66.地獄が見れそうですけど何か?
基地から脱出し、俺たちは艦隊が今攻撃を仕掛けて陽動してくれている敵基地へと向かった。
このまま撤退したほうがいいと俺は思うのだが、あともう少しで基地を落とせそうだから落とし切ってしまいたいと連絡がきたのだ。
………そういう風に調子に乗るとまた失敗するぞ?と言いたいところではあるが、俺もこれくらいのリスクはよく背負うので黙ってる。
「大佐。そろそろつくと思います」
「わかった。急に動く可能性もあるから、吹き飛ばされないように何かに捕まっておくように」
「わ、わかりました」
レーダーを見ていたフィネークは、敵の影がちらほら映り始めたことを伝えてくる。
このままフィネークに強化させたレーザーを撃って威嚇してもいいのだが、正直この小型艦のレーザーを強化したところで大した威力にはならないので安全な状態にさせておく。小型艦の魅力は、攻撃力よりも機動力だからな。
「味方の船だから警戒もされないだろうし………近づいて基地にでも攻撃するとしよう」
艦隊と合流する前に、基地へ一度大きい一撃を入れることにする。近づいていくごとに向こうの戦況もわかり、幸いなことに基地のシールドはすべてはがれていた。
だから、
「背中ががら空きだ」
雰囲気で言っているだけなのでどこが背中かは分からんが、とりあえずついている武装のすべてを叩き込んだ。そして、敵が対応してくる前に即離脱。
「お、おぉ~。基地に穴が………」
フィネークは手すりのようなものにつかまりつつ、感心したような声をあげている。
彼女が言うように、敵の基地には決して小さくはない穴が開いていた。
ただ、俺が狙ったのは敵の被害というよりも動揺だ。
急に味方だと思っていた存在から攻撃を受ければ混乱するものだろう。そして、裏切りが起きたなんて考える連中もいるはずだ。
そうして味方を疑いだしたら、敵を跳ね返すという目的だけに集中できなくなる。そうなってしまえば、あとは簡単に片づけられるだろう。
まとまりのあるこちらと、味方を疑う敵。どちらが優勢かはわかるはずだ。
『大佐。来ましたのね』
しばらく敵の基地から離れ、何度か敵の船とすれ違ったりして周囲に紛れる。敵の目もごまかせているようで、俺をまだ特定できていない。
そんな状況の中、1基の味方の戦闘機体から通信が入った。通信の主は、もちろんセシル。
「はっ。無事訓練生を救出いたしました」
『ご苦労様ですわ………ちなみに、ドワーフのほうはどうなっておりますの?』
「そちらは取り押さえています」
『そう………分かりましたわ。帰国し次第会いに行きますので、覚悟するように伝えておいてくださいまし』
「わかりました」
セシルは怒りのこもった声色でそう告げ、通信を切る。
なんとなく、地獄が見れそうな気がするな。
「えっ!?セシル様!?ちょっと待ってください!」
ちなみにドワーフへ悪い感情を持っていないフィネークは慌てていたが、すでに通信は切れている。この先セシルをなだめるのは大変そうに思えた。
まあ、フィネークにはぜひとも頑張ってほしいところではある。
「た、大佐ぁ~」
「そのように助けを求められても困るのだが………まあ、軽い助け舟くらいは出そう」
「お願いしますぅ~」
フィネークは焦っていた。
戦闘中だというのに、そちらに関しては全く意識をさいていないな。………こういう注意力散漫なところもさらわれた原因の1つかもしれない。教育したほうがよさそうだ。
「味方のタグ付けも終わったし………ここからは本格的に動いていいな。訓練生、しっかりつかまっておくように」
「え?あっ、はい…………はいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!????????」
フィネークの悲鳴のような何かが聞こえるが、無視して進む。現在トップスピードで敵艦が集まっている場所へ近づき砲撃をするという嫌がらせのような行為を行っている。もちろん、味方には当たらないようにしているぞ。
そうすると当然敵側はこの船を特定して警戒してくるのだが、すでに俺は味方の船と味方同士であることをシステムでわかるようにしているので問題ない。好きに暴れても誤射される恐れはないのだ。
「大佐ああああああぁぁぁぁぁ!!!!???????もうちょっと安全運転はできないんですかあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!??????」
暴れ方が激しすぎて、フィネークは悲鳴を上げているな。だが、無視する。この船の最大の利点である機動性を下げるなんてありえないことだ。
トップスピードで移動しつつ近くにいる敵に攻撃を行う。それがこの船の戦い方である。
特にこの船の場合、
「わああああぁぁぁぁぁ!!!!?????大佐!撃たれてます!撃たれてますよぉぉ!!!」
「大丈夫だ。問題ない」
敵の大型艦から攻撃を仕掛けられているが、俺は慌てず避けていく。当たらなければどうということはないのだよ。である。
俺の返答は死亡フラグっぽいが、本当に問題はない。
これはただ敵に精神的ストレスを与えつつ、
『大佐。基地を大破させました。これより帰還します』
時間稼ぎをするのが仕事なのだから。




