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歴史改竄(3)

 さて、最低限の数字が出たところでもとに戻りますが、仮に1941年頃の陸軍は、ソ連に対抗した徹底した近代化により3単位制の25個師団に改変されたとします。

 兵員数で言えば、若干動員(徴兵)を強化したとして30万人程度ぐらいとします。

 兵隊の数が足りませんが、師団の三分の一ぐらいは予備師団とするからです。

 何しろ日本には、大軍を維持するお金がありません。

 

 25個師団のうち10〜12個師団が満州に駐留し、平時状態の師団となれば、その駐留兵力は20万人近くなります。

 当然、この時点での日本陸軍の主力という点は動かないと表現できます。

 

 そしてノモンハン事変の頃(1939年春)は、この世界の陸軍改変の過渡期にあたり、満州に有力部隊が少しずつ増えている頃になるでしょう。

 戦車部隊も機械化と師団増設に平行して、3個連隊ではなく3個旅団(倍増)ぐらいになっているでしょう。

 ファンタジーを強くすれば、第一混成旅団が師団規模になっているかもしれません。

 

 ただこの程度の数など、五カ年計画を何度か推進したソ連軍にとっては、鼻で笑うほど弱小な戦力に過ぎません。

 腐っても露助は陸軍国です。

 しかも史実日本の戦車は、対戦車戦闘はほとんど考慮してません。

 このままノモンハン事変にもつれ込んだらどうなるか、想像するにも及ばないでしょう。

 

 なにしろ1941年夏の時点で、ソ連軍は日本軍を恐れたとは言え、30個師団も極東に配置してますからね(騎兵や戦車旅団など含めるともっと凄い数字になるし、第一軍の名を冠した精鋭部隊までいる)。

 

 まあ、史実と同じように、日本海軍にビビッてグルジアの髭野郎が大きく出る事はないでしょうが、モンゴルの辺境で日本を少し懲らしめる事ぐらいは、政治目的という意味から史実以上に考えるに違いありません。

 当時のソスターリンにとって、日本はそれなりに恐れるに値する敵です。

 

 そして、いっぽうの日本陸軍は、一部の者を除いて自らの不利を確信しています。

 だから、史実以上に防衛的な考えになって、過剰反応する事も十分予測できます。

 何しろ日本陸軍です。

 

 だから、日本が満州全土を勢力下に治めているという前提条件が存在すれば、ソ連の思惑によりノモンハン事変もしくはそれに類する国境紛争が起きる可能性は極めて高いでしょう。

 過剰反応も世の常です。

 

 そして、ソ連としては政治的、経済的に意味のある場所での大規模紛争はしたくないでしょうから、満蒙国境という場所は、実に目的に合致した場所ということになります。

 

 そして史実と同程度の戦力を双方が集中したとすると、日本側が戦略的に敗北するのは動かないと思います。

 

 21世紀に入ってからの資料公開と研究により、ソ連赤軍の犠牲がかなり過小に報告されていた事などが知られるようになりました。

 ですが、絶対数での損害量は、ストラテジーレベルではそれ程重要ではありません。

 結果として、ソ連軍が要所を占領していたということの方がはるかに重要です。

 

 そして数万の車輌を短期間に集中できるソ連赤軍と、鉄道がなければ数百キロ先に一個師団送るのも苦労する日本軍との間に戦闘が発生すれば、戦略的勝利がどちらに転がり込むか、もはや問うまでもないでしょう。

 昨今の研究は、奮闘した兵士達への鎮魂歌という心理面でのファクターを無視すれば、大戦略レベルでは負け犬の遠吠えに過ぎません。

 

 兵器や技術レベルでは、ここでの敗戦の教訓が後の戦争で大いに役立てられていたらと、思わずにはいられない事ばかりです(それなりに役立てられたが、結局は後手後手となった)。

 

 そして、政治的にノモンハン事変に敗北したという状況が出現したら、日本としてはドイツとの不可侵条約により後方の安全を確保したソ連が満州を本格的に占領しようとしていると「予測」するのが自然です。

 

 ここから急速に満州偏重の軍備建設が一時的に始まり、ロシアとアカという二つの脅威に直面した日本政府も、外交、軍事の双方が近視眼的に対ソ防戦に傾く筈です。

 

