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とある未来の話 -黒き呪いに侵されて-

 あれこれ悩みすぎていたせいで特別課題のことなど頭からすっかり抜け落ちていた私は、歴史の授業の時、講師に進捗状況を聞かれて慌てふためくことになった。


「だ、大丈夫ですっ! 順調に進んでいますっ!」


「そう? だったらいいんだけど、やらないで困るのはハルトナーさんのほうなんですからね」


「は、はい……」


 気まずい雰囲気が漂ってきたので、以前から聞こうと思っていたことを聞きそびれてしまった。魔物が造られたものであるか否か知りたかったけれど後で聞き直すことにした。


 そう思い直し座席に座り直した時だった。講師が授業を続けようと口を開いて出てきたのは、思いもよらない言葉だった。


「それでは近代魔術の歴史についてでしたね。その頃から魔術は格段の進歩をたどるようになり、ついには生命を造ることに成功したのです。それについて知っている人は?」


 一体何を言っているのだろうと耳を疑った。どの歴史書を読んでも錬金術のことは書いてあっても生命を造る試みはどこにもかかれていないはずなのに。


 それなのに、私を除くほかの学生はそのことに疑問をさしはさまず熱心に考えているか、それどころか挙手までしている学生もいる始末だった。慌てて教科書を見なおした私は愕然とした。


「う、うそ……」


 そこには先日までなかったはずのページがあった。生命創造の章だ。教科書は染みから汚れまで私が持っていた教科書そのものだったし、私自身の名前まで書いてあったが、中身は明らかに違う内容になっていたのだ。


「こんなことって……」


 背筋がぞくっとした。明らかに何かがおかしかった。教科書には生命を造りだした人物をたたえる文章が書かれていた。パン・シール教団のジェイル父長、その人の記事が丸ごと教科書に書かれていたのだった。


「はい!」


「じゃあ、フォルスターさん。造られた生命についてわかっていることを答えてください」


「パン・シール教団のジェイル父長は素晴らしいお方でです。今存在している魔物は皆ジェイル父長がお造りになられた生命が元になっているからです。ジェイル父長こそいまある生命の救済主なのです」


「はい、そうですね。見事な答えです。我らがジェイル父長は生命を御造りになられ、多様性を守った存在でもあるんですね」


「違う……」


「……? どうしましたか? ハルトナーさん?」


「この教科書は間違ってるっ!」


 いきなり立ち上がった私は、周りの学生が唖然としている中授業を放りだして教室から抜け出してしまっていた。もう落第でも何でも降りかかればいい。






 どうして教室を飛びだしたのか、自分でも分からない。けれど、本能がこれはまやかしだと告げていた。


 今までなかったはずのページが突如として現れ、ほかの人達がそれを疑問にも思わず受け入れているさまが恐ろしかった。


 あの銀髪の少年に渡された巨人が主人公の小説は読めば読むほど気が滅入るような内容になっていたが、主人公の周りの人達はパン・シール教団はおかしいと思っていたではないか?


 それよりもおかしいと感じたのは今まで歴史書に全く名前も出なかったはずのパン・シール教団のジェイル父長が今や実在した人物として崇められていたことだった。


 この国の何かが変化しようとしていた。それも確実に悪い方向に、人を害する魔物を造った人物を崇め奉る方向に変わろうとしていた。






 気を落ち着かせるため人の出入りの少ない図書館に入ったときだった。なぜか見覚えのある人がいるような気がしてビクッとした。


 授業を抜け出したことを咎められることを恐れた私はとっさに身を隠そうとしたが相手のほうが先に気づいてしまったようだった。


「おや、君は確か検査に来た子だね。どうしてここにいるんだい? ……体調がよくないわけではなさそうだが」


「あ、あなたは……」


 私に話しかけてきたのは、私に魔力検査を実施したドクター・ハイネだった。どうしてここにいるのか分からない、と言った目つきで私を見ている。


 薄暗がりの中でしか見ていないので気がつかなかったが、どうやらドクター・ハイネは女性のようだった。


 どうしよう。今はどこも授業中で学生たちは教室の中か校庭の外にいるのが普通だ。それなのに私は今図書館にいる。司書係の人に見つからず図書館に入れてホッとした思いは私から消え失せていた。


