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どうしても叶えたい夢

この作品は特定の個人、団体を誹謗中傷するものではありません。

「ダメだ! 何度言ったらわかる! お前に騎士など無理だ!」


 絶叫に近い声が森の中にあるとある家から響き渡る。とどろく轟音のせいで周りにいる動物たちが逃げだしてしまっている。


「どうしてだよっ! 確かにうちは貧しいけど、こっそり忍び込めば……」


 家の中では父親とそろそろ青年になろうかという年頃の息子が怒鳴りあっていた。


「そういう問題じゃないっ! お前は自分自身をよく見たことがあるかっ!」


 父親の指摘にぐうの音も出ない息子。どうやら心当たりがあるらしい。


「た、体型が何だって言うんだ! 少しぽっちゃりしているだけだよ!」


「……お前の言う少しはな。まったく少しではないんだよ。確かにお前は俺よりは見劣りするかもしれない。けどな、お前自身が見過ごしていることが一つだけある」


 父親が声のトーンを落としただけで、息子は生唾をゴクリと飲み込んだ。気がついてはいるけど無視したい事実。言ってほしく無い現実……。


「俺たちは巨人なんだぞっ! その俺たちに人間の鎧が着れるとでも思っているのか! 大きな鎧などないんだぞっ! あと、剣だって小さいから持てないっ! あきらめて格闘家になる練習でもしてろっ」


「い、いやだぁ!」





「……それで仲間に入れてほしい、というわけか」


「はいっ」


 見事な甲冑を着たゼル・ミドルーラは頭上を見上げながら言った。そうでもしないと巨人の顔が見えにくいからだ。巨人は頭を下げてはいるが、それでも普通の大人よりも背が高い。


「アールとか言ったな……」


「なんでしょうっ」


 もう仲間に入ったつもりでいる巨人、アールは目を輝かせながら言った。それに対してゼルは冷ややかな目だ。隣にいるきれいな服を着た少女、パツィも同じく冷めた目だった。


「その……申し訳ないが、期待に答えることはできそうにない。だから……」


 遠回しに断っているつもりだったが、あいにくと人間社会で暮らしたことがないアールには通じなかったらしい。残念そうな顔つきになったが、気を取り直して次にこう言ったからだ。


「騎士になるため、何でも特訓しますっ。今すぐでなくてもいいですから、おれ、いや僕を旅に連れていってくださいっ」


 騎士になる。その言葉を聞いて、ゼルとパツィは唖然とした。だいたい種族によってなれる職が違うということをこの巨人は知らないらしい。それなのに、この巨人と来たら大まじめだ。本気で騎士になるつもりだ。


「ちょっと待ってっ。巨人って確か格闘家しかなれないんじゃ……、うぐっ、なにすっ」


 ゼルの手がパツィの口をふさぐ。いきなり口をふさがれたパツィは言ったらいけないことを言ったと感じたらしくおとなしく口を噤んだ。


「はぁ……、わかったよ、アール。仲間になってもいい。けどな、あまり期待するなよ」


「えぇっ! こいつを仲間にすんのっ?! なんでっ?!」


 手を払いのけ声をあげるパツィ。非難めいた彼女の言葉にも関わらず仲間になってもいいという言葉だけでアールは嬉しくなってきていた。


「あ、ありがとうございますっ」


 かくして巨人アールは騎士になるため、本物の騎士であるゼルのパーティに(無理やり)加わったのだった。




 ところが幸先はよく進まなかった。というのも、街を護衛する兵士がなかなかアールを中に入れようとしなかったからだ。絶対暴れない保証はどこにもない、と信じ切っている様子だった。


「たとえ仲間であろうとも、野蛮な種族は入れてはならないのでありますっ」


「ど、どうして俺が野蛮だって……」


 言い返そうとしたアールを制止したゼルが代わりに答えた。


「それもそうでした。ならば、コイツをここに待機させておくというのはどうでしょう」


 言い終わるやいなや、兵士たちの顔がみるみる青ざめていった。いつ何時暴れてもおかしくない巨人を待機させておくなど正気の沙汰でない、と考えているのは明らかだ。


「も、申し訳ありませんでしたっ。そいつを常時見張っているという条件で中に入ってもいいですっ!」


「ありがとう。じゃ、入らせてもらおう」


 



