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魔物を討伐せよ

 徐々に雪が溶け日差しが長くなっていく中、明らかに世間の魔物に対する見方が変化していた。以前なら、魔物は村の近辺にしか出没していなかったため街の人は魔物に無関心だったが、今では魔物を保護しようという活動が活発になってきたのだ。


 街での魔物保護活動とは裏腹に、周辺の村では魔物を狩るための猟師育成が急速に進んだ。村の人々にとっては家畜だけでなく人の命を奪う魔物は害悪でしかないからだ。しかし、そんな思いも裏腹に魔物の数も増加していき、村の生活を圧迫した。


 そんな中、必然的にエリアの医療の仕事が増えだした。押しかけてくるのは当然パルアベルゼの森の近くの村人たちだ。皆が皆魔物に襲われたと口をそろえてエリアに治療を依頼しに来たのだ。


 当然ながらエリアの診療所に居候しているパツィやミュリエル達もできる範囲ながら医療の手伝いが増えた。





「オレはやらねえぞっ! 右手がねえのにできるかよっ! オレに手伝いをさせるなら右手を元通りに治してからにしろよっ!」


 エリアが薬草をすりつぶしてルッツィが包帯の用意をしている途中スカイが叫んだ。怪我人を運んできたゼルが近くにいたスカイに怪我人を運ぶのを手伝わせようとしたのだ。


「肩を貸すことくらいできるだろ。それに前にもお前は右手がなくてもできる手伝いをできないからと言って突っぱねたな。今のところお前は役立たずでここにいる意味がないぞ」


「……い、今やろうと思ってたところだっての。いる意味がないなんて言うなよ……」


「肩を貸すだけなんだからできるでしょ? 役立たずの盗人さん?」


 乾燥した薬草を棚から取り出してきたミュリエルはスカイに厳しく言った。スカイの肩を持ちたいルッツィはミュリエルに言い返そうとしたが結局しどろもどろになってしまった。


「え、えーと……、な、なんでもない、です……」





「私が背負ってもいいよ? 補助魔法で力増幅できるからさ」


 ゼルと一緒に魔物狩りに出かけたことがあるパツィが提案したが、ゼルがすぐさま却下した。


「ダメだ。お前の補助魔法は踊らないと発動しないだろ」


「えー」


 エリアははじめのころ、ゼルたちが押しかけたのを嫌がっていたが、魔物による怪我人が続出した今となっては、パツィたちの存在がありがたい限りになっていた(右手がないからとわめく奴は除くとして)。


 が、今はまだ彼女らにとってはマシなほうだった。これからあたりで魔物の数が増え続け、怪我人やひん死の重体の人が途切れることなく運び込まれるようになろうとは診療所にいる誰もが予測していていないことであった。




 まだ寒さが残るころ、マダム・マーラはヨエルを連れてトルストゥールにやってきていた(ヨエルが人形を欲しがったせいである)。マダムはしきりにヨエルを見張っているがそれは彼への不信がまだぬぐい切れないせいだろう。が、ヨエルはお構いなしにトルストゥールの街並みを堪能していた。


「それにしてもあの二人を残してきてもよかったんだろうな?」


 ヨエルが言うあの二人とはアールとミラのことである。アールは夜にしか目覚めないから大丈夫、とは言いきれないようだし、ミラのほうも街に行きたいと駄々をこねてマダムたちを困らせていたのだ。


 そのことを考えていないわけではなかったマダムだったが、内心イラッとしたのを隠して平静を装いながら答えた。


「アールの周りには結界を張ってきているし、ミラにはわたくしお手製の()()()のおもちゃを渡しているから大丈夫ですわ」


 マダムは魔導式のところをやけに強調して言った。トルストゥールには魔導式の人形を作る人形師がいることを嫌でも感じないわけにはいかなかったのだ。


 街の中心部に近づくにつれてマダムは不穏な雰囲気を感じたがそれはヨエルも同じらしく目つきが鋭くなった。二人の視線の先にあるのは建物という建物を覆いつくすかのように垂れ下がっているおびただしいほどの垂れ幕だった。


『すべての命を大切に! 命を尊重してこそ貴い人になれます! パン・シール教団』


「……あの大嘘つきめが」


 ヨエルは無意識だったに違いないが、その言葉に怒気がはらんでいたことをマダムは見逃さなかった。


「大嘘つき、ねぇ……。でもそれだけじゃ足りませんことよ? 旅人さん。この街にはあまり長居しないほうがよいでしょう。それにここで買うものにも注意したほうがよろしいかもしれませんわね。……何かよからぬものが漂っていますわ」





 寝入ってしまっておきないアールと二人きり取り残されたミラは、マダムから渡されたしゃべるおもちゃにうんざりしてしまったらしくもう退屈してしまっていた。


「あー。退屈だよー。アール兄ちゃん起きてくれないなんてつまんないっ! 退屈だー!」


「ソンナ事イワレマシテモオジョウサン……、ワタクシメガイルジャ……」


「つまんない! つまんないったらつまんない!」


 即答されてしょんぼりした小鳥型のロボットはすぐさま話題を切り替えることにした。マダムに造られたからかマダムに忠誠を誓っているこの小鳥ロボは、マダムのためならどんなことでもするつもりでもいるのだ。それがどんなにバカらしく見えることでも。


「ソレデハモノマネ大会ヲシマショウ。一番似テイタホウガ勝チ……」


「それも嫌。だって小鳥さんの声不自然だもん。どんなにモノマネしていたって本物の鳥にすら似てないよ」


「ヒ、ヒドイ……」


「うーん……」


 ミラたちがうるさいせいではないだろうが、アールが小鳥型ロボの声に反応したようだった。心なしか、ロボの声が耳触りが悪いらしく耳をふさいだように見えた。


「あ、兄ちゃん! もう起きた? 一緒に遊ぼうよっ! この小鳥とってもつまんないの!」


「ヒドスギル……」


「うーん、もう食べられない……。おなかいっぱい……。むにゃむにゃ……」


「寝言ノヨウデゴザイマスネ。起キルマデ、何カシテマショウ……」


「そんなの嫌だ~!」


「……ア。ソンナ、マサカ……」


 ミラが泣きわめく中、小鳥ロボの視線がミラとは別のところに移った。そこにはなぜか次第に体の輪郭が薄れていくアールの姿があった。


「コレハ大変ダッ。マダムニ、知ラセナクテハッ」





 怪我人をある程度治療し終えたところ、ドアをバンバンと叩く音がした。また怪我人か、とエリアがドアを開けようとしたところ、彼女がドアを開けるより前にドアが勢い良く開いた。


 ドアの前に立っていたのは、二人の兵士のようだ。二人とも歩き疲れて少しばかり表情に疲労感がにじみ見えた。盗人のスカイや指名手配されたルッツィには目もくれずゼルのところへとやってくると、疲労を感じさせないきびきびとした声でこう言った。


「伝令です! ゼル様にはすぐにお屋敷にお戻りいただきます。突如現れた魔物が街中で暴れ回っているのでゼル様には魔物討伐を手伝っていただきたいとゼル様の父君より仰せつかっております!」


 それを聞いた瞬間疲れているにもかかわらずゼルは立ち上がったが、エリアの脳裏に嫌な予感が走った。街中ではパン・シール教団が目を光らせている。そんな中で魔物を討伐してしまったらきっとパン・シール教団に感化された人達が怒りの抗議をしてくるに違いなかった。


 が、事態は想像しているよりはるかに酷いものだとエリアたちは後で思い知らされることになる。

 




 

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