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ある男の研究結果と、ディレル国の行く末

『さまざまな生命を研究している中でわかったことが一つある。それは魔物が造られたものであるということだ。今まで魔物のような存在がいなかったという事実からして、造られたものであるということは合点がいく。


 しかし、問題は誰が何のために、ということだ。こんな物を作って何の利点があるのだろうか。もし誰かに利点があるとするならば、間違いなくパン・シール教団の者たちだろう。


 ここ最近勢力を伸ばしてきたその教団は生き物すべての命を大切に、という一見するととても大層な思想を掲げている。しかし、ふたを開けてみるととんでもない思想だということがわかった。


 それは魔物が増えても狩れないということだ。そのせいで過去にある村が消滅したことがある。その理由が村がパン・シール教団の教えを実践してしまい魔物を狩れなくなって逆に被害が続出してしまったことだ。


 教えを守ってしまった村にも非があるという意見も聞かれるが、実態はどうも違うようだ。どうやらその村は最初パン・シール教団の教えを否定していたらしいということだ。


 ということは、つまり何らかの理由でその思想を押し付けられたか、弱みを握られてその思想を受け入れざるを得なくなったと考えたほうが合点がいく。


 生き物の命を大切にするのは一向にかまわない。が、人命を必要以上に狙う魔物の命までも大切にしようというのはどう考えてもおかしい。


 パン・シール教団の狙いが何かはまだ現時点では分からない。が、我々人類、いや他の亜人にとっても、彼らの思想は危険であることは疑いようのないことだ。


 推測の域を出ないが、魔物はパン・シール教団が造ったもので間違いない。あとは、この事実を市民に知らせるだけだ。しかし、彼らはすでにあの思想にどっぷりつかってしまっている。


 私の研究結果を受け入れてくれるだけの寛容さを彼らが持っている、と考えるのは甘い考えだろうか?』





 とてつもなく暗い。マダム・マーラが魔法の明かりを灯してなかったら今頃洞窟の中で迷子になっていただろう。かなり暗い中を歩いてきたのでマダムの気概は折れそうだったが、アールはどこ吹く風でどんどん突き進んでいった。


 魔法のテントが破れてしまったので、アールがそのおわびとして住める場所を探すと言ったのだが、まさか洞窟探検をするなんて思ってもみなかったマダムは溜息が出そうだった。それに引き換えミラはというと、冒険気分で意気揚々としていた。


「ねえねえ! 洞窟って広いから雪が降ってこなくて済むねっ!」


「ええ、そうね……」


「どうして落ち込んでるんだよ、マダム? 何を心配してるかわかんないけど、洞窟にいる生き物はコウモリくらいなものだろ?」


 のん気に構えているアールの問いかけにマダムの気分が一気にえた。そして答える気力も失せたのだが渋々ながら答えることにした。


「……コウモリだけで済めば御の字ですわよ。今は外が吹雪いている状況ですからどんな生き物が洞窟で寒さをしのいでいるか、分かったものじゃありませんのよ? それにこの洞窟嫌な予感がするんですの……」


「何? 嫌な予感って? クマだろうと魔物だろうとおれがしとめるからさ。あんまり気にするなって!」


 そう言い終えた後のことだった。洞窟の奥から何やらクマのような唸り声が聞こえてきたのである。しかし、クマは冬眠するはずでは? が、その答えはすぐさまやって来た。


「……誰かと思えば、その姿から察するに影の犠牲者か」


 洞窟の奥から出てきたのはクマでも魔物でもなく、ただの人だった。が、ここは洞窟だ。しかも真冬で山には雪が積もっている。どうしてただの人が洞窟に入ったりするのだろうか? マダムは怪訝けげんそうに眉をひそめた。





 アールたちが洞窟探検しに行っている頃、ミュリエルは図らずもエリアの診療所の中にお邪魔させてもらうことができていた。というのも、ドアの中から出てきたのはほかの誰でもなくミュリエルの妹、パツィが出てきたからである。


