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「またね」

「アーサー、このひとは敵じゃないわ」


少女がアーサーと呼ばれた男に、不安そうに言う。すると男は無表情から一転し、口もとに笑みを浮かべて話す。


「聖女様がそういうなら、そうなのでしょう」

…案外あっさり受け入れるんだな。

しかし緊迫した空気を崩すことはせず、男は続ける。

「わたしの名前はアーサー・ルイス。この国の騎士団長です」

騎士団長。その役職の割には、男はとても若くみえる。おそらく三十にもなっていないであろう。そしてなにより顔の整い方が異常だ。現代日本ならなにか世界的な俳優だといわれても不思議ではない。

「君の名前は?」

男は俺に尋ねる。

「…大和律月といいます」

「ヤマトリツ?」

アーサーは不思議そうな顔をする。きっとおかしな名前だと思っているのだろう。

「それではヤマト、すこしわたしと来てください」

アーサーの言葉に、少女は戸惑ったように言う。

「アーサーそれは」

「大丈夫です聖女様。すこし城に来て話をしてもらうだけです。危害は加えません」

そう言うアーサーの顔からは敵意は感じられない、ように見える。おそらく俺が襲いかかったところで返り討ちにする自信があるのだろう。赤子の手をひねるように。


「わかった。でもその前に少し時間をちょうだい。このひととふたりで話したいの」

「…わかりました。では部屋の前で待っています。あまり長くなりすぎないよう」

「ええ、ありがとう」


アーサーが部屋を出ると、聖女と呼ばれた少女は不安そうに俺を見つめる。

「ごめんなさい。わたしが呼んだばっかりに、あなたを困らせてしまった」

それな。ほんとうにな。

俺は出かけた言葉を飲み込む。

「…ここではあまり大掛かりな魔法は使えないの」

そう言う少女の手に、ちいさな光が集まる。そしてその光は俺を包み、そして消える。

「あなたに光のまもりを授けたわ。これが少しはあなたを守ってくれる」

少女は俺をまっすぐ見て、すこし微笑んで言う。

「わたしはあなたをなんて呼べばいい?」

どこか懇願するような声で、少女が尋ねる。

「俺は律月。リツでいい」

少女が微笑む。

「リツ。綺麗な名前ね」

「きみの名前は?」

そういうと少女は俯いた。

「わたしに名前はないの」

「…名前がない?」

どういうことかと聞こうと思ったそのとき。


「聖女様。そろそろ」


アーサーが戻った。おそらくこれ以上は許されないのだろう。後ろにはさっきの鎧の男たちが立っている。

「アーサー、リツはこの世界に必要な人物です。用向きが終わったら必ずここに戻してください」

「わかりました。…大丈夫です。悪いようにはしません」

そう言うとアーサーが俺を見る。

「さあ行こう」

アーサーの後に着いて歩こうとしたとき、後ろから少女の声がした。

「リツ、またね」


少女のか細い声が、そう言った。

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