「抜けてくるなら各個撃破。抜けてこなければ高火力で背中から襲うというわけですか」
「おぉ~。………なら、今まで訓練してきた足止めの技術が使えるんじゃないですか?」
「「っ!確かにそうです(わ)ね!」」
フィネークが気づいて、セシルとダリヤが食いついた。今までの訓練が活かされる時が来たらしい。訓練の成果を見せるんだと2人は意気込んでいるな。
ぜひとも頑張ってほしいところだな。
戦闘機体は相手の内側に入り込んで乱戦を引き起こせるから、俺たちの役割を果たすうえでは非常に都合がいい。
「………通信が来ました。追跡班本隊の方はすでに交戦が始まったようです」
「そうか。では、そろそろこちらも早いのは来るかもしれんな」
敵の背後に回り込んで待機していると、本格的な戦闘が始まったという連絡が入る。
ついにといった感じだ。
俺たちも気合を入れなおし、敵に備える。
「追加部隊が来て逆にこちらが挟まれてしまうということがないよう、常に背後の警戒も怠らないようにします」
「なるほど。そうなんですのね」
「挟まれる可能性があるなら、私たちもあまり深入りすることは避けた方が良いかもしれませんね」
「セシル様はそうかもしれないですけど、ダリヤ様は入り込んでもいいんじゃないですか?逃げずにひたすらセシル様のために時間稼ぎをした方が」
「ああ。それもそうですね」
フィネークも参加はしないが、戦闘機体を操る2人と一緒に話し合っている。
シュミレーションとはいえ経験は積んでるから、ある程度2人に対して提案なんかはできるようになってきたな。
そうして俺たちが過ごすこと数時間。
「………っ!来ました!解析を行います!」
数隻の戦闘艦の反応がレーダーに映る。すぐに解析し分かるのは、
「スパイに奪われた我が国の船です!」
「ふむ。つまり敵ということですわね!すべて沈めますわよ!」




