6話 初クエスト
『シン様、先程はすみませんでした』
申し訳なさそうに頭を下げながらリリーが言う。
『リリーは悪くないし、それに実際こっちは何もしてないだろ?』
『御気遣いありがとうございます』
もともと俺は人間だ。だから何となく人のルールや空気を読むことができる。
でもリリーは違う。
リリーは竜だ。
そもそも種族が違う。
そういった意味でこの人間界の暮らしはリリーにとって理解に苦しむ事が多いだろう……。
だからこそ人間の生活や決まりをこれから知ってもらはなければいけない。
『今後の方針として、まずむやみに人に喧嘩を売らないでほしい。俺は争い事を好まない。出来る限り平和に解決したい。そのためにはとにかくこっちの事情を詳しく知る必要があるんだ。分かってくれるかい?』
『はい、わかりました』
シュンとしてしまった。
『まぁ誰も怪我をした訳じゃないし、今回は俺も良い勉強になった』
リリーの頭をポンポンと触る。
俺は女の扱いに馴れてない。
こういうときにどういった対応をしていいのかか分からない。
こんな時こそ旨いものでも食べに行きたいのたが、そもそもそのお金がない。
早急になんとかしないといけない。
このままだとそうこういってる間に夜になってしまう。
リリーの気持ちも何とかしたいが、まずそちらを優先しないといけない。
『リリー、悪いんだけど……今日泊まる宿も飯代もない。早急にお金を作らないといけない。仕事が出来る場所を知らないかい?』
『はい、シン様。確か人間界には冒険者という仕事があるハズです』
『その手があったか。じゃあそこで仕事を探そう』
さっそく俺たちは冒険者組合に向かった。
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ギルドはとても簡素な造りだった。
木造造りの壁は所どころ穴が開いており中から外が見えているほど薄い壁で組み上がっている。お世辞にも良い建物とは言えない。奥にはカウンターがあり受付嬢らしき人物がおり、その横の掲示板には討伐依頼書のようなものが何枚か張り付けてある。
『活気がないしボロボロだな……』
冒険者はギルドを出てしまっているのか誰もいない。大丈夫かこのギルド……。
受付譲と目が合う。
やば……、今の聞こえてなかったよな。
『ハンターギルドへようこそ』
目が合うのを待っていたかのように声をかけられた。
『初めてなんだ。ギルド登録をしたい』
『ありがとうございます、冒険者登録ですね。では、こちらの書類に記入をお願いします』
俺は簡単に受付を済ませる。
『このギルドはいつもこんな感じですか?』
受付嬢は少し顔色を変えて答えた。
『はい、最近の魔獣は非常に強く、討伐の難易度が上がり何日もかかる依頼が増えています。それと若いハンターの討伐失敗が続いています。そのためこの町の若いハンターはずいぶん減りました』
だからこんな人がいないのか。
『なるほど、では今一番被害が出ている依頼を教えて下さい』
『??』
一瞬、受付譲は何か疑問に感じた素振りを見せる。
『被害ですか?でしたら、依頼を受けるは別として被害が一番多く出ているのはこちらになります』
掲示板から一枚の依頼を外しカウンターに置く。
『輸送御者の通り道に出現するジャイアントウルフの群れの討伐です。白金貨五枚になります。しかしこれは……冒険者でも最高位のS級のみが受ける事の出来る依頼なので受けることは出来ません……』
受付嬢が渋い顔をするのは仕方がなかった。シンに言われて取り外した依頼はたがこの街の冒険者には最高A級までしかい。この依頼はギルドの冒険者たちでは達成する事が難しく被害が拡大する一方だった。
『ではそれをお願いします』
『え…?』
受付譲は固まる。
『いや、すみません。この依頼は受ける事が出来ないのです。それとこれはBランク以上の依頼になりますので、今日入ったばかりのFランクのシン様は受けることができません。またさらにこの依頼はグループでの討伐限定になるんです』
なんか色々と縛りがあるな。
とりあえず俺たちはここで当面暮らせる金が欲しいんだ。
ギルドにも当然縛りがある。それは第一に冒険者の死亡を防ぐためだ。そのためギルドではF級ならFランクの依頼、E級ならEランクとFランクの依頼が受けれるという具合になっている。
『そうですか。なら受付は諦めます』
受付譲はほっと胸を撫で下ろす。
『ちなみに依頼を受付をせずに達成したらどうなりますか?』
『七割りが支払われることになります』
もちろん例外もある。
それはたまたま自分たちが狩ってきた魔獣が依頼されていた場合だ。その際はギルドで依頼の六割が支払われることになる。
『わかりました』
ちょこちょこ稼ぐのでなくデカイ仕事で一気に稼ぐ。めんどいし時間かかるからな。性格的に合わない。
『え??いやいやいや!!?お待ち下さいっ!』
受付譲はカウンター横から飛び出してきて俺たちの前に立ち塞がる。
『初めての依頼なんですよね?確実に死にます!死んじゃいますよ?』
『ジャイアントウルフはとても大きいだけじゃなくて賢くスキルも使います。しかも討伐内容は1匹だけでなく推定20匹です。それもグループでも困難な依頼なんですよっ!お願いですから考え直して下さい!』
『ソロのS級冒険者でも討伐は出来ないんですよ!』
半泣きになって受付嬢が止める。
そうか……こうやって一攫千金を狙った冒険者たちの変わり果てた姿を何度も見てきたのだろう……。
『ありがとう。でも大丈夫です。危なかったら引き返してきますから』
『っ!!?』
でも本当に大丈夫。こっちには無敵のエンシェントドラゴンがいるからやられる心配は皆無だ。
最悪、ほんとに危なかったら転移で逃げればいいだけの話だし特に問題ないだろうな。
『でも、あのっ、本当にっ……』
受付譲は涙ぐみなから止めるのを諦めた。
俺はギルドカードを貰い『にこり』と挨拶をしてリリーとギルドを出た。
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