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辞職した魔王は魔導書を集める  作者: 小骨武(こぼねぶ)
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9話 体質



「待ちあわせ場所は………ボロ屋敷か」



 早朝、朝日が斜めに降り注ぐボロ屋敷を見上げていた。

 今回の任務はいつもと違い、ナナタが取ってきたものではない。

 俺の活躍を聞いた、とある人物からの指名だった。



「人がいる気配はなし。待ちあわせはここ……」



 半開きの扉から中を覗くと全体的に朽ちた内装が見える。

 床や天井が抜けている箇所もあり、油断していると怪我しそうなくらいだ。

 こんな怪しい場所じゃなくて、酒場とかでいいだろと思う。

 それでも、待ちあわせはここなのだから入るしかない。

 意を決して扉を押すと微かに糸の手応え。 



「罠か」



 扉を開けると同事に何かが爆発したが、後方に転がって回避。

 負傷はなし。



「おもてなしの準備が出来てるみたいだな」



 セリアには魔導書で口止めしているため、俺が魔物だという情報は漏れていないはず。

 だから、誰かが俺を殺そうとする動機はない。

 だったら、この罠は俺を殺すためではなく、実力を試すための物だろう。

 爆発音は派手だったが、そのわりに殺傷能力は低そうな罠だったし、予想は当たっていそうだ。


 そこからは落とし穴、爆弾、ワイヤーと様々な罠をかわし屋敷の奥へと進んだ。

 大広間へ続く扉を開くと、罠はなく、一人のお爺さんが座っていた。



「待ちくたびれたわい。アンタ宛の手紙を預かっておる」


「そりゃ、どうも」



 差し出された手紙に触れる直前、お爺さんの片手が自身の背後へと伸びた。


 これも罠だ、と気付いた瞬間、細長い刀が鼻先を一閃。

 取り残された手紙は真っ二つ。

 間一髪で俺は避けた。



「手厚い歓迎だな」


「満足してくれたかの? 君を指名したアルクタじゃ」



 ふん、と満足そうに自己紹介したお爺さんこそ、俺を指名した人物アルクタだった。

 魔物との戦闘で大半の"勇者"が若くして亡くなる中、自称80歳という長寿を達成した強者であり現勇者。

 若い勇者が死にまくった結果、引退したアルクタが再び勇者に選ばれた。

 頭髪は薄くなり、肌もシワだらけ。

 それでも勇者を続けるつもりのようだ。



「小手調べは満足だ。うんざりするぐらいな。

 だから、上で構えてる二人をやめさせてくれないか?」


「ホホッ、気づかれておるぞ」



 柱の上で武器を構えていた二人はアルクタに促されて飛び降りた。

 若い男とその男よりも若干若い女。

 気になるのは、少し似ている容姿。



「ども。ダニエルです」


「どうもッスゥ〜、ウチはシモーヌ。

 ちな、コイツは兄貴ッス」



 二人とも露出の多い格好で、茶色に日焼けした肌と立派な筋肉が見てとれる。



「今日は気合い入れていきましょう」


「お互い死なないように、よろしくッスゥ〜」



 褐色兄妹が各々話かけてくる。



「ん、この後なんかあるのか?」



 顔合わせぐらいだと思っていたので、気になって尋ねる。



「これからウチらと敵対してる組織の幹部がここで取り引きするらしいッス。

 夕方までにユーシさんに攻略された罠、仕掛け直すッス」



 出会ってすぐの実戦。

 細かい打ち合わせはなく、実力で生き残れとのこと。

 アルクタの基本方針が『自力でどうにかする』らしい。


 夕方になるまで俺は特に何もすることがなく、二人の動きを眺めていた。

 シモーヌは活発に動き回り、罠を再設置。

 ダニエルは神経質なのか、シモーヌが設置した罠の確認や屋敷の探索を繰り返す。


 日が落ち始めると俺は二人がやっていたように柱の上に隠れ、準備完了。

 作戦では二人が中心となって戦い、逃げようとする敵は俺が、不足の事態にはアルクタも参戦するとのこと。