 ようやく街の中に入ることができたアールたちだったが、それでも困難は続きそうだった。アールの存在がどうしても目を惹いてしまうのだ。アールは身をかがませたが、それ自体は何の役にも立たず、かえって人々の視線を集めることになった。


「ねえ、ゼル。こいつのせいで私たち変な意味で目だってるよ?」


「……まあ、な」


 パツィのあからさまな言葉にアールは傷ついたが、それは本当のことだった。アールの一挙手一投足が周りの人達の不安をあおっているのだ。それもそのはず、街中ではあまり見かけない巨人が鎧を着た男ときらびやかな服装の少女の後をついて回っているのだから。




 ようやく落ち着いたのは午後のことだった。市場で食べ物を買ってきたパツィが広場で食べようと言いだしたのだ。


「だって食堂の中に入ろうにも、コイツは入れないじゃない」


「まあ、外で食べるのも悪くないかもしれないな……」


 ゼルは外で食べることに少し難儀を示した。今まで食事を外で食べたことがなかったのだから当然だろう。それに対しアールは外で食べることの何がいけないのか、ちょっとわからないようだった。


「外のうまい空気が吸えるなんていいことじゃないか?」





 運よく騎士であるゼルのパーティに入れたアールだったが、その一方でアールたちの知らないことが起きていた。アールたちが来た街、ディレルに一人の不審者が忍び込んでいたのだ。見た目がひょろひょろしているその青年は目に異様なきらめきを放っていた。手にはナイフを持っている。その視線の先にはパツィがいた。


「……あのデカ物がちょっと邪魔だが、隙を見計らってかっさらうとするか……」





 ふと視線を感じ後ろを振り返るパツィ。その視線の先には薄暗い路地裏があるがそこには誰もいない。


「どうしたんだ?」


 その行動に疑問を持ったゼルがパツィに聞いたが彼女は慌てて首を振った。


「ううん、気のせいみたい。誰かいたと思ったんだけど」


 確かにパツィの指さす方向には誰もいない。念のためゼルが路地裏へ行って頭上を見上げた。そこには誰もいないはずだった、が。


「それで隠れているつもりか。相変わらず懲りない奴だな、スカイ」


「……おっと、バレてしまったか。ちょうどいいや。あの嬢ちゃんをくれよ」


 誰もいないはずの路地裏から声がしたかと思うと急にその声の持ち主が姿を現した。頭上の壁に張り付いているスカイと呼ばれた青年はいとも簡単に地面に着地した。


「誰がお前みたいな盗賊にあの子をやるものか。俺んちの財産を盗もうとして散々衛兵に追いまわされた腹いせか?」


「ちげぇよっ! オレはただあの子がかわいいなーって思っただけだぜっ」


「どうだかな。今すぐここで縛り首にしてもいいが、それでは俺の家名に傷がつく。そこで、だ……」


 しかしゼルはその次の言葉を言えなかった。パツィが大きな声を張り上げたからだ。


「ちょっと! 何してんのよっ! ゼルッ! 早くコイツを止めて!」


 声がした方向をゼルが振り向くと同時にスカイはまた姿をくらましてしまった。が、そのことも気にならないことが目の前で起きていた。狭い路地裏にアールが入ろうとして身動きが取れなくなっていたのだ。


「何してるんだよ! お前はっ! パツィはこいつを見張ってなかったのかっ!?」


「見張ってたわよっ! ただまさか路地裏に入るなんて思ってなかっただけ……」


 二人が言い争っている間にも、アールは抜け出そうとしてうんうん唸っていた。しかしもがけばもがくほど深く食いこんでいった。


「おれはただ、ゼルを助けようとしただけで……、そんなことよりも速く助けてくれよっ」

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