 なお史実では、ノモンハン事変の敗北で北進論が弱まり、南進への呼び水になったと言います。

 ですが、ここではそもそも南進する理由がないので、「北進論」が「北守論」とでも呼ぶべき物に変化するとします。

 

 また、この間米英が外交的な無茶を行わない限り、日本政府が譲歩する可能性も極めて高いでしょう。

 共産ロシアと本格的に敵対する以上、米英との関係を悪化させるなど帝国の敗亡につながります。

 


 そして日ソ対立激化という状況で、日本に違った意味でアプローチを掛けてくるのが英国、いや我等がボス、チャーチル閣下です。

 

 ウィンストン・チャーチルは、ヒトラーを倒すためなら悪魔とでも手を結ぶと自ら語り、しかも誰はばかることのないアンチ共産主義者でした。

 さらに言えば、典型的な白人的人種偏見の持ち主です。

 嫌いな順番は、並べた通り。

 ファシスト、ボルシェビキ、カラー(イエロー)の順です。

 

 もっとも、チャーチルは第二次大戦勃発時点で首相ではありません。

 しかし、戦時に非常に強い影響力を発揮した彼が英国政府を裏で動かせば、いまだ何となく国連に属したまま巨大な軍備を抱え、共産主義との対立姿勢を明確にしている日本に注目するのは、架空戦記上において自然な成り行きといえるしょうか。

 

 しかも日本政府も、米英との協調路線は取りあえず維持したいと考えています。

 何しろ自分たちの生存と懐がかかっています。

 

 だから、君も連合国っていうバスに乗らないかと誘い、できればこれに乗っておきたいという政治的環境が作られるのが、二枚舌な英国外交と無定見な日本外交の結果発生する最も高い可能性の一つでしょう。

 

 しかし日本側は、自らの思いはともかく、ソ連と対立状態にあって欧州の戦争どころでないと、参戦にはなかなか傾かないでしょう。

 が、これも史実と同じように欧州髭対決が始まった時点で、グルジアの髭はしばらく味方になるので問題も解消してしまいます。

 

 ここでようやく日本が連合国として戦争に参加する環境が整えれられるのです。

 

 時に1941年6月末といったところでしょうか。

 

 本来なら、そろそろ「海軍補充計画」を追わねばならないのですが、しばらくこの世界の第二次世界大戦を見ていきましょう。

 さて、史実日本とここでの違いは、箇条書きにすると以下のようになります。

 


・国際連盟に属したまま(しかも常任理事国だぜ)

・親米英路線堅持(まあ、いつもの無定見の結果だがな)

・軍部独裁にはならず(でも国内に不満分子はいっぱいだ)

・大陸での戦争はせず(したいが、それどころじゃないぜ)

・ドイツとの同盟なし(まあ、せいぜいソ連と潰しあってくれ、影ながら応援だけするぜ)

・第二次ロンドン会議に参加(オレって優等生〜)

・第二次世界大戦は、途中から連合国側で参戦(もう、言うことなしって感じだろ!☆)


 ではこの前提から、1939年9月以降を考えてみましょう。

 

 まず、日本が連合国の敵でないなら、アジアにある欧州列強の過半の軍事力が早期に欧州へと向かうでしょう。

 特にイギリスの抗戦能力は、史実よりも高くなります。

 独ソ戦開始以後のソ連極東軍も、開戦と同時に欧州に向けて全て振り向けられるようになるでしょう。

 なにやらドイツ人は大変そうですね。

 

 イタリアなんて、北アフリカで初戦に追い出されるぐらい叩かれてそうです。

 何しろ、開戦前から北アフリカにいる英国の戦力は多そうですからね。

 

 そして、別に米英の仲が悪いワケじゃないから、アメリカからの支援は史実通り、いや日本との対立が史実より小さければ、結果として史実以上に欧州に肩入れしているでしょう。

 お金儲けにもなりますから、アメリカがやらない理由がありません。

 

 今回の想定の場合、アメリカの参戦によって終戦時期がいつになるかという程度の誤差しか生せず、アメリカ参戦による誤差しかドイツ敗北の時期に大きな問題はない筈です。

 しかも今回は、1941年夏以降に日本軍が戦列に加わるのですから、ドイツ何するものぞというところでしょうか。

 