 待っていると一人の男が入ってきた。

 キョロキョロと屋敷を見渡している。

 一般人の動き。幹部ではなさそうだ。

 罠は逃げようとした際にハマるように設置したようで、今は誰でも入ってこれる。

 あと一人。

 敵の幹部とやらが来れば、シモーヌとダニエルは動くだろう。



 ……それまで暇か。



 それから30分も待ってようやく、もう一人入ってきた。

 大きなローブで全身を隠し、目深にフードを被っている。



 ……あっちが幹部か。



 二人が取り引きの話を始めると兄妹は柱から飛び降りた。

 音もなく落下する二人は同事にローブの方を狙う。



 ……兄妹でローブを、素人っぽいのは俺が相手する流れだな。



 俺も飛び降りようと構えた瞬間、ローブから白い煙が噴射された。

 白煙が取り引きしていた二人の姿を覆い隠す。


 兄妹は動じることなく、ローブを襲った。

 シモーヌの刃がローブを切り裂き、ダニエルがメリケンをはめた拳を振るう。

 しかし、そこには誰もおらず、ローブがバサリと床に落ちた。



「逃さないッス!!」



 シモーヌが残されたローブで風を起こし、白煙を追いやった。

 しかし、そこにいたのは、尻もちをつく素人っぽい男だけ。



「……消えた!?」


「………みたいッスね」



 兄妹が下を、俺は上から探したが、姿が見当たらない。

 ……消える魔法でも使ったのだろうか。



「逃げられたらマズいッス。

 ウチらも移動した方がいいかもッス」



 素人っぽい男の腹にパンチして気絶させ、兄妹は裏口に向かおうとした。

 同時、外から多数の靴の音。

 大広間の扉が蹴破られ、そこに現れた集団が手に持っていた物は………。



「「「銃ッッッ!?」」」



 一斉に放たれた弾丸がボロ屋敷を更に穴だらけにしていく。

 咄嗟に柱の裏に隠れたが、俺の方にも無数の弾丸が飛んできた。

 


 ……アルヴァートでは火薬は貴重な資源で、自由に扱えないはず



 そんなことを考えていると、下から「こっちッスゥ〜」とシモーヌに手招きされた。

 銃が大人しくなった瞬間に壁を走り、床をブチ抜いて、シモーヌの先導する方に逃げる。

 地の利はこちらにあるため、敵は追ってこれず、シモーヌと二人きりで脱出に成功した。



「ダニエルとアルクタはどうした?」


「二人とも別行動ッス。たぶん大丈夫ッスよ」


「そうか。ところで、俺とシモーヌが一緒に動いて良かったのか?

 俺はシモーヌから言われた別の道で逃げるつもりだったんだが」


「細かいことは気にしないッスゥ〜」


()()()()、そうか」



 屋敷から程よく離れた場所で俺は走るのをやめた。

 シモーヌが驚いて、後ろを向く。



「何してるんすか〜? 置いていくッスよ」


「俺がシモーヌに言われたのは、『自力で逃げろ』だけだ。

 道なんて元から知らない」


「…………………そうか。

 仲間思いの連中だと思ったのは勘違いだったか」



 シモーヌの声音が突如、男の声に変わった。

 体も段々と形が変わり、シモーヌよりもがたいのいい男の姿になる。



「だが、今更気付いても、ここまで来たら意味はない」


「勘違いしてるようだが、お前の仲間がいない方が戦いやすいから離れただけだ。

 アンタ、幹部だろ? ここで捕まえる」

 


 幹部の男と同じタイミングで踏み込んだ。

 互いにガードは薄く、攻撃優先で拳を振るう。

 幹部の男の拳にカウンターを合わせようするが、体色が変化し、背景に混ざり合う。

 見えづらい拳が俺の顔面に被弾したが、こちらも相手の胴体に一発。



「引き分けか」


「そう思うか?」



 幹部の男の顔が歪んだ。

 苦痛に腹を抑えるが、驚きの表情は隠しきれていない。



「熱いッッ!! これはッッ!!」


「『熱血』だ」



 驚愕する幹部の男の視線の先、俺の両拳からは熱気が溢れていた。


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