これが魔法。
外に出ていくつか分かったことがある。
ひとつ、塔はいくつもの壁に囲まれていて、出るにも入るにも手間がかかるということ。きっと侵入者避けだろう。
もうひとつ、外の風景からして、ここは日本ではないということ。地平線が見えるほどに広い草原。おそらく現代日本にこんな平地は残っていない。やはりここは異世界だと考えていいだろう。
…これ、どうやって移動すんの?
徒歩?いやそれ何時間かかるんだ。
俺がぽかんとした顔をしていると、アーサーが微笑んで俺を見る。
「《ディクス》は使えますか?」
「…え、と」
でぃくす。何語だろう。使えるとは。
俺の頭にはてなが浮かんでるのが見えたかのように、アーサーは俺に説明してくれる。
「空間移動の魔法です。…わかりました、俺に掴まってください」
俺が戸惑っているのを察知したアーサーは手を差し出す。そして握手するようにその手を握ると、アーサーが何かを唱えた。
アーサーの手から熱を感じる。と、次の瞬間視界ががらりと変わっていた。そこは豪華なインテリアの部屋だった。
「うわ…」
魔法だ!魔法じゃん!すごい!
生まれて初めて見る魔法に俺は驚きと興奮を隠せなかった。そんな俺を見てアーサーは堪えていた笑いを漏らす。
「初級魔法ですよ。珍しいですか?」
「生まれて初めてですね」
そう言うとアーサーは驚いた表情になる。
「魔法を見たことがないんですか?」
「ええ、今日が初めてです」
「…失礼ですが、あなたはこの世界の人間ですか?」
確信をついてきたな。
本当のことを言っていいのかと迷っていると、アーサーが続ける。
「大丈夫。リツが聖女様の味方なら、俺はあなたの味方です」
信頼、してもいいのだろうか。
少女は特に隠せとも言うなともなにも言っていなかったし、なによりこの状況で味方がいないのは心細すぎた。
「俺はあの子に召喚された、異世界の人間です」
俺自身がこの状況を分かっているわけではないので、説明が大雑把になってしまった。
「…なるほど。聖女様が呼んだとしたら、きっとリツはこの世界に必要な人間なんでしょう」
アーサーがあっさり受け入れてくれて、安堵の息を漏らす。と、そのとき。
「アーサー様、陛下がお呼びです」
ドアから入ってきたメイド服の女性が言う。
…陛下って、王様ってやつ…!?
すごい、ここファンタジーの世界じゃん…!
でも待てよ王様って、俺疑われてる?
証人尋問みたいな…?
そこまで考えて、俺は身体がこわばるのを感じた。その様子を見たアーサーは、俺のほうをみて笑う。
「大丈夫、俺に合わせてください。うまくやってみせます」
ああ…ありがとうアーサー…!
おれはアーサーの存在に全力で感謝する。
「さてじゃあ、玉座の間に行きましょう」
そう言うアーサーの後ろについて、俺も歩き始めた。