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とある未来の話 -カーラ・ハルトナーの特別課題- その二

 校庭の中庭には大きなトチノキが生えている。いつもならそこで友達と色々話したりするのだけど、私はあの銀髪の少年からもらった本を読みこんでいた。あの騎士を目指している巨人の冒険譚だ。


「……なんていうか、序章は冒険らしい冒険がないな。ただ主人公の巨人の周りの状況が悪化しているみたいだけど……」


 読みこんでいたせいで目の前が暗くなったと気が付いた時には、本を取り上げられていた。見上げてみると、実技魔導担当の先生が私の読んでいた本を取り上げたらしかった。半ばあきれた調子を見る限り、持ち込み禁止の物を取り上げるのは日常茶飯事なのだろう。


「ここで読んでもいい本は図書室の本だけです。勝手に家の本を持ってきてもらっては困りますね」


「あの、その本を返していただきたいんですけど……。必要なんですよ」


 歴史の先生に出された特別課題のことを言うべきだろうか。言いよどんでいると先生がこんなことを言ってきた。


「返してほしいというのなら次の私の授業でできるということを見せてもらいましょうか。いつも私の話をよく聞いていればできるはずですがね」





 突き刺さる視線が痛い。私はとりあげられた本を取り戻すため、実技魔導の授業で他の学生が見ている中広い校庭で魔法陣をかいている最中だった。緊張しているせいか、何度も書き方を間違え、書き終わった後にはさほど暑くないのに汗をかいていた。


「……これは、何を書いたつもりですか? カーラ・ハルトナーさん?」


 先生が横に来て平静を装った声で私に質問したが内心は怒り心頭に違いなかった。何か間違いをやらかしたに違いないが、私にはどこをどう間違えたのか、さっぱりわからない。


「魔法陣、です」


「これが、魔法陣ですか? ハルトナーさん? 私には子どもの落書きにしか見えないですがね。こんなのでは魔法を発動させるどころか、何も起きないと思いますがね。皆さん、ハルトナーさんのした間違いがどこか、わかりますか?」


「!!」


 まさかほかの学生に私の魔法陣を見られるなんて! 私は無意識に足で魔法陣を消そうとしたが先生に止められてしまった。何人か手をあげている学生がいたので、先生は一番近くにいた人を指摘した。


「はい、先生。ハルトナーさんの書いた魔法陣にはある物が足りません」


「そのあるもの、とはなんですか? カームソンさん?」


 カームソンと呼ばれた自信ありげな男子学生は淀むことなく答え始めた。


「魔力です。魔法陣には魔力を込めて描くのが普通ですが、ハルトナーさんのはそれが感じられません」


「その通り。これでは魔法発動できないことがお分かりですね、ハルトナーさん?」


 指摘された私は顔から火が出そうになった。魔力がないなんて絶対嘘だ。ここにいる学生たちは私も含めて魔力があるからこそこの魔導学校に入学したのではないか? それに、初等学校では初歩的な魔法なら私も扱うことができたのだ。


 先生は失望したような表情を一瞬見せた。私はこの学校を追いだされてしまうだろうか? そんなことを思っていると、先生は意外なことを口にした。


「何でもいいから一つ、呪文を詠唱してみなさい」


「えっ? でも呪文の詠唱は別の授業……」


「いいからやってみなさい!」


 私に集まる視線が一層きつくなったような気がした。私は恐る恐る物を浮遊させる呪文を詠唱した。以前授業を聞いていたときには私は聞いていただけなのでやったことはないが、呪文とそれに必要な体の動きは覚えていた。浮かばせる物は私が魔法陣を描くのに使った大きめの杖だった。


 ……が。まったく杖は浮かぶそぶりを見せなかった。それどころか全く動かなかった。周りから押し殺したような笑い声が聞こえる。本当に穴があったら入ってしまいたい気持ちだった。


「……その杖を持って他に何かできることはありますか? もう、初歩的な魔法でもかまいませんから……」


 その言葉で私は先生を本格的に失望させてしまったことがわかった。もう本を返してもらうことなんてどうでもよくなっていた。この時の私は何を思っていたのだろう。目の前の杖を拾うとあろうことか杖を真っ二つに折ってしまった。魔法で強化されていて折れないようにできているにもかかわらずだ。


 周りからどよめきが湧きおこる。魔法で強化されているはずの杖が折れたのだからその反応も当然だろう。カームソンが「あいつ、馬鹿力だ……」と言うのが聞こえてきた。いったい私は何をしているのだろう? 必死に逃げたい気持ちをこらえていると、先生がぽつりと漏らした声が聞こえた。


「あなたには魔導士よりも、補助魔術師エンチャンターのほうが向いているようですね……」






 授業の終わり、私は一人寮室にいた。部屋をシェアしている学生は買い物に行っている最中だ。ぼんやりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。もし同じ部屋に住む人ならノックはしないはずだ。いったいだれだろう? 私は立ち上がるとドアを開けた。


「こんにちは」


「あ、せ、先生! どうしてここに……?」


 ドアを開くと実技魔導の先生がそこにいた。手には取り上げられたあの本が握られていた。


「この本を返しに来たんですよ。ですが、ちょっとこの本を調べさせてもらいました。変な魔法がかかってないとも言いきれないのですからね。まあ、何ともなかったからよかったですがね」


 とりあげられている間にそんなことまで調べられていたなんて……。でもどうして返してくれる気になったんだろう?


「実は歴史の先生にお会いしましてね。あなたの特別課題のことを聞いたんですよ。亜人がなぜ絶滅したかについて調べているらしいですね」


「はい、そうです」


 そのことを言われて顔が火照りだした。歴史の先生は多分何気なく言ったのだろうが、この実技魔導の先生は私に出された特別課題についてどう思ったのだろうか?


「この本は歴史小説みたいですから、その特別課題の役に立つかどうかわからないですが、歴史について知ることもいいことですよ」


 ……? これは冒険小説じゃなかったっけ? それともこの本に書いてあることは史実なのだろうか? モヤモヤしていると、先生が私を見据えてこう言った。


「実はあなたに言うことがあってこの本を返すがてらここに来たのですよ。……あなたの進路についてです」


「……え?」


 なにを言ってるのだろうか。私はまだ魔導学校高等部に入ったばかりで進路について考えなくてもいいはずだ。それなのにこの先生はもう私の進路について何か決めようとしている。


「あなたはこの魔導学校に向いてない、と私は思うのですよ」

 

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