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番外編 ソフィーの野望

ソフィーの心の中の様子です。

王立ホーソン学園の中庭のベンチに、ソフィー・フェレメレンは座っていた。


美しい髪を輝かせ、ほぅ、と溜息をつく姿は、聖堂に飾られた美しい絵画の様であった。


ソフィー嬢の様子を令嬢、令息がこっそりと見つめていた。


本をパタンと閉じ、物憂げにたたずむ姿に皆、胸を押さえたり、鼻を押さえたり、頭を押さえたりと忙しくしている。


「ソフィー様、一体溜息等ついて、どうしたのかしら。婚約を結ばれて幸せのはずでしょう?」


一人の令嬢が友人の令嬢に問いかける。


「ええ、ソフィー様からの熱烈なアタックと聞いたわ。街のカフェで愛を伝えれれたらしいわよ。そのカフェは愛の聖地として今人気ですって。お相手の方はとても紳士な方だそうよ。物静かで真面目なんですって。目立つ方ではないけれど、成績も優秀だとお聞きしたわ。外見に捕らわれず、内面をお好きになったと聞いたわよ」


「女神様に見初められるなんてすばらしい方ね。確かチェリット家の方でしょう?チェリット家は古い由緒ある家柄。問題はないと思うのだけれど、次男様でチェリット家ではなく、クラン子爵家をお継ぎになるのですって。もしかして、家格の事でお悩みかしら?」


皆は心配そうにソフィー嬢を見る。


「そうなのかしら。フェレメレン家から子爵家だもの。不安はおありになられるかも。でも、ソフィー様が選ばれた方よ?きっと別の事で悩まれてるんではないかしら?」


「あら?学業の事かしら?でも、成績優秀なソフィー様が悩まれるかしら?」


「私達には分からない悩みがあるのでしょうね。ああ、今日も美しいわね」


皆がソフィーを眺めているが、当の本人は全く気にしていない。何故なら、ソフィーの頭の事は愛する婚約者の事で一杯だったからだ。




*******



はぁ、やはり、この本にも載っていないわね・・・・。



ソフィーは手元にある、本をパタンと閉じ目を静かに伏せ、考える。



どうしたら、どうしたら!ランハート様と手を繋げるのかしら・・・・。しかもさりげなく、そして出来れば恋人繋ぎがしたい!!!むぎゅっと握って指を絡めたい!!


鼻息が荒くなりそうになる所をゆっくりと息をし、気持ちを落ち着かせる。


この間読んだ、「恋は突然に!気になるアイツは幼馴染」では、「あーん、遅れちゃう!」と、主人公の女の子が友達との待ち合わせに走り、「キャ!!」とつまずき、よろけた所を偶然通りかかった幼馴染が支えるのよ。幼馴染の令息が、「どこにいくんだよ。危ねえな。ほら、手」と言って、主人公の女の子が「え!」と、言いながらも二人は初めて手を繋ぐ。


私は思い出すと恥ずかしくなって、パシパシと小さく机を叩いた。


その次に読んだ、「恋のレシピ☆隠し味は秘密のスパイス☆」では、料理人を志す二人が、一緒に買い出しに出た所で重たい荷物を婚約者が「ん」と言ってすっと持ってくれていた。「え、重たいよ?」と言いながらも渡したその時に手が触れあって、「「あ」」と二人で言い合って、顔を赤くしながらも空いた手で自然と手を繋ぐの。


そして今読んだ、「さよならは言わせない・・・、すれ違う二人」では、家の事情で引き裂かれた二人が数年後、偶然夜会で再会。でもその時にはお互いに別々の婚約者が出来ていた・・・。辛い気持ちに蓋をして、馬車に乗って去ろうとする令嬢を元恋人が追いかけてきて「待て・・・」と言って初めて二人はエスコート以外の手を握るの。


キャーーーーー!!!


どれも想像するだけで、ドキドキしてしまうわ。


でも。


どれも、参考にはならないわね。


そもそも、ランハート様は「危ねえ」なんて言葉は使われないし、私もよろけるような歩き方はしないわ。それに、次の話も駄目。二人で買い物に出ても、荷物はお付きの物が持つし、大きなものは家に届けて貰う。そして、最後の話なんてもってのほかよ。すれ違うなんてありえないわ。


ああ、でも、手を繋ぎたい。出来れば、がしっと繋ぎたい。指を合わせる恋人繋ぎをしたい。そこまでは厳しいかしら、あまり上級者の繋ぎ方をしてはランハート様に引かれてしまうかしら。


優しく手を包み込まれるような握り方もいいわね。ランハート様の手は私よりも大きかったわ。体温!体温よ!手を繋ぐと言う事は体温を感じると言う事!


はあああああ!!!


どうしましょう!!


