電車を待ついつもと変わらない風景
いつもの電車が来るのを待つため、いつもの駅のホームのベンチに座る。
日々過ぎていく日常…いつもこのベンチから眺める風景。様々な人が行き交うその場所は、毎日の様に変化をつけていくはずなのに、実は案外何も変化していないことを私は分かっている。ーーー
隣に座るのは人なのかも分からない背丈は私と変わらない黒い塊
何かに絶望したのかいつでも線路へと飛び込める用意をしている猫背気味な中年のサラリーマン男性
何日間食べていないのだろうか、骨と皮だけ痩せ細った犬
線路の中には無数にある腕達
ホームの向かい側、ゴミ箱と自動販売機の間に体育座りで座る男の子…少し変わっているのは両足を片腕でだけで包んでいる所か…もう片方の腕はだらんと力なく床に垂れていた。
視線を下におとしてみる、私の目の前では胸を押さえゴロゴロと左右に転がる女性がいる。…知らない男から包丁で胸を何箇所も刺されたと悲鳴混じりに訴えかける…
とりあえず赤い液体が鞄につかない様にと私は膝の上へと鞄を抱える。
私の座るベンチの後ろからバタバタと音が聞こえてきた。後ろに視線をうつす…
電車にはねられた時の一部だろう、おそらく男性ものと思われる下半身だけが声に出せない絶叫を表現する様に足を交互にジタバタと動かしていた。
そろそろ電車が来る頃か…
ベンチから立ち上がり、扉位置を示す白線の上に立つ。
ふと背中に気配を感じて、私を後ろを振り向いた。
ニタニタといやらしい笑みを浮かべ、汚らしく見窄らしい老婆が両掌を私に向けいつでも押せる体勢をとっていた。
コイツガイツモワタシノカラダヲオシテクルヤツカ…
電車が近づいて来るのを目だけで確認し、タイミングを見計らいながら、老婆の髪と汚い服を掴んで線路へと放り込む。
キーーー
けたたましく響く電車のブレーキ音
何かがぶつかる音
足元にベチャッと落ちてきた眼球…
ざまあみろと心で答えながら踏み潰してあげた。
電車の扉が開く頃だ…早く電車に乗って帰らなケレバ……
………
「お嬢さん!お嬢さん!大丈夫!!」
誰かにかけられた声に反応し、私はゆっくりと目を開けた…目の前には心配するように私を見つめる二人の駅員さんと中高年の女性の姿だった。
私はゆっくりと身を起こす。
「君、電車を待つ途中、急に倒れたんだよ。大丈夫?どこか身体痛いとかある?」
「いえっ大丈夫です。ありがとうございます。多分貧血を起こしたのかもしれません。」
「服装からして学生さんだね。受験勉強とか部活の疲れがきたのかな?無理しちゃ駄目だよ?…意識回復したみたいだけどどうしようか救急車呼ぶべきか?」
「いえっ心配ありがとうございます。とりあえず今日はお母さんに事情を話して迎えにきてもらうことにします。」
鞄に入れたスマートフォンを取り出すと親に電話をかけ、車で家に帰ることとなったーーーー
日々過ぎていく日常、疲れからくる貧血で倒れてしまったあの日以外は、またいつもと変わらない電車を待つために座ったこのベンチから見える日常の風景が変化もなく続いていた…
いや…あの日から少し変わった事があったっけ…
電車の到着するころにたつ、扉位置を示す白線の上。
前まで毎日のように誰かに押されていた気がするのに、最近ではそれを感じなくなっていた。




