16.削除されてますけど何か?
宙賊のアジトは壊滅していた。
もともとあったと思われる大きさから考えると、今は1割残っているかどうかといったところだ。残った部分も焦げたりしてぼろぼろになっている。かなり大規模な攻撃でもなければなかなかこうはならない。
部下たちも状況を見て色々と考察しているな。
そんな中で最終的に行きつく結論が、
「事故でしょうね」
「何かトラブルが起きて、爆発物が連鎖的に爆発してしまった、とかでしょうか?」
「これは外部からの攻撃の影響ではないでしょうね」
外部からの攻撃などではなく、事故による自滅だという結論が下される。ここまでの被害が出る武装をわざわざ宙賊に使う意味もよく分からないし、あり得ることではない。
そのため、俺も普段ならそう結論を同じように下したかもしれない。
だが、思い出してほしい。
今この周辺には、俺の船、つまり『死神』がいるということを。
あの船に搭載された武装なら、ティアによる改造を受けてあまりエネルギーを消費せずにこれくらいの被害は出せる。俺たちに気づかれない間に宙賊のアジトを大破させて適当に財宝やら情報やらを抜き取って逃げていくくらいシグマなら難なくこなすだろう。
強力なレーダーも船に搭載されているし、周囲の警戒に関しても問題ない。自分がやったということがばれることもなく破壊して略奪してということができるはずだ。
もちろん俺はそんな予想がついても、口に出すことはしないが。
「とりあえず事故でも攻撃でも、個々のアジトが壊滅しているというのは事実だ。最低限の調査を行い、周辺の軍へ連絡。本格的な調査部隊を送ってもらうぞ」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
決めつけはよくないということで簡易的な調査を行う。が、さすがはシグマというべきか。
証拠の類は全く残されておらず、攻撃とも事故とも判別がつかない状況だった。どちらかといえば部下たちは思い込みにより、事故の方にかなり傾いているようには思えるが。
「あっ。調査隊が送られてきたようです」
簡易調査を始めて十数分といったところ。
ここで属国の軍が調査隊を派遣してきた。俺たちは調査を打ち切り、あとをそちらに引き継いでもらうことにする。
「よし。では、調査のデータだけ渡して我が艦隊は引き続き巡回に戻るぞ」
「「「「イェッ、サー!」」」」
特に調査したいというような奇特なものもおらず、もめることもなく引き渡しと巡回の再開ができた。
拠点があったことで周辺にはまだ状況を理解できていないのであろう宙賊どもが漂っており、良い狩場になった。途中から連携の強化ということで新人たちの乗る船とともに砲撃戦を行ったりもしたが、意外なことにかなりうまくいっている。さすがに新人とはいえ属国で兵士をしていたやつらが多いから、激しく腕の悪い奴はいないのかもな。
「今の艦隊の動きを隊長たちに送っておけ」
「イェッ、サー。訓練に使ってもらうんですかぁ?」
「ああ。その通りだ。現在は小型艦1隻から逃げる訓練をしているようだが、本格的に戦場で逃げるのであれば艦隊から追われるだろうからな」
「そうですねぇ。確かにその通りですぅ」
質問をしてきた部下は、俺の言葉に緩い口調で答える。
口調はそんな感じだが、仕事はすでにこなしているようだな。まだ命令してから少ししかたってないと思うのだが、速いな。
そんな風に感心していると。
別の部下から、
「じゃあ、過去に戦った敵軍だったりの情報も入れておきますか?」
そんな提案が。
確かに今までこの艦隊はセシルたちが来る前から敵とは戦ってきたし、セシルたちが知らないような戦い方をする敵もいた。経験になることは間違いないだろう。
今まではシミュレーターを使うことが少ないということで入れていなかったが、入れてみてもいいかもしれない。
ということで入れた。
………のだが、
ここで予想外のことが起きた。
「しょ、少将」
「どうした?」
目を見開き、少し震えた声で俺に報告をする部下。
それは、声も震えるのが分かる内容であり、
「データが、1件抜き取られています」
「なんだと?」
データの抜き取りというのは、本来行なわれないはずのものだ。敵との戦闘データだからそこまでの機密でもないし、もしどうしても消す必要があるデータなのであれば艦隊のトップの方には連絡が来る。
が、それがないのだ。
つまり、何かマズいものが入っていて消したがそれを伝え忘れたのか、
「スパイによる工作か?」
「その可能性が、高いかもしれません………」
この船の人間なのか、それとも整備関係の人間なのか。そこまでは分からない。
が、データを抜き取るようなスパイがいることは間違いない内容に思えた。
「上に提出自体はしたデータなんだよな?」
「はい。そうなります」
「では、そのデータの詳しい内容を記憶してる部分だけで良いから教えてくれ」
「はい。データに入っていたのは敵国の惑星降下の際の援護に関するデータで………」




