生き残りをかけて
くちばしに牙が生えた鳥が襲いかかる。銃で狙い定めて撃つとどす黒い液体が噴き出した。身もだえしながらのたうち回るその鳥はついに動かなくなった。
いったい何匹魔物を狩っただろうか。最初魔物を銃で撃ったとき私の足はガクガクと震えていた。例え魔物といえども生きている。そして魔物になる前は普通の生き物だったのだ。
生きていくために魔物をころさないといけない。頭では解っているつもりだった。けれどもそれはあくまでもつもりにすぎなかった。魔物をころすたび吐き気がして銃を持つ手元がふるえた。
パン・シール教団の熱狂的な支持者に阻まれたこともある。その時は私がしていることが誤っていると思ったほどだった。
「魔物は人間と同じ生き物です。ころすのは友愛とは程遠い愚かな行為。そのピストルを手放すのです!」
頭が痛い。何も聞きたくない。聞きたくない。
「うるさい! 黙れ! 私はお腹がすいてるんだよ! 野菜だけじゃ栄養が足らないんだよ! それなのにころすなだと? 笑わせんな!」
解っていた。怒鳴ったところで何も解決しない。それに魔物の肉は人にとって命取りだ。それに魔物が手加減してくれるはずもない。だからやらざるを得ない。そこに友愛はない。
それは確かに存在していた。首都であるディレル市や、都会のトルストゥールから程遠い所にあるその町民は魔物を崇拝などしていない。それどころか、町の人々は度々出没する魔物に疲弊していた。空気が澄んでいて黒い呪いの水の悪影響を被っていないそのベル・ドゥーロという町には、呪いの水の元となる怨素を含まない純度の高い水が涌き出ていたばかりでなくその土地の水と空気は瘴気さえも撥ね付けるらしかった。
そのせいかもしれないが、勢力を強めたパン・シール教団が保護している魔物を見つからずに狩る手段を町民は模索していた。
その内の一人、ジェレミー・カイヨワはとあるキノコの作用が魔物の浄化に使える事を発見した。萎んだボール状の形をしたマッシュリーヴァというキノコはいわゆる毒キノコだがその毒を薄めると魔物に蓄積した怨素を除去し元の動物に戻せることができた。
それを発見した経緯は偶然のお陰ともいえる。彼の家の側に生えていたそのキノコを何となしに側を通りかかった魔物に与えたところ、数時間後キノコを食べた魔物は痙攣しながら息絶えたが元の姿に戻っていた。
しかし、そのキノコには欠点があった。毒を薄めすぎると魔物を浄化できないし毒をそのまま使うと命取りになってしまう。毒の作用を調節するのが難しいのだ。
ある時彼の地道な作業を見てイラっとした隣人がこう言った。
「そんなことするぐらいなら、魔物ごと燃やせば良いじゃないか。スカッとするぜ?」
幼馴染みのエイドリアンは魔物に対して頭にきていたためか、かなり過激な発言をジェレミーにぶつけた。
「それじゃ、パン・シール教団に目をつけられるだろ。奴らがこの町に文句つけに来ないとは限らないんだから」
そう、彼らは実際に目を付けられた。食用のキノコを栽培していると訴えその日はとりあえず大目に見てもらえたが本当に信じてもらえたのか心底怪しかった。というのもマッシュリーヴァは美味しそうに見えなかったからだ。シチューに入っていたなら間違いなく取り除かれるに違いない。
しかし彼は諦める訳にはいかなかった。魔物のせいで普通の生活が送れにくくなっているというのにその上さらに我慢するなどもっての他だ。
それに魔物を飼育しているようにみせかけないといけないのも彼らにとってネックだった。魔物のせいで生活に困っているというのにどうして飼育しないといけないのか。頭も良く芸も覚える犬を飼うというのなら話は別かもしれないが、危害を加えてくる魔物の飼育は願い下げだ。
そして別の危機が彼らに襲ってきた。魔物愛護団体が抗議のメールを大量に送りつけるようになったのだ。
『今すぐ魔物を虐待するのを止めなさい。さもなくばあなたの家に不幸が訪れることになります』
『魔物を駆除しようなど、パン・シール教団の父長様がお許しにならない。直ちに悪逆無道な行いを止めよ』
『あんたみたいなグズなんか、路頭に迷ってしまえ』
丁寧な文章から粗野な文章様々あったが皆一様にジェレミーを脅迫していることは同じだ。そして皆が皆魔物に心酔しているらしいことが伺われた。
「……なあ、なんでこいつらお前のメールアドレスを知ってるんだ?」
どこかから個人情報が流れているとしか思えなかった。
見覚えのない建物を眺めいよいよ困った事態に陥ったらしいアールは脱出しようとあがいていた。見渡す限り無機質な金属の壁がアールの姿を反射する。どうやらいつのまにか煙から灰のような固体になってしまったらしく逃げるために飛ぶことすらままならなかった。
「ここは一体どこなんだ?」
こんな光景は今まで見たことがなかった。全ての建物が金属でできている。石畳の町並みがきれいなトルストゥールとは違い味わいや趣のある眺めとは言い難かった。銀色が鈍く反射しアールの顔色がますます悪く見えた。
しかも誰にも出くわさなかった。町ならば誰かに出会うはずなのだがこの金属の異質な町には生命感がまるでなかった。心細くなる中をひたすら歩いているとなにか音が聞こえてきた。
ギィ、ギィ。
油を注していない錆びた金属の音。不快な気分になるその音は一歩ずつアールに近づいていた。
「誰なんだ!」
森の中は叫び声が響いた。不気味な蜘蛛が一体のみならず何体も亜人達に向かって襲いかかった。身体能力が人間よりも高い獣人族は蜘蛛の攻撃を難なく避けた。
「何なの、コイツら?! 何でこの森にいるの?」
鹿耳のディアが泣き叫ぶ。鳥形人間のオルニスミムスは空高く舞い上がって危機を回避したつもりになっていたが、空を飛ぶコウモリの魔物に待ち構えられ彼も魔物の大群に終われる羽目になった。
「どんどん湧いてきやがる!」
仲間の亜人達が散り散りに逃げていく中、エルフのエリア、獣人族のミラ、人形のテレージアはそれぞれの武器を携え戦った。エリアは弓矢、テレージアは大きな裁ち鋏、ミラはどういうわけか大きな木の枝を振り回していた。
「聖なる炎よ。私たちを守りたまえ」
光り輝く火矢を蜘蛛に向かって射る。金色に輝く炎をまとった矢は蜘蛛に突き刺さると植物に燃え移らず蜘蛛だけを焼き付くした。
「斬りまくってやる!」
大きな鋏は軽く触れるだけで蜘蛛を難なく真っ二つにした。
「あっちいけ!」
ミラはと言うと、大きな枝を振り回し自身を守ることで精一杯という感じだ。
確かに三人は魔物を退治することに力を尽くした。が、数の上では魔物の方が上回っていた。多勢に無勢だった。
今や世界中の動物がほとんど魔物化しており、生態系を破壊し尽くさんばかりになっていた。




