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Hunt the Giant! -騎士を目指す巨人と、とある魔導学校生の特別課題-  作者: 火之香
狂気に踊らされる時、理性は深い眠りにつく
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崩れ行く街、そして絆も

 どしゃ降りの大雨は永久に続くかと思われた。龍の血が混ざった雨は黒い呪いの水を洗い流した。瘴気でさえも雨で大部分が消失した。しかし空は相変わらず黒いまま日が射してくる気配を見せなかった。


 しかもレイラムと名乗る女性がもたらした影響は血の雨の浄化の効果を打ち消した。人々が正気に戻ったかと思えば、彼女が来てまたパン・シール教団を崇めさせたのだ。


 いつ終わるかもわからない暗闇は、人々の抵抗する力を奪い去ろうとしていた。そして今まさに煙のアールがディレル街を壊滅しようとしていた。




 泣き疲れて少し眠っていたパツィは誰かに呼び掛けられたような気がしてハッと目を覚ました。


「誰もいない、それもそうよね。こんな場所にくる人なんていない……、ひゃっ。何これ!」


 驚くパツィの目の前には確かに何かがいた。小さな白い龍がパツィの顔をなめていた。つぶらな金色の瞳がパツィの顔を覗き込む。何かを訴えかけているようだ。

    

「か、かわいい」


 なぜドアや窓もない密閉閉鎖空間に入ってこられたのかという疑問はそっちのけでパツィは龍を撫でようとしたが長い尾ではたかれてしまった。


「痛っ。何で叩くの……」


「早く立て。ここから出るぞ」


 思わず目を見開く。どうやらこのツンとした物言いはこの小さな龍から発せられたものらしい。


「龍が喋った……」


「何を驚いてる。我が口を利くのがそんなに奇妙か。ここで尽き果てたいのか? 我が助けてやろうと申し出ているのが分からないぐらい呆けたか?」


「な、何もそこまで言わなくてもいいじゃない! それに、ここから出るってどうする……」


 パツィが最後まで言い終わらないうちに目の前の景色が変化した。金属でできたはずの壁が瞬く間に(あめ)のように溶けたのだ。理解が追い付かないパツィは無言のまま溶けていく壁を眺めていた。


「この屋敷にかかっていた黒魔法を解いた。その上で、我がこの屋敷に物質変化の魔法をかけ溶けるようにした。この屋敷に潜む魔物も動けないようにしたから安全なはずだ」


「ここってゼルの屋敷でしょ! どうして魔物が……」


「この屋敷はすでにパン・シール教団のアジトだ」


「でもゼルの御父さんがいるはずじゃ……、まさか」


「探している人はもう二度と会えぬ。お主らは罠にはまったのだ。奴はわざとお主らを脱獄させここに迷い込むようにしたのだ」


 分かりたくなかった。それでも彼女自身の浅はかさは身に染みた。ゼルの屋敷だから安全だとどこかで高を括っていたのかもしれない。


「……ゼルは大丈夫なの?」


「そろそろ屋敷が溶けきる頃だ。ゼルとやらも見つかるだろう。大事なのはこれからだ」




 大事なのは大切な人との絆だ。ルッツィこと、ルチアは村の人々との関わりを大事にしてきた。もちろんスカイも大切な人だ。村が魔物に滅ぼされた後生き残った人はばらばらになってしまった。


 だからこそ、「命を大切に」というパン・シール教団の嘘が耐えられなかった。魔物の命のためにはかなく消えていった家族と友人たちのことを考えるとやりきれなかった。


「絶対に、諦めたりなんかしない。あんな奴のために頭を下に下げたりなんかしないっ」


 倒す敵が強大だとしても、負けを認めるわけにはいかないルチアはこっそり洞窟を後にした。マダムの言うことも分からないではなかった。が、悠長に待ってなどいられなかった。雨に足を取られそうになりながら彼女は山を下った。

 




