18.ルール変更ですけど何か?
部下をセシルたちの訓練相手として売り渡した俺。………だったが、結局その後も上層部の方から結果が送られてくるまでに長い時間がかかったため任務も続いて、
「よぉ~しよしよし!ダリヤの戦闘機体は安定して4機くらい逃げられるようになりましたわね!」
「そうですね。2倍逃げられると考えれば大きな成長です」
「や、やっと船の周りにいても5秒は保つようになりました………」
俺も何度か訓練に参加させられた。
さすがに訓練をぶっ通しでやっている3人の方が成長度合いが高く、俺との実力が少しずつ埋められて行っている。
だが、正直それは別にかまわない、結局この訓練でやってることは、逃げられるかどうかということだからな。今のところ俺が動かして沈められたということは一度もない。フィネークは兎も角、何隻も船を沈めてきたセシルとダリヤ相手に戦えてるんだから十分だろう。
「では、少将、もう1戦やりますわ!」
「了解しました」
「ただ、今回だけルールを変えますわ!」
「何でしょう?」
俺は首をかしげる。どうやら今までのように2人が時間稼ぎをして1人が逃げるというものではなくなるらしい。
ちなみに発言したセシル以外の2人も聞いてなかったみたいで、同じように首をかしげている。
どうやらセシルの思い付きみたいだな。
「今回は、少将とフィネークにチームを組んでもらおうと思いますの!」
「小官と?」
「私に?」
俺とフィネークは顔を見合わせた。
フィネークなんていても大して結果は変わらんという言葉はぐっと飲みこんだぞ。そんな部下のモチベーションを下げるような言葉を言うのは、上司として失格だからな。
代わりに、
「小官と組んだとして、訓練生の訓練になるのでしょうか?」
「なりますわ」
「ほぅ?」
「訓練の内容は、フィネークが逃げていくというものですの。逃げ先は、少将の操る戦闘艦ですわ!」
「………なるほど」
なんとなくわかった。
これは単純に遠くまで逃げる訓練ではなく、敵に囲まれた状況で船の中に戻る訓練ということだろう。宇宙に漂ったままだと囲まれたら、確実に袋叩きに合って沈められるからな。
「帰艦の訓練ですか、それは確かに必要ですね」
「ですわよね!少しフィネークも疲れてきて集中力が落ちているようにも見えますから、新しい刺激が必要だと思いましたの!」
「え!?わ、私集中力落ちてました!?」
予想外の理由でフィネークが驚いているな。本人としては集中力低下の自覚がなかったんだろう。実際、安定して5秒間は生き残れてたし、結果が出て分かりにくかったのは確かだ。本人が気づかなかったのも仕方ないな。
逆に俺から言わせてもらえば、そのちょっとした変化に気づいたセシルがすごい。
正直今までセシルに他人への配慮はあまり見受けられなったから、これは俺にとって意外なことだった。セシルが他人をこんなにも見ているなんてな。
友人であるフィネークだからこそ、かもしれないが。
「セ、セシル様………」
フィネークもそんなに見ていてくれたのかと感動したような表情でセシルを見ているな。
ただ、
「まあ、同じことの繰り返しで私もちょっと飽きてきてしまいましたし」
「………セシル様」
次の言葉でフィネークはジト目になる。
ただ、口元は緩んだままだ。おそらく、セシルの言葉が照れ隠しだとわかっているんだろう。
フィネークからそれを読まれているというのが分かったのかセシルは顔を背け、
「で、では、さっそく始めますわよ!」
「はい。分かりました」
セシルが照れ隠しを吸いとるように宣言し、フィネークがそれで笑いつつも素直に従う。ダリヤもその光景をほほえましそうに見ながら操作を始めたな。
で、俺とフィネークで組むことになるわけだが、
「訓練生。ハッチの位置は分かるか?」
「え?ハ、ハッチですか?………え、えぇと。私が出撃したところがあんな感じだったから………」
フィネークの答えに俺だけでなく、セシルたちも悟る。
これ、まず帰っていく場所が分からねぇじゃねぇか、と。正直フィネーク以外の訓練にはあまりならない気がしたが、
「訓練生。誘導経路を送っておく。それに従うように」
「わ、分かりました!」
経路を示す。もう船のどこに入っていけばいいかだけでなく、逃げる時に通るルートまですべて俺が決めさせてもらう。具体的に言うと半透明な赤い線が出たからそれに従って行動してもらうという感じだな。
ただ、こうなるとその誘導の線は見えずとも何となくフィネークの行動で予想をされてしまうなんて問題が出てくる。
なにせ、線はさすがに直線で示すしかないからな。あまり複雑なものを描いたところでフィネークが通れるか怪しいし。
では、そんな圧倒的にこちらが不利な状況をどうすればひっくりかえせるか。
それは難しいところなのだが、
「訓練生、誘導から外れないよう気を付けるように」
「え?は、はい?」
何を当たり前なこと言ってるんだ、みたいな反応がかえってくる。
だが俺は船を動かし、その誘導の先とは全く関係のない方向に船を動かした。
「っ!?」
フィネークが息をのむのも分かる。
だがここで俺は、
「え?嘘!?私を狙い撃ちですの!?」




