70.追い詰めパートですけど何か?
「な、なぁ!?ば、馬鹿な!奴隷の首輪が!」
「くははっ。貴国はずいぶんとドワーフという種族をなめていたようだな」
「う、嘘だ!こんなのでたらめだ!何かの間違いに決まっている!」
敵国の代表は叫ぶ。
その姿からはとてつもない焦りが見え、余裕など全くないことが理解できた。そんなに慌てれば、周囲から侮られるというのに。
こちら側は完全にそんな敵国の代表を無視し、
「では、語っていただこうか。今回の件に関するすべてを」
「………ああ。わかった、良いだろう」
ドワーフから再度語られる、真実。それは、先ほどまで首輪をしていた時に話していた内容と変わらない。
こうして世界は思い知ることになったのだ。ドワーフにちょっかいをかける愚か者が実在したことを。そしてそれと同時に、そんな者たちの常識を打ち壊せるほどドワーフという存在が強大であることを。
「う、嘘だぁ!あいつはうそを言っているぅ!これは罠だ!我が国を陥れる陰謀だぁ!!」
敵国の代表は、目を血走らせて叫ぶ。
だが、誰もその言葉を信じるものなどいない。それよりも、事前に発せられていた強い言葉を認める方がよっぽどいいと考えられた。
「先ほどすべての国に賠償を、などとおっしゃられていましたね」
「ああ。それは私も聞きましたよ」
「ええ。まさか人類がドワーフに弓引くような真似をすると思われるようなことをするとは。ここからドワーフの信頼を回復するのがどれほど大変かわかっているのでしょうか?」
「今回の損失、どれほどか彼の国は理解しているのか?」
そう。敵国の代表は、もし首輪が取れてドワーフが真実を述べたのならば、賠償を支払うといってしまっていたのだ。それは周辺国に対してもそうだし、ドワーフに対してもそうである。
こちらの国に対しては、領域を割譲したうえで属国になるとまで言ってくれたのだ。
「あぁ。貴国は、この公式の場で嘘を述べるほど落ちぶれてはおるまいな?」
「あ、ああ、あああああぁぁぁ!!!!!!!」
敵国の代表は膝から崩れ落ちる。その姿はまさしく、敗者のものだった。
周囲のすべてから奪いつくされるような、敗者の。
だが、油断してはならない。
敗者とは時に危険である。何も失うものがなくなれば、突然の思い付きで行動してしまうこともあるのだ。例えば、
「………………ふざけるなああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
周囲に向けて、攻撃を仕掛けたりとか。
まあもちろんそんなもの、
「………お下がりください」
「うむ」
俺1人でどうにでもできる。
前に出てうちの国の代表とドワーフたちをかばうように立ちつつ、握られた銃を吹き飛ばすように魔法を使う。この会議室にはちょうどいいことに空気があるから、実に楽に護衛できるな。
「なっ!?銃が!」
銃を取り出した奴らは、自分たちの銃が吹き飛ばされて驚いている。それはもうしっかりと握っていたはずだから、そんな簡単に抜けてしまうのは驚きだろう。
すぐにそいつの背後にいた連中も銃を構えようとするが、がっちりと銃をその場に固定させたのでそう簡単には構えられなくなっている。もし構えられるものがいたとしても少数だろうから、即座に対応できるな。
で、こうして時間を稼げば周囲も落ち着いてくる。
全員どちらが先に武器を抜いたのかはわかっているから、
「この公式の場で何ということを!」
「貴国はそこまで落ちぶれたか!」
「暴力ですべてを解決しようなど、愚かにもほどがあるぞ!!」
非難の声が上がる。なんというか、あまりにも分かり切った流れだよな。どちらにせよ数の不利があるから負けるのは分かり切っていただろうに、なぜ今こんな所で攻撃を仕掛けようとするんだか。
こういう時には、高出力の爆弾で自分も含めた周辺を爆破してしまうとかいろいろと方法はあっただろうに。
「ち、違う!これは我々の意志ではない!………ま、魔法!そう!魔法が使われたんだ!」
武器を抜いた側も愚かではあるがバカではないから、すぐに言い訳を並べる。
なんというか、魔法って便利な言葉だよな。
ただ
「魔法の使われた形跡は、あなたたちが武器を抜くまではありませんでしたよ」
淡々とした声で、魔法の発動に関する審議を述べるものが。
その声を聴き、誰もが一度その口をつぐんだ。なぜなら、その発言には自分たちが軽はずみで何か言えるようなものではないのだから。
その発言は、自分たちの何十倍もの重さのあるものなのだから。
「………エ、エルフの方々が言うなら間違いないですな」
「え、ええ。魔法に関してエルフの方々が感知できないほどの高技術で使えるものはいませんし」
「実に分かりやすい嘘だった、ということですな」
エルフ。
その言葉が出てきたことからわかるように、魔法関連の発言をしたのはエルフと言われる種族のものだ。このエルフもまた、ドワーフと同じように人間とは違う種族であり、慎重に扱われている。
魔法に関していえば、俺よりも圧倒的に上の技術を持っている連中だ。
「………さぁ。嘘までついたのですから、それ相応の覚悟はされているのでしょうな?」




