11.宙賊って弱いですけど何か?
「とりあえず小官が休暇中に調べてみたのですが、やはり属国の周辺では宙賊が多く確認されているようです」
「あぁ。やはりそうなんですのね」
「はい。ただしあまり大きな規模の宙賊は確認されていないようです。たいていは野良の宙賊が利益を求めてやってきているということになります」
「なるほど。つまり、あまり強くない宙賊が多いということですわね?」
「一概にそうだとは言えませんが、ほとんどが大した装備もないのは事実かと」
数時間かけたってシールドすら抜けないんじゃないかと思う。調べた限り、それくらいあの辺にいる宙賊どもは貧弱だ。
どちらかといえば、
「ん?ちょっと待ってくださいまし!あの船、何ですの!?」
「え?どれですか?………って、これ、すごい装備してるんですけど!?少将!どういうことですか!?」
「ああ。その船はおそらく賞金稼ぎか傭兵かと。こういった宙賊のたまり場はああいった者たちにとっても非常にいい収入となりますから」
宙賊たちを狙った傭兵や賞金稼ぎたち。彼ら彼女らの方がよっぽどいい装備を付けている。下手すると俺たちの大型艦と同程度の力があるかもしれないとまで思える船すらあるな。
ただ、そんな者たちが狙うのはおそらく野良の宙賊のような小物ではなく高い賞金のかかったような大物だろう。大きな稼ぎを得るため、1隻ではなく複数の者たちと協力して大物を探しているはずで、
「あっ。急に一斉に動き始めましたわ!」
「な、なんでしょうか?私たちが近づいてきたから逃げてるんでしょうか?………はっ!もしや、やましいところがあるとか!?」
ダリヤは船が離れていくことに気づき、ダリヤがそれに疑いを持った。
軍艦が近づいたら大概の船はビビッて逃げてしまうと思うのだが、ダリヤはずいぶんと疑り深いことだ。ここは下手にいろいろ言うよりも、
「では、あれらを1隻小型艦に追跡させますか?」
「え?良いんですか?」
「そんなことして許されますの?」
俺の提案に、2人は驚いたような表情をする。
だが、逆に考えてほしい。
「先ほどダリヤ様がおっしゃられたではないですか。軍艦が近づいてきたら逃げたというのは怪しい、と。そういった理由があるのであれば、軽く後を追って職質するくらいは許されますよ」
俺たちの今回の目的は、周辺の見回りだ。怪しい動きをする相手がいるなら職質や臨検をするのも仕事の範疇である。
2人は俺の説明で納得したような表情を見せ、
「では、追跡をお願いしてもらっていいですか?」
「了解いたしました。すぐに行なわせます」
部下たちも俺たちの会話は聞いていたので、目線を送るだけですぐに小型艦へ通達が言った。
その小型艦はほかの小型艦よりもレーダーの探知範囲が広かったりと捜索や追跡に特化しているので、こういう時に使うのには便利だったりする。
「では、艦隊でもゆっくりと後を追いつつ近くに寄ってきた宙賊を排除しましょう」
「分かりましたわ!」
「分かりました。戦闘機体はいつでも出せます!」
おっと。戦闘の話が出たら2人ともやる気を出してしまった。戦闘狂か?
俺は少し2人の性格の変化などを憂慮しつつ、
「申し訳ありませんが、お二人が出るまでもないかと」
「「え?」」
2人は首をかしげる。
2人はどうやら、自分たちがこの場ではオーバースペックであるということを理解していないらしい。戦闘機体が出ている暇があれば、
「ふむ。ちょうどよくレーダーに引っ掛かりましたね。あれを実験台にしましょう」
「「は、はぁ?」」
「あっ、少将。解析はもう終わりました。奪われた船のリストに入ってるので、宙賊で間違いないです」
調度いいところで宙賊が出てきてくれたので、2人に実演してやることにする。とりあえずスキャンした結果宙賊で間違いないということは分かったので、
「主砲用意」
「イェッ、サー!すでに準備完了しています」
「よし。撃て」
レーダー探知範囲ギリギリ。そんなところにいる宙賊の船に向かって主砲を放つ。
いつもの戦場だったらシールドを少し削るだろうか?くらいの距離だ。フィネークの強化があってもそのくらいなのだが、今回の宙賊の場合は逆にフィネークによる強化までついていると、
「命中確認。目標、大破しました」
「「「えっ!?」」」
部下からの報告に、3人から声が上がる。
セシルやダリヤだけでなく、主砲の強化をしたフィネークまで驚いているのだ。この距離で主砲を1発当てただけで敵が大破するなんて初めての経験だろうから、その反応も当然ではあるな。
驚きで固まっている3人に、俺は淡々と説明を行う。
「今のことで分かるように、宙賊の船というのは非常に弱いです。こちらのような軍艦とは比べ物にならないほど貧弱であり、破壊も容易です。ですので、お二方が出る必要はほとんどないと思っていただいて構いません」
「「「え、えぇ………」」」
予想以上に宙賊という存在が弱くて困惑しているようだ。今まで戦ってきた相手が相手だから、気持ちはよくわかる。
今まで他国のスパイやら連続殺人犯やらテロ組織やらと戦っていた特殊部隊員が、道端の不良と戦ったときみたいな感覚だろうか?「え?人間ってこんなに弱かったか?」ってなりそうだ。
「そ、それ、私たち必要なんですの?」
「そんなに弱いのなら私たちは必要ないのでは?」
ある程度状況も理解し、セシルとダリヤは自分達の必要性に疑問を憶えたようだ。こんな結果を見せられれば、そんな気持ちになるのもよくわかる。
が、
「油断されては困ります。近くに大した相手がいないとはいえ、」
「き、緊急連絡です!追跡の結果、『死神』が確認されました!」
「こういったことになる可能性もあるのですから」




