10.主人公と悪役令嬢が同じ船にいますけど何か?
ただ、先程も説明したように、通常では試験に落ちる。この世界でも、フィネークは試験に落ちたのだ。その結果、彼女は軍事学校に行くことになる。そして、特に苦労することも無く合格して訓練生となったのだ!
……いや。色々理解できないのは分かるぞ。なんで行きたかった学校に行けなくなったら軍事学校に行くのか?ってな。
でも、この世界においてこういうことってよくあることなんだ。実は魔力って軍事関係でかなり重要なところでな、しかもフィネークの持ってる魔力の属性って言うのも重宝されるものだったんだ。
ついでだからとここで魔力の属性についても軽く説明しておこう。とは言っても、属性なんてすぐに分かるかもしれないな。水とか火とか風とかそういうやつだ。ファンタジーだとファイアボールの魔法を使うのには火属性が必要とか言うのはよくあるだろ?そんな感じだ。
そんな属性の中で、当たりだとされるのが主に光と闇だな。この2つは非常に軍部では優遇され、普通は、エリートコースを進むことになる。
因みに俺の属性は風なので、ちょっと一般的なエリートコースとは違うな。
で、そんな属性の中で、フィリーネは当たりの1つの光を持っていた。だからこそ軍部が色々な学費等を免除するから来ないかと勧誘し、しかも試験とかもなしで合格させたのだ。フィネークも学力に不安があったため試験免除に飛びつき、親も諸々の料金免除に飛びついた。その結果彼女は晴れて軍事学校に入学し、エリートコースの第一歩である訓練生になったわけだが、
「て、てててて、敵が来る、じゃなくて、来てでありましてぇ……」
彼女は色々とひどいのだ。要領が悪く、軍人らしい言葉遣いも覚えられず、ドジっ子属性を持ち合わせているため凡ミスも多発。教官も頭を抱えるような存在になってしまったのだ。
もう退学になってしまうのでは無いかという状況にまで陥ってしまっていたのだが、それを予想していた俺が学校の方に連絡を取った。
強い魔力を持ってて光属性なのは使えるから、実習という名目にして俺の艦隊に回して欲しい、と。
当然学校側も手間が省けるならと承諾。
折角の特待生扱いしていた生徒だ。手放してしまうのはもったいない。それですんなりと俺たちの艦隊に回ってきたわけだ。
勿論、この艦隊に来たフィネークが大変大きな活躍をしていると言うことはない。ミスは多発するし、色々な機材にぶつかって壊すし、戦闘機体のシミュレータに乗せてみてもまともに動かせることはできない。本当に軍人としてはダメダメだ。
ただ、俺は知っているのだ。フィネークは乙女ゲームの主人公としての強い特性を持っていると言うことを。
まず、周りを笑顔にする才能。これは愛され系主人公として当然のように備えている特性だ。一部の者はミスの多さに眉を潜めているが、多くの者がミスを笑って許し、フォローをしてやっている。純真無垢で元気な様子が子犬のようだと多くの者が可愛がっている。
そして、もう1つの特性がポテンシャルの高さだ。今まで散々どんくさいだの才能が無いだの言われてきた主人公が急にゲームになると覚醒して能力を伸ばしていくだろ?俺はアレも期待していた。現に、フィネークを可愛がっているものたちが少し教育するたびに色々な技能を習得して腕を上げているようだからな。ミスは連発するらしいが、凡ミスさえ無ければ射撃の腕は一級品だそうだ。諦めずに努力すると才能を伸ばせるのが主人公の強みだよな。
「……い、以上でありましゅ!!」
そしてこの報告もまた、フィネークのポテンシャルの高さを表すものの1つ。緊張しまくりで内容を聞き取りにくいものではあったが、実際の内容は非常に簡潔にまとめられていて理解しやすい。書類を作らせればかなり良いモノを仕上げられるだろう。
「ふむ。分かった。ご苦労。良い報告だった」
「い、いいいいいえ!めめめめ、滅相も無いですぅぅぅ!!!!」
少し褒めるだけで目を回してアワアワとし出す。褒められ慣れてないのが丸わかりだな。
そんな様子を見て、
「あらぁ~。若い子を困らせるなんて、大尉も性格が悪いですわねぇ」
セシルがそんなことを言ってきた。性格が悪いと言われるほど困らせてるわけでも無いのだが、周りから見れば俺が怖い人みたいになってしまっている可能性もある。
本来フィネークを怖がらせるのはセシルの役目だというのに。
「……大変申し訳ありません」
俺は不満を感じながらも、敬礼してセシルに謝罪する。上官に軽口を言われても、軍人としては軽口で返すなんてあり得ない。俺の部下が俺に対してやるのは別として、普通はそんなことをすれば降格される可能性だってある。
ただそんな事情を知らないセシルは、
「え?あ、あの、冗談ですので謝罪などは必要ないと言いますか」
「はっ。隊長のご期待添えず申し訳ありません」
もう1回謝っておく。セシルは先程のフィネークほどでは無いもののアワアワと焦った様子を見せている。
こんな様子を見ていると、意外と若者を困らせるのも悪くないかもしれないと思えるぞ。特に顔の良い子を困らせるのは、可愛い表情が見れて楽しい。
なんて思っていたのだが、そこに予想外なことに、
「あ、あの。た、たたたた、隊長」




