俺が、勇者に?
「異世界、転移…?」
目の前の少女は相変わらず笑顔で目を輝かせている。
歳は俺と同い年くらいだろうか?
白く艶やかな長い髪。
肌もまた白く、水色の瞳が映えている。
ただ気になることといえば、彼女が檻の中に入っているということだ。
俺の呟きを聞いた少女の顔から笑みが消える。
「異世界?」
少女の顔がこちらを向いたまま少しだけ曇る。
「もしかしてあなた」
そう少女が言いかけたとき、後ろから大きないくつもの足音が聞こえた。
「侵入者はお前か!」
現れたのは灰色の鎧を着た大柄の男たち。
いったい何が起こっているんですかねぇ…?
展開のはやさに着いていけずにいると、少女が今までとは違う声で話す。
「落ち着いてください。わたしは無事です」
落ち着いた、威厳のあるとも感じられる声。
そして屈強そうな男たちが、少女に頭を下げる。
「このひとはわたしが召喚しました」
「聖女さまが…!?」
「はい。この世界を保つには、不可欠な存在なのです」
ざわめき俺を見つめる男たち。
戸惑う彼ら、だがそれ以上に俺は戸惑っていた。
なんだそれ。
まさか俺、
---異世界転移で勇者になった…!?---
なんてことだ。
驚いているうちに、話はどんどん進んでいく。
「すこしふたりにしてください」
「ですが、まだこいつが聖女さまに危害を加えないとは…」
「大丈夫です。さがってください」
不承不承といった表情で、鎧の男たちは部屋を後にする。
そして少女は不安げな表情で俺を見る。
「あなたはもしかして、異世界のひと?」
「多分、地球とか日本じゃなければ」
そう答えると、少女の顔はいっそう歪んだ。
「ごめんなさい、わたし…わたし、酷いことをしてしまった」
事情は全然わからない。
しかし、少女が悲しい顔をしているのは心が痛む。
「俺は…」
「聖女様」
気付くと、後ろに金髪の男が立っていた。
鎧を着ているが、さっきの男たちとは全然違う、ひと目で高級だとわかるものだ。
「アーサー…」
少女が言う。恐らくこの男の名前だろう。
アーサーと呼ばれた男は、感情の読めない顔でこちらを見ていた。