「それにしても驚いちゃったっ! まさか、ミュリエルが人形工房を飛びだしてきたなんて。あそこ、給料いいんじゃなかったの?」


「そうなんだけどね……。あの師匠ときたら、分からず屋なんだからっ! 自分が仕事できるからって偉そうにしてるのよっ!」


 ショウガクッキーをほおばりながらパツィは自身の姉であるミュリエルの話を面白そうに聞いている。ミュリエルは溜息をつきそうになったが、部屋の中を見まわしあることに気付き、唖然としてしまった。


 その視線の先には何やら手紙を書いているらしいゼル……ではなく、パン・シール教団に突きだされたはずの盗賊のスカイと指名手配犯のルッツィがいたのだ。なにやら二人で思い出話を語っているようでミュリエルに気がついた様子を見せなかった。


 ミュリエルは驚きのあまり口が勝手に開いたが、ルッツィは冤罪ではないか、という思いも捨てきれないでいたため、慌てて口を閉じ気を取り直した。


 その視線に気がついたらしいエリアはほっと息を吐くとこう言った。


「……パン・シール教団のことは噂には聞いてる。けどこの二人のことは秘密にしておくつもりだから、そちらも内緒にしてもらうと助かるわ」


「あ、私もそのつもりでいますっ。……でも理由をお伺いしてもいいですか?」


「このことを誰にも公言してもらわないと助かるんだけど……、いい?」


「え? あ、はい……」


 聞かれたらまずいのか、エリアはミュリエルを別の部屋に招こうとすると、パツィがついてきた。


「どうしたの? 何かあった?」


「悪いんだけど、あなたのお姉さんと二人だけでお話したいことがあるの。その間家の手伝いを再開してもらえると助かるわ」





 一匹、二匹、三匹。洞窟の中に魔物と思しき生物が何匹も倒れている。そのどれも気絶していて起きる様子はない。それにしても一体どのくらい倒しただろうか。アールは息が上がってないらしく楽しげにも見えるが、ミラとマダムは早くも息が上がっていた。


 そもそもなぜ洞窟内で魔物を倒しているのかというと、先ほど出会った人物に原因があった。


「私は洞窟に潜む魔物を研究するためここに来たんだが、少しばかり厄介なことが起きてしまってね。ここにいる魔物に打った睡眠薬がどうも効果が薄くてね。眠りが浅いらしくてそろそろ目が覚めるので気絶させてくれないか?」


 かなり胡散臭い雰囲気を醸し出していたその男性の願いにマダムは断ろうとしたが、どういうわけかアールがすかさず承諾してしまったのだ。


「だって困っている人を助けるのが騎士じゃないか。騎士を目指すってのに困っている人を放っておけないよっ」





 アールたちが洞窟で目が覚めそうになっていた魔物をすべて気絶させたころ。診療所にいる妹を尋ねたミュリエルは戸惑った表情を隠せずにいた。


「あの、それって、本当のことなんですか? パン・シール教団がディレル国を牛耳ろうとしているって……」


「しっ。静かにっ。聞こえてしまうっ」


 赤の他人に秘密を打ち明けたエリアはミュリエルの目をまっすぐ見据えつつ言った。でもどうしてそんなことを初めて会った人に言う気になったのだろうか。疑問に思ったことを見てとったらしいエリアがこう付け加えた。


「……実を言うと、私は信じることができる人かどうか見抜く目を持ってるの。だからあなたには言ってもいいと思ったの。それにあなたも見たでしょ。あの二人」


 誰のことを言っているかわかったミュリエルは口に出さずうなずいた。


「私があの二人をかくまったのは、ね……」


 エリアが声を潜めたせいで聞き漏らすところだった。が、その言葉ははっきりとミュリエルの耳に焼き付いた。


「どうもあの教団は自分とは違う思想を持つ存在が許せないらしくて。だから反対意見を表明したら最後。意見を矯正されてしまうことになるかもしれない」

 

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