1.工房へ移動ですけど何か?
俺はシグマに連絡を入れて船を呼ぶ。来てもらうのはティアの工房。この一般向け、というか大量生産を求められる工場と違って、一点物の試作品なんかを作るときによく使う場所だ。
ちなみに監視の目などもないため、俺が死神として使っている船も入れられる。
「じゃあ、俺たちも移動するか」
「そうだねぇ。今機械が作ってるのが全部終わったら行こうか」
俺の呼びかけに、ティアはそんなことを言って答える。
工場内にある機械は、いくつも元気に稼働していた。いや、機械だから実際に元気なんてものはないんだが、そう思えるくらい激しく稼働しているのだ。
これが全部終わってからとなると、
「………どれくらい時間はかかるんだ?」
「ん~。半日ぐらい?」
何でもないことのようにティアは答える。
こいつは、こういうやつなのだ。天才肌であるがゆえに、時間にもルーズだし、そういった時間の制限を設ける人間たちとかかわるのも嫌う。
が、
「………下らん冗談を言っていないでさっさと行くぞ。このクソダサ」
「ノォォォォ!!!!!!僕はこの完璧な作業を最後まで見て幸せをかみしめるんだぁぁぁ!………………って、ちょっと待って!いま、僕クソダサって言われた!?」
「気のせいだ」
「いや、絶対に気のせいじゃないよね!?おい!ゴトー!?ゴトオオオォォォォォ!!!!!」
「うるさい」
眺めていたかったという願望を邪魔されたのに加えてクソダサと言われたことで叫びだすティア。
だが、俺はその白衣の襟元をつかみ、騒ぐのを無視して引きずっていく。じたばたとしていて通常では運びにくい状態だが、風の魔法が使える俺なら何の問題もない。人1人くらい、いないのと同じだ。
「………………まったくゴトーは言葉の選び方っていうものがだね」
「はいはい。人嫌いが何言ってんだ。言葉の選び方が悪いのはお前も同じだろ」
「いや、僕は人嫌いじゃなくて時間を奪う人間が嫌なだけだから。それに、言葉の選び方が悪いんじゃなくて、僕はただ1番伝えるのに効率のいい言葉を選んでいるだけだから!………………まったく。なんでそれを理解しないかな」
連れてきた後もぶぅぶぅと文句を垂れている。だが、俺には決してティアが嫌がっているわけではないことが分かっている。
何せティアは筋金入りの天才肌。無駄だと思った話やどうでもいいと思った話、そして嫌いな話などはすべて無視して自分の研究や作業のことなどを考えてしまう。だが、文句を垂れているということは俺との会話を楽しんでいるということだ。
「ティア。お前の不満なんて非常にどうでもいいから、作業の話をするぞ。俺の船は後数分もしない間に到着するそうだ」
「どうでもいいって………………まあいいや。了解。準備しておくね」
作業をするということでティアも表情を変える。先ほどまでの子供っぽい雰囲気は消え、マジな雰囲気に。
すぐに工房内を本人が言うには最大効率の動きで歩き回る。そうしながら、必要になるのであろう工具や素材、機材などを集めて持ってきているな。
あと、格納庫からでかい機械も出てきた。事前に作っていたんだろうな。
「何の機械だ?」
「………………」
俺がその出してきたいくつかの機械について尋ねても、ガン無視される。作業に相当集中しているな。
まあ、こういうやつであることは理解しているし特にそれに対して俺が何かすることはない。作業が終わるのを待ちながら、工房を見学でもしておけば良い。
「またいろいろと作ってるな」
工房の中にあるのは、統一性のない作品ばかり。
そこにレーザー砲らしきものがあったかと思えば、少し先には義手のようなものが落ちている。物が散乱していて、ティアがすべてのものを憶えているのかどうかも怪しかった。
「ん?これは良さそうに見えるな」
いろいろと落ちているものを拾い上げてみていく中で、1つ面白いものがあった。それは指輪なのだが、魔力を流すことで、
「真っ暗だな」
周囲から光が一瞬にして消えた。
どうやらこの指輪に込めた魔力の分だけ、周囲に光が届かなくなり、光が発生されなくなるという効果があるようだ。
「これ、レーザーを使われた時にも使えるんじゃないか?」
レーザーの光のエネルギーなんかも、これがあれば消すことができるかもしれない。新しいシールドの可能性に出会ったような気がした。
なんとなく逆の機能があるものもないかと考えながら俺は歩きまわり、
「これ、か?」
まったく見た目は違うもの。指輪とは連想ができない、手榴弾のようなものを見つけた。
だが、なんとなくそれが指輪と逆の効果を発揮するような気がしたのだ。閃光手榴弾のイメージが頭にあるからかもしれない。
なんとなく気になってそれを手の中で遊ばせていると、
「ゴトー、来たみたいだよ!」
ティアから船の到着が告げられた。
これから、改造が始まる。




