「緊張した」
最初の部屋に戻った瞬間、俺は床にへたりこんだ。
緊張した。
まじで緊張した。
職員室のドアを開けるより一億兆倍緊張した。
心臓のある場所に手を当て震えながらうぁぁ…と呻く俺を見てアーサーは楽しそうに笑う。
「なんで笑うんですか」
「いや、ほらリツ立ってください。こっちに椅子があるし、疲れているなら隣の部屋にベッドもありますよ」
他人事だとおもって。
このイケメンが。
「アーサーさん」
名前を呼ばれたアーサーは明るい表情でこちらを向く。
「アーサーでいいですよ」
「いやそれは流石に…」
初対面ですし…と続けようとすると、それより先にアーサーが言う。
「リツはしばらく俺と一緒にいることになりますから、無駄な遠慮はやめておきましょう」
しばらく一緒に?
不思議そうな表情の俺を見て、アーサーは続ける。
「危険か否かを判断するまで俺がリツを見るようにと王が仰せでしたから」
そういえば、そんなことを言っていなくもなかったような気がしないでもない。
緊張しすぎてほとんど聞いていなかった。
あれってそんなに長い期間のことだったのか。
「…アーサー」
「はい、なんでしょう」
アーサーが緑の瞳を向ける。
「『至高の剣』ってなんですか?」
俺が言うとアーサーは少し照れくさそうに笑う。
「あれは俺の称号というか、ふたつ名です。『至高の剣』という称号をいただきましたが、俺なんてまだまだで」
そう言うと、腰に提げてある剣の柄を少し撫で、凛とした表情になる。
「いつかはその名に恥じない剣士になります」
なろうと思う、なるつもり、ではなく「なります」と言い切ったアーサーに、俺は強さを感じた。その意志の強さに素直に感銘を受ける。
「ところでリツ、疲れていますか?」
唐突に変わった話題に、俺はすこし戸惑う。
「いや、まだ大丈夫です…」
「そうですか、なら聖女のもとに行きますか?」
聖女。あの少女。
あの少女の顔は、少しは明るくなっただろうか。
別れ際の悲しそうな表情を思い出すと胸が痛む。
「はい、お願いします」
「わかりました」
では、と言って手を差し出すアーサー。
一瞬なにかわからなかったが、そういえば移動は魔法で行うということを思い出し、俺はアーサーの手を握った。