 ただ、日本が1941年夏の時点で連合国に参加したとして、どのぐらいの兵力を遠く欧州に派遣できるでしょう。

 また、派遣するでしょうか。

 


 1941年夏の時点で、日本は列強第三位の海軍、25個師団の自称精強陸軍、そして有力な空軍部隊を持つ一大軍事力を持っています。

 

 単純な表面的軍事力なら、平時イタリア軍の五割り増し、崩壊前のフランス以上といったところでしょうか。

 これに何だか妙に勇猛果敢で優秀な日本軍将兵と、無尽蔵に供給されるであろう米英装備と物資を加味すれば、当社比200%の戦闘力を短期間なら発揮してくれそうです(長期間でないのがミソですね(苦笑))。

 

 しかも今回の日本は、財政は比較的健全で経済も内需拡大と戦争景気により好調。

 工業基盤の整備も一定段階を越えつつあるるので、史実の五割り増しぐらいの重工業力が存在すると想定します。

 しかも、戦争景気で、工業力は再び計数的拡大を見せています。

 

 国家財政の面でも、戦後を考えた場合でも2年程度の総力戦には十分耐えられる筈です。

 その上、戦争景気により税収は増大するので、それ以上の数字も見えます。

 

 しかも第一次世界大戦同様戦争当事者ではなく、米英の機嫌を取るための単なるお手伝いだから、それほど極端な派兵や戦費は必要ありません。

 兵器や兵站の多くも、米英からせびってやればいいのです。

 レンドリース万歳、ルーズベルト万々歳です。

 

 そしてお手伝いという前提で、遠く欧州に兵力をいくら程度派遣できるかと考え、さらに戦時動員と交代の事を考えると、平時戦力の三分の一ぐらいの派遣が当面の妥協ラインとなってきます。

 

 少し具体的な数字をあげれば、戦艦、大型空母各2〜4隻程度を中心とした2個艦隊と陸海合計1000機程度の各種航空機。

 そして戦時編制の1個方面軍(9個師団程度)の陸軍力。

 直接的な後方要員を含めて、総数50万人といったところでしょう。

 

 なんだか、数字だけ挙げてみると、これだけでパスタ野郎ぐらい単独で相手にできそうです。

 

 しかし50万人の遠距離派兵ということは、交代要員と本国での支援のため、国内を含めて100万人程度の動員を行う必要があります。

 しかも、年々英米ソから増加派遣の要請が来るでしょうから、派兵規模は膨れあがるでしょう。

 

 つまり、史実との数字を比べると、限定的総力戦態勢という数字が見えます。

 そして本格的に総力戦を行わない国内では、安全な生産拠点という利点を最大限に活用して、生産力の拡大と貿易に奔走してもらいます。

 第一次世界大戦時の拡大再生産といったところです。

 

 ソ連とは、援助と共に資源とのバーター取引で、シベリア鉄道からじゃんじゃん製品を送り込みましょう。

 ロシア人なら多少質の悪い製品でもいくらでも使ってくれるはずです。

 どうせ練度の低い俄仕立ての赤軍兵士なら、何を使ってもあまり変わりありません。

 彼らにとっては数こそが全てです。

 何しろ、バッファローにムスタングを手もなく落とされるような奴らです。

 

 欧州列強とも、資源と交換で色々作って送りつけましょう。

 また欧州の戦場では、技術レベルの劣る日本軍は、米英からモンキーモデルで良いので兵器と技術の供与を受けましょう。

 とりあえず、日本と日本軍に足りないものを、できる限り補充してもらいます。

 もちろん軍事に関連する工業技術の習得も忘れずに行いましょう。

 儲けたお金でアメリカから工作機械や、できれば工場をラインごと買っちゃいましょう。

 

 数万の将兵と百億の戦費を人身御供に出さねばなりませんが、それ以上のものが日本列島にもたらされる筈です。

 


 でまあ、ドイツが世界中からタコ殴りにあって倒れるまで、史実と同じタイムスケジュールとして、日本参戦から約4年。

 

 その間日本は、それなりの軍事力を派遣して、それなりに活躍して、それなりに儲けて、それなりに重工業力と技術力も高めて、それなりにアングロ勢力下での国際的役割を果たしてという、実に日本らしい四年間を過ごすのが一番ありそうな状況でしょう。