あ。



手汗をかくかしら。



ランハート様と手を繋いで、私の手がべしゃっと手汗でびしょびしょになってしまったら、「うわぁ、ソフィー嬢ってこんなに手汗かくの?ちょっと嫌だな」と思われないかしら。ランハート様の手汗であれば私は全く気にしないし、もしランハート様が手汗をかかれて「すみません、緊張してしまって」なんて言われたら、鼻血ブーものだわ。


照れるランハート様、最高だわ。


馬車を降りる時にエスコートをして貰った事はあるけれど、あくまでエスコート。手を繋ぐとは違うわね。出来れば二人で座っている時も手を繋ぎたい。


キャー!!恥ずかしい!!ああ、顔から火が出そう!


私がふっと自分の頬に手を当て、少し赤くなった頬を冷ましていると、渡り廊下をランハート様が歩いているのが見えた。


あああ!!今日も素敵だわ。なんて格好良いのかしら。ああ、ご友人に何か喋られている。上手く見えないわね。ご友人の口は見えたわ、「つ・ぎ・の・じゅ・ぎょ・う」成程、午後からの授業について話されているのね。


ふふふ、読唇術のおかげで、ランハート様の事はバッチリよ。ああ、でも、これも引かれるかしら。


どうしたら手を繋げるのかしら。私は本の表紙を撫でながら、ランハート様が歩いて行かれた渡り廊下を見つめていると、午後の授業を知らせる予鈴が鳴った。




放課後。



私がクラスメイトから挨拶をされ、帰宅準備をしていると目の前にランハート様が立たれていた。


私は目をぱちくりして、驚いたのだけれどゆっくりと穏やかな声で、「ソフィー嬢」と呼ばれ、ああ、幻想ではないのね、と思った。


「ランハート様、どうされました?」


「突然すみません、お茶会のお誘いの手紙を持ってまいりました」


そう言われて手紙を差し出され、私は手が震えない様に手紙を受け取った。


少し顔を寄せられ、小さな声で「義姉からの手紙も入っています」と言われたのだけれど、囁き声!囁き声は威力抜群だわ!!


左耳に息が!!ランハート様の息がかかった!!ドキュンっと胸が高鳴ったのだけれど、私はゆっくりと頷いて、何も言えなかった。右耳にも下さい!とは言えない。


「では」


と礼をして、クラスを出て行こうとするランハート様に私は急いで呼び止めた。


「あの、宜しければ馬車までご一緒しませんか、せっかくですもの」


ランハート様も帰られるようで、私はせめて少しでも一緒にいようと呼び止めると、目を少し大きくされて、にっこりと穏やかに微笑まれた。


「ええ、是非。では参りましょう」


学園ではエスコートは無いのだけれど、私が立ち上がる時に手を差し出された。


私はランハート様の手に手を置き立ち上がり、ああ、この手を握って、むぎゅむぎゅしたい。「あら?離れなくなっちゃったわ」と言って、馬車迄手を繋ぎたいと二秒程思ったけれど、ゆっくり立ち上がるにとどめた。


「有難うございます」


私はそう言って立ち上がると、私の鞄をランハート様は持たれた。ゆっくりと歩かれるのは、私のペースに合わせてくれているからで、本当に優しくて私は世界一幸せだと思った。


私はランハート様に見惚れながら、うっとりと横顔を見つめ、馬車迄あと三時間位歩き続けたいと思いながら歩いて、どうしてこんなに恰好良いのかしら?と考えていた。


ランハート様を見つめすぎたのが悪かったのか、曲がり角で生徒が正面から来ている事に気付かずにいたら、ランハート様に手を引かれ、ランハート様の胸元に飛び込んでしまった。


「失礼、ぶつかってしまうと思い、思わず。大丈夫でしょうか?」


ふおおおおおお!!!!ランハート様の胸が!!!私の手が!!ランハート様の胸を触っているわああ!!!!


「・・・・・ええ・・・・」


「大丈夫ですか?」


全っ然!!大丈夫ではないですわあああああ!!!!!!


心臓が!!ドッコンバッタンっと大忙しですわああああ!!!!


「・・・・ええ・・・・・」


「どこか、痛めましたか?宜しければ手を?」


ナイス!!ナイス私!!!痛くも痒くも無いけれど!!!


「あの、痛くはないのですけれど、宜しいですか?驚いてしまって」


嘘はつきたくないもの。ランハート様に嘘をつくなど出来ないわ。地獄に落ちてしまうわ!!


「ええ、どうぞ」


私はランハート様にゆっくりと手を置くと、ランハート様はゆっくりと握ってくれた。


初!!手繋ぎ!!これはエスコートでは無いわね!もう、手を繋いだでいいでしょう!!


今日は初!手繋ぎ記念日だわ!!


私はその後、五時間くらい歩きたいと思ったのだけれど、残念ながら馬車迄はあっと言う間に着いてしまった。


「では、ソフィー嬢、お返事をお待ちしております」


「・・・・ええ・・・有難うございます」


私はぽーっとして、返事?何?と思って取り合えず、お礼を言うと馬車に乗り、家に帰った。その後家で、ああ、お茶会の事よ!と思ったのだけれど、返事を書いて、直接ランハート様に渡せば今日みたいにまた手を繋げるかも!と思い、次は恋人繋ぎよ!!と考えながら返事を書いたのだった。














今後もゆっくりペースで番外編を投稿予定です。

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