序章
そこには、大陸が一つ存在しているだけだった。
頭上は抜けるような青空が続き、柔らかな円を描いている大陸の周りを囲むのは闇だった。底が見えない真っ暗な空間。
そこには、ただ無だけが存在していた。
闇と光の狭間にある大陸の名をカスターラという。
その昔、陸続きの大陸が五つの国でにぎわっていた頃、土地を得ようといがみあう人々の姿を天界からご覧になっていた神々の長は、陸続きだから争いが起こるのだとお思いになり、水神と風神に、いさかいが起こらぬよう国を分けよと仰せになった。
神々は、長たる主神の命に従い、国々を分けようとなさった。
水神が放った杖は深々と地に突き刺さり、そこから大量の水があふれだした。
風神は、地上に向かって吐息を吹き付けられ、大陸全体を覆おうとしていた水の流れを変えさせた。水は、線を引いたかのような正確さでゆっくりと大地を滑っていった。やがて、流れる水は大河となり、国と国との境目を隔てるかのように悠然と下流の方へと流れていった。
そうして、同じ地に国を据えながら、決して交わることのない五つの国が誕生した。
水没によって田畑を失った人間は、変わり果てた地形に戸惑い、錯乱したが、それでも時が経つにつれ現状に目を向けるようになった。彼らは、生きるために荒れた地を耕すことから始めたのだった。
神々は、そんな彼らの様子を、天から暖かな眼差しで見守っていた。