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亜人存続の緊急会議

 ランコアは世の中にばらまいた魔物の物語が与える影響を見ないようにしていた。ジェイルに拾われたあの時から反撃の機会を狙っていたが、相手の隙のなさに絶望しかけていたのだ。


 拾われてから最初の魔物造りを手伝わされていた時の事を彼は今でも覚えている。あの人は一度も寝たり食事したり生活感のあることを、ランコアに対して一度も見せたことがない。人間ならばあるはずの欲求を見せないジェイルに恐怖した事は一度だけではなかった。


 しかも、あの人は一人ではないような錯覚さえした。もしかしたらあの人はロボットなのかもしれない。一度噴き出した疑いはとどまるどころか勢いを増した。


 彼自身も半魔物で分裂実験にかけられ二人になった時のショックは隠しようがなかった。性格が瓜二つで自身に似た姿を嫌悪した。あれは別人だ。ランコアになりすました別人だ。それでも嫌悪は消えなかった。


 けど違うところも確かにあった。深い内面はランコアではなくジェイルにそっくりなのだ。つまり、もう一人の彼には人間らしさの欠片もなかったのだ。


 逃げる瞬間を今か今かと待ちわびても、そんなときが来るなど甘い期待は捨てるべきだった。しかも孤立無援のランコアには仲間になってくれそうな人を探すだけでも一苦労だった。それでも彼は人間らしい生活をしたかった。魔物として人を襲うことに慣れたくなかった。


 一筋の光さえ見いだせない状況が続いたが、ランコアには知らないことがあった。ジェイルが仕掛けた見えない罠によって思考回路をいじくられた人が続出する一方で、全くその影響を被っていない人が確かにいた事を。


 絶望的な状況を打破できるかもしれないことをランコアは知る由がなかった。








 赤黒い空。それでも雲になって漂うアールは眩しさに耐えられなかった。ディスバニーの毒は無効に等なっていなかったのだ。しかしアールにはするべき事があった。今どこにいるかも解らないエルフのエリアを探すために半透明の小さな竜の制止を振り切って放浪し始めたのだ。


 もし長老と呼ばれるエルフがまだ存命なら、魔物をいやジェイルを倒す方法を知っているかもしれないからだ。


「もっと南に行かないと駄目かな?」


 方向転換しようとした時だった。突然突風が吹いてきたのだ。アールは空を漂う雲なのでただ吹き飛ばされるしかなかった。行きたい方向とは違う方角に吹き飛ばされているのが嫌でも解った。しかし雲である以上、なす(すべ)なく飛ばされる他なかった。


 アールはまだ知る由もなかったが、いつの間にか彼はパン・シール教団の本部がある都市に流されていた。彼が体が重く感じた時、雨になって本部の建物に向かって落ちていった。


 この事が吉なのか凶なのか、アールにはまだ判然としなかった。ただこれだけは言える。未来のためにここで終わらせなければならない。

 




 雨が降っていた。傘を持っていない私たちはただ濡れるがままになった。この雨が呪いの水に汚染されてない保証がない事を思いだしゾッとしたが、雨は確かに透明だった。これは救いの雨か、それとも……。


「武器を持っていた方がいいだろう。お前はこれを持ってろ」


 唐突にジョシュアに手渡されたのは銃だった。見た目は普通のハンドガンだ。けれど、対して重くなかった。でも……。


「こんなものどこで手に入れたの? まさか盗んだ……」


「この緊急事態にそんなこと気にしてられるか? 魔物にやられた警官からとったんだ。丁度二つあるから身を守るのにうってつけだ。特にお前は呪いのせいで魔法が使えない。だからこの魔法銃で魔物をやっつけるんだ」


 それを聞いてジョシュアは人の弱みが見える呪いにかかっていることを思い出した。ここで理性を保っているのは呪われた人たちだけだと。


「……わかった」


 





 学校を出てから何時間経っただろうか。ヨエルは近寄ってくる魔物を何匹も仕留めたせいで疲れはてていた。それに聖水の予備が残り少ないことも気がかりだった。マーラの家に立ち寄れば聖水を補給できるかもしれないが、彼女の家まで距離はまだある。たどり着くまで落ち着いていられるか解ったものではない。


 狂気が勝つか、理性が勝つか。ヨエルは魔物の仲間入りをしたくなかった。移動魔法をするには魔方陣を描かないといけないが、この雨では無理なのは明らかだった。せめて止んでくれさえすれば。






 しばらく歩いていると何やら前方が騒がしい。魔物が複数辺りの建物を破壊していた。回りの人々は楽しみながら魔物の破壊活動を眺めていた。中には魔物と一緒に破壊活動に興じる者までいる。関り合いになりたくないヨエルは通りすぎようとした、が。


「誰か! この魔物追い払うの手伝って! 笑ってないで何とかしてよ!」


 悲痛な声が群衆の中から聞こえた。その声はかなり真剣だ。正気を保っている人の声だと解ったが、それはその人もヨエルと同じく呪いにかかっているはずだ。助ける義理もないはず、だった。


「お前らそこをどけ!」


 気づくとヨエルは群衆をかき分けていた。あの魔物を黙らせなければ、結局ヨエルは魔物と同じ次元に堕ちてしまう。それが嫌だった。魔物を倒すのは正義感からでもなんでもなかった。ただ、魔物を倒してヨエル自身が魔物と違うということを証明したい。ただそれだけだった。







 エリアのいる場所は隠されていた。今は数少ないエルフの存続のため、残された森に隠れ住んでその場所を発見できないようにしていた。瘴気や、黒い呪いの水が入ってこれないように対策も張り巡らせてあった。しかし森に閉じ籠るばかりではパン・シール教団を倒す手だてが打てるはずがなかった。


 ただ、森の中では確実に対策が練られていた。打倒ジェイルのため、エリアは森に他の亜人を呼び寄せていた。その中には獣人族のミラがいた。なぜか人形のテレージアもいた。ほとんどがパン・シール教団の身勝手な行為に憤っていた。中には無関心な者もいたがごく少数だ。皆あの教団が魔物を造っているせいで住む場所を追い出されていた。魔物になってしまった仲間は捨てておくしかなかった。元の姿に戻せる聖水は貴重だからだ。


「もう話し合いは止めにしましょうよ。私たち魔法についてなにも知らないのにジェイルって奴を止められるわけがないじゃない」


 こう発言したのは獣人族のディアだ。鹿の耳が時々ひくひくしているのは怖いからだ。亜人存続のための結論が見いだせないまま会議が長引き皆表情に疲れが出始めていた。


「だったらお前がここから抜けろ。何も知らないふりして魔物はいませんって、思い込んでろ。でもそうこうしているうちに仲間は消えていく一方だがな」


 シニカルな発言をした(わし)人間のオルニスミムスは鋭い眼光でディアを威嚇した。


「そ、そんなことを言いたい訳じゃっ」


「みんな仲良くすればめでたしって話じゃないんだよ。お前は見てないのか? 魔物は人だろうが獣人だろうが見境なしに襲う。そんな奴に話なんて通用しないんだよ。やられる前にやるだけだ」


 冷ややかな空気が森の中を包んだ。そんな時ミラが大きな声をあげた。


「あ、あそこ! 何かいる!」


 ミラが指を指した先には、巨大な蜘蛛がいた。

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