「……言いたくないのなら仕方がない。私は学校関係のものではないから、そこまで詮索したいとも思わない。……少し時間はいいかね」


「え、……でも」


 答えを出し渋っていると、頭の中でドクター・ハイネの声が響いてきた。


(実はあの検査で出した結果は嘘だ。学校に向けたいわば方便のような物といえる。実情はもっと深刻で、君の持つ能力はいわば……呪いだ。放っておけば君の持っている小説の主人公と同じ運命をたどることになる)


「う、嘘っ」


(静かにっ。さっきのことは秘密にしておくんだ。私がなぜ君の小説のことを知っているのか疑問に思うだろうが今はそれどころじゃない。この学校、いやディレル国が危機に直面しているからだ)


「もしかして、パン・シール教団のせい……」


「それ以上口を開くな。危険な目に遭いたくなかったら黙っておいて知らないふりを続けろ。それと、これを一日一回、一滴朝に飲むこと」


 突然言い渡されたことがあまりにもショックだったせいで手渡されたものを危うく床に落とすところだった。


「これは……?」


「普通の人にはちょっときつい薬、とでも言っておこう。飲み忘れるんじゃないぞ」


 手渡された小瓶に入っていたのは、一見すると無色透明な水のように見えた。これは何の薬ですか、と言おうと顔をあげたとき、ドクター・ハイネはもうどこかに行ってしまっていた後だった。


「……あの人、今の状況について何か知ってそうだったな……」


 気を静めるため本を読もうとしていたがドクター・ハイネに言われたことがじわじわと毒のようにしみこんできていた。


 「呪い」は一昔前まで憎い相手を陥れるために使われることが多い犯罪に使われる古典的な黒魔術の一つだったが、魔法機器が発達した今はそのようなものにたよる人はめっきり少なくなっていた。


 いい例は魔法銃が開発された事だ。魔法銃とは、遠くにいる相手にかけたい魔法を飛ばすためのものだ。普通の魔法の飛距離はそこまで遠く飛ばせないものが多いが、魔法銃が発明されたことにより入手しようとする人が爆発的に増えた。


 ふつうそれは警察が使用していて一般人には支給されていないが、闇ルートで売買されて法の目をかいくぐられたことで一気に規制される動きが広まったのだった。


「あーあ、気づいちゃったか~」


「なっ、いつの間にっ」


 すぐそばにあの銀髪の少年がいた。満面の笑みでこちらを見ていたが、なぜかヒヤッとした嫌なものが腹の中を這い回るような不快な気持ちになった。


「気づいたって、何の話?」


「もう、わかってるんでしょ? あなたの周りで起きていることに。授業中誰も本に書いてあることに疑問を抱かなかったでしょ? 本当はあなたもあの術にかかる予定だったんだけどな。何の耐性があったんだろうね? ああそれと、あなたが持っているもの、没収させてもらうよ」


 一瞬のことだった。目の前の少年が掻き消えたかと思うと、また現れたときには私がドクター・ハイネに渡されたものを少年が持っていた。


「……っ、返してっ」


「嫌だよ。せっかくあなたにかけた魔法が台無しになっちゃう。悪いけどこれは、こうだ」


 そう言うと少年はあの小瓶を瞬く間に蒸発させてしまった。心臓がキュッとした私は努めて冷静に聞いた。


「私にかけた魔法って何?」


「……知らないほうがいいこともあるんだよ? それでも聞くの?」


「っ、からかわないでよっ」


 怒りではらわたが煮えくり返りそうだった。以前の私なら得意だったともいえる熱風であいつにやけどを負わせるところだったがそれもできない。図書室の中で暴れることもできない私は少年を睨みつけることしかできなかった。


「そんなに言うなら教えてあげる。……ドクター・ハイネがあなたにテレパシーで伝えた通り、だよ。どうなるか、楽しみだね」


 


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