 

 一点突破でない限り、全てが「それなり」こそが長期間で見た場合の日本のあるべき姿だと思います。

 これについては、戦後日本も変わらないと思います。

 一極端に走った末の末路として、第二次世界大戦とバブル経済が例となるでしょう。

 極端な方向に走れば一時の輝きを作り出せるかもしれませんが、日露戦争のような幸運はそうそう起きるものではありません。

 


 そして廃墟となったドイツで握手するであろう米ソが政治的に対立を始め、この対立が深刻になるまでにかかる時間が、最短で約3年です。

 

 また、アメリカほど健全な財政や経済状況にない日本で、戦後不況が深刻になるのが米ソの対立が本格化する頃になるでしょう。

 しかしこの間のアメリカは、主に欧州での覇権確立に強く傾くので、ルーズベルトが存命でない限りアジア政策がおざなりとなる可能性が高くなります。

 そして日本としては、鳥無き郷のコウモリよろしく不況を脱すべく様々な手を打たなくてはなりません。

 

 そして、その為の環境は存在します。

 

 さて、何をしましょうか。

 

 ドイツでの火事場泥棒? まあ、それはデフォでしてきたいですが違います。

 

 一番安直な手段が、満州の完全な独占ですね。

 次に、泥沼の内戦をしているであろうシナ中央への本格的進出でしょうか。

 今回の想定のシナ大陸は、日支事変がないので国府軍は沿岸部の資本家層が健在で、共産中華は日本軍侵略による混乱がなく大きな勢力拡大が形成できないので、勢力的にはせいぜいドングリの背比べ状態です。

 両者の争いに付け入れば、かなり勢力拡大できそうです。

 

 いっぽう最も妥当な線が、戦前戦後に発展した工業力と安価な労働力を活かした外需拡大路線ですね。

 そして穏当かつ最も健全な方法が、大戦前から引かれた内需拡大路線(満州含む)です。

 

 反対に最も危険なのが、この世界でもインドなどが独立しているので、これらを裏から後押ししてオレ様中心の大東亜共栄圏作っちゃうぜ路線になるでしょうか。

 ヤンキーとジョンブルが怒り狂うこと請け合いです。

 


 でまあ、もっとも穏便な日本が内需拡大で細々と10年ほど頑張って、これがうまくいけば1950年代中に本格的な高度経済成長が訪れるという路線を歩むのでしょうが、果たしてどうなるでしょうか。

 

 日本が穏当に発展すれば、基礎技術力と工業力が上昇し、その後独自の核戦力を保有した地域大国に変化して万々歳でしょう。

 これで大戦争する事もあり得ません。

 核兵器開発以後は、地域覇権国家となった日本帝国と日本軍が存在する世界を加えた、私達の世界とそれなりに似た状況が訪れるであろうという路線になる筈です。

 

 なにしろ、日本は元々反ロシア、反共国家です。

 アングロ同盟がソ連を次なる敵とした時点で、手を組み肩を並べて歩むのが大人の外交というものです。

 

 ですが、順調な内需拡大のために必要な資金を得ようとすると、加工貿易による外需拡大路線もしくは大量の外資受け入れです。

 おそらく、必ずどこかでアメリカとの経済摩擦が発生します。

 そこから日本による軍事力を伴った大陸やアジア進出という膨脹外交に傾けば、米ソ冷戦構造の中での日米戦争という笑うに笑えない状態が出現します。

 

 そして日本がソ連と裏でも表でも、本気で同盟を結ぶという可能性が歴史的連続性から極めて低くなります。

 また、戦略的(国力、軍事力、核戦力)優位がアメリカの手にある状況を加味すると、アメリカに適度に叩かれたところに裏口からロシア人が乱入し来て、日本が飲み込まれる寸前にヤンキーが弧状列島に乗り込み、史実から5〜10年ほど遅れて史実と同じ状態で極東情勢が固定化するという未来が強く見えてきます。

 

 結局これが、日本単独でのたうち回った場合に行き着く政治的なゴールなのでしょう。

 歴史のレールは、そう簡単に全てを変更できるものじゃありませんからね。

 

 歴史の流れの強さは生半可じゃありません。

 


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