 また一人きりになった。もう慣れっこになっていたとは言え、寂しさを感じた。飲みかけのハーブティーがそのままになっている。マダムはそれを飲むと、ホッと息をついた。


「わたくしだって、ジェイルを速く倒した方がいいことは分かりきってる。けど、皆あの人の本性を取り違えてる。奴は普通の人間じゃない……」


 ガタッと大きな音が鳴りマダムの独り言は断ち切られた。顔をあげるとそこにはフワフワの毛玉が浮いていた。かなりボロボロになっていて不安定な飛びかたをしていた。これを見たマダムは以前にアールを見守るため自家製の毛玉に周囲の風景を写しとる魔法をかけたのを思い出した。大きな音が鳴ったのは毛玉の中に石が内蔵しているからで、フラフラと飛んだせいで洞窟の壁にぶち当たったからだ。飛行魔法が切れかけていて毛玉は今にも地面に落ちそうになっていた。


「そう言えばアールはどうしてるのかしら?」


 毛玉にそっと触れると映像が洞窟の壁に写し出された。漆黒の霧の向こうにおぼろげながらディレル街が見える。街の城壁に黒以外の色が見えたのでそれを見ると人の形をした煙のようなものが見えた。マダムはそれがアールだと認識すると同時にアールの目的が透けて見えた。


「自分の怒りを街の人達にぶつけようとしている……。なんて破滅的な事を。自暴自棄になってしまってはおしまいなのに……」


 アールが騎士になりたいことを知っていただけに騎士道とは真逆の行動を取ろうとするアールに戦慄を覚えた。


「正気を取り戻させないと!」


 アールが魔物化したクマを倒した時から少し違和感を感じていた。が、情け容赦なく命を刈り取るようになってしまえばジェイルの思うつぼだ。それこそ騎士道に反する行いではないか。騎士とは無縁のマダムでも、何としてでもアールを止めなければ行けないと感じた。







 暗い空に灰色の煙がたなびく。人の形さえしていなかったらそこまで人々の恐怖を煽らなかったはずだ。しかしその煙は風に漂い流されなかった。むしろその逆で、城壁に乗ったかと思うと内側に入り込もうとした。側でそれを見ていた兵士は一斉に矢を放ったが、当然の事ながら煙に当たることはなかった。兵士よりもかなり大きいその煙は見えない口を開いた。


「きさマら全員、コロしてヤる。焼き尽してヤる!」


 背筋が凍る感覚を覚えた兵士はその場を動くことができなかった。煙が手を振りかざすとそれまで降っていた雨が止み、代わりに灼熱の炎が城壁を襲った。






 冷たい風を感じて空を見上げたゼルは(かぶり)を振った。


「ここは、外? 屋敷にいたはずでは? ……父上が、いない。あれは幻だったのか……」


 一時間も話し込んでいたような気がする。何を話していたのか、今でははっきりと思い出せない。ゼルのすぐ近くにいたスカイが宝が消えたとわめき散らしていた。あたりを見渡すと小さな龍を抱き抱えたパツィもいた。安心したかのように泣いている。しかし、一人見当たらない。ヨエルがどこにもいないのだ。


「おい、そこの人。ヨエルという魔術師を知らないか?」


 話しかけたのは見知らぬ女性だ。しかし、女性はどこかで見たことのある服を着ていた。しかし、どこで? 


「お前は全く人の顔を見てないな。呪いにかかってしまって女性になったが、私がそのヨエルだ。……ところでゼル、そこを退け」

 

 言っている意味がわからない。人を観察することなどあまり関心のないゼルはこの人は嘘を言っていると思いムッとした。が、魔法の素養のないゼルでもこの人が呪いにかかっているのは本当らしいと思った。が、ヨエルと名乗る女性の口調に苛立ったゼルは眉間にシワを寄せた。


「お前は俺を何だと思って……、わっ」


 ゼルの肩越しにヨエルが急に魔法を放つ。ヨエルに怒鳴ろうとしたゼルだったがふと後ろに目を向けるとそこには魔物と化したジェレマイアが魔法に当たったらしく気絶して延びていた。


「魂だけになった魔物にも当たる魔法を開発しておいて正解だったな、ヨエル。せめて浄化魔法をお主が覚えていれば百人力だったのだがな」


 パツィから離れた龍がヨエルを睨み付けていた。胃が縮み上がるような目付きだ。


「しかしそれでお主の(カルマ)が消えてなくなるわけではない。お主がしたことを忘れるな、ヨエルよ」

 

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