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これが本当の課題

『アールは元の姿に戻れなかったが、彼は人助けをするようになった。騎士はなくなってしまったが騎士道精神はゼルを含めた元騎士やアールの中からなくならなかったからだ。アールは手始めに魔物に困っている村人を助けることにした。姿が見えないので独りでに魔物が苦しんで(もだ)える姿は村人たちの恐怖心をあおったが結果的には魔物によって困ることは少なくなった。依然として黒い水や瘴気が発生していることに変わりはなかったが、マーラやエリア、ヨエルが協力して聖水作りに励んで魔物を元の動物に戻すことに尽力した。その結果黒い水の影響が(はなは)だしかった巨人は絶滅してしまった。獣人族も少なくなってしまった。エルフでさえ絶滅の危機に(ひん)してしまうようになった。しかし、そのことでアールやマーラ達を責めるのは酷と言うものだろう。なぜなら、巨人を含めた亜人がほとんど絶滅しマーラの祖国であるギョドルム公国が攻め滅ぼされたからだ。生活の安心を守りたいその一心で行動したその結果得たものとしては納得できるものではない。が、彼らが魔物をそのまま受け入れていたなら得るものより失うものの方が多いことは確かだ。魔物を慈しむこと、それは魔物の毒牙に自身の命を捧げることに他ならないのだから。』





 物語は俗に言うハッピーエンドではなかった。が、穏やかな雰囲気で幕を下ろした。しかし、肝心のパン・シール教団の行く末が書いておらずうやむやになっていたことが気がかりだった。


 が、私は知らなかった。あの教団が実在していた事を。あの話が過去の話ではないことを。あの教団は現在進行形で活動している。だから教団の行く末など書けないのだ。私たちは騙されていた。ジェイル父長が過去の偉大な人物として崇められている中、彼は私が知らない内に魔物の楽園を現代に造りおおせていた。


 





 話は私が巨人がなぜ絶滅したのか、課題提出を求められた頃にさかのぼる。その頃には、もう既にパン・シール教団は強大な力を得ていた。魔物をはびこらせ人間の魔物化計画を実行するところまできていた。そのことを知ったのはつい最近の事で、教えてくれたのはドクター・ハイネだった。それと同時にとても信じられないようなことを知らされた。物語に出てくるヨエルは、彼女そのものだということ、そして物語に出てくる大半が実在の人物であるということ。


 それを教えてくれた彼女の表情はとてもやつれていた。


「君の呪いも私が被った呪いも、元はといえば魔物化がうまくいかなかったからだ」


「どういう、事ですか?」


 季節は既に冬のさなかで、課題提出まで残り数日まできていた。9月に入学してからもう4ヶ月も経っていたが、周りで起きたことのせいで学校生活を楽しむ余裕は消え去っていた。


「前に話した怨素のことは覚えているか?」


 正直覚えていなかった。たしか水道水の話だったような気がするが、毒のようなものが混じっていたのだろうか。覚えていないということが態度に現れていたのか、ドクター・ハイネはあきれた顔をした。


「あれは、パン・シール教団の人類魔物化計画の一つだ。周りに結界を張って聞こえないようにしたから話すが、怨素はとても厄介な代物で一度体に付着したら体内に残り続けるようになっている」


 いつの間にか私の顔が青ざめていたに違いない。というのも、冷たい汗が額を伝ったからだ。


「そんな事って……」


「それだけじゃない。聖水で呪いが解けて魔物が元の動物や人間に戻っても体内から排出されることはない」


「嘘……」


「そうだと良いんだがな、元々呪いに耐性を持つものであっても怨素の影響からは逃れられないということだ」


 




 聖水作りに余念がないマーラはマリーの帰宅が時折遅くなることを気にしていた。携帯の聖水を持たせてあるとはいえ、効果が切れたときのことを忘れてはいなかった。


 目が血走り理性が無くなった目でにらまれた時命の危険を感じた。

 

 世界で発生している黒い霧も、怨素が含まれている可能性が高い。このような恐ろしい物質にさらされないようにするだけでも神経を遣うのに、見知っている人に襲われる事を想像するだけでマーラは気が気でなかった。


 気がかりなことはまだある。普段良心的な人がパン・シール教団の掲げるモットーに熱狂的になっていることだ。その人を調べてみたら怨素に(むしば)まれているわけではないことが判明した。ただ、その人がただ単にパン・シール教団の考えに共鳴してしまっただけにすぎないのか、何かしらの暗示がかかっているのかまでははっきりしなかった。いずれにせよその人が好ましくない考えに染まっているのは確かなことだ。







 タブレットを見ていたジョシュアの顔がひきつった。「魔物に対する防衛魔法講座」の動画を視聴していたら、心ないコメントが吹き荒れたのだ。


『魔物がかわいそう』


『こんな奴くたばってしまえば良いのに』


『コイツの倫理観を疑うよ』


『魔物だって必死に生きているのに、ひどすぎる』


 彼は見ていて穏やかならざる気分になっていた。暗い気持ちを切り替えようとした時、突然動画が消えてしまった。誰かがこの動画を不適切と見なしたらしい。関連動画もいつの間にか削除されていた。


(この人たちは魔物に襲われた人が気の毒だと思わないのか? 一体どういう神経していればこんなコメントができるんだ……)


 

 授業に出席しなくなったジョシュアにとって、魔物防衛の動画は貴重な存在だった。だからこそ、理不尽なコメントや動画削除に至る経緯が解せなかった。


 不機嫌な気持ちをさらにあおるかのように授業は全て魔物関連になっていた。魔物を生成するだけに止まらず、魔物保護の授業も必須科目になった。何もかもが狂っていた。もう見るテレビも本さえもまともなものはなかった。






 世間は魔物フィーバーが起きていた。魔物に関するグッズが連日のように売り切れドクター・ハイネが聞いたら卒倒しそうな黒い水の飲料水までもが発売されるようになってしまった。この国の理性と良心は魔物愛護に入れ替わってしまったのか? 本当に守るべきものを忘れ去ってしまったかのように見える人々に未来はあるのか? 姿が見えなくなった小さな竜はもう一人の見えない亜人のいる、今は荒廃したサルーシャ山の洞窟を訪ねた。


「ミリアさんじゃないか。こんばんは! 来るって言うなら何か用意したのにー」


 薄いモヤのようなものが半透明の竜に語りかけた。心なしか声が嬉しそうだ。訪ねる人がいない洞窟に過ごしていることもあり、竜の久しぶりの訪問に気が緩んだようだ。


「そう言えばエリアさんはどうしてる? 最近見かけないんだけど」


「エリアは黒い水の影響が及ばない所に避難している。それにアール、今夜は雑談をしに来たわけじゃない。魔物の楽園が完成間近になって来たので警告しに来た」


 アールと呼ばれたモヤはそれを聞くなりしばらく黙った。


「……どうにかしてジェイルを止めることはできないの? ミリアさんは聖水の雨を降らせることができるんじゃないの?」


「聖水の雨だけでは人の性分まで変えることは出来ない。それは黒魔法の領域だ」


「それじゃ、どうすれば……」


 しかし、この時二人が知らないことがあった。巨大化した蜘蛛や魔物化した動物がカーラ達のいる街を目指して行進していた。危機は火山のように噴火寸前のところまで来